村を防衛せよ!
小生は自分の体に意識を戻すと、即座に立ち上がった。
「どーしたの!?」
「敵が迫っている。幼体ゴブリン75、ヘルウルフ50、ホブゴブリン10、トロル5、オーガ1」
近くで見物していた子供がポカンとした様子で小生を眺めていた。
「お馬さんが……しゃべってる」
あ、しまった。ただの馬を演じるつもりが喋ってしまっては台無しじゃないか。
まあいい。聞かれてしまったのなら開き直るしかない。角さえ見られなきゃいいんだよ~って!
小生は構わず子供に言った。
「そこの君、魔物が襲ってくるからすぐに守りを固めるようにお母さんたちに伝えて!」
「え? あ? うん!」
子供は駆け足で村に戻ると、大声で叫んだ。
「みんなー まものがおそってくるって……お馬さんがいってたー すぐに守りをかためてー!」
「じゃあ小生も、村の入り口まで歩くかな」
小生は村の入り口に立つと、周囲を見回した。
村を守る塀はおろか柵すらもないから、すぐに魔物の攻撃に晒されてしまう。
「小生の得意技を使うかな」
「……」
「……」
気を研ぎ澄ましておよそ1分、周囲に少しずつ霧が立ち込めはじめた。
これはただの霧ではない。小生には周囲500メートルの様子が手に取るようにわかり、かつ敵の視覚だけでなく第六感まで鈍らせる魔法の濃霧である。
そして、小生自身は、霧の範囲内の様子を手に取るように把握することができる。
どうやらこの森林地帯には、ところどころに沼地があるようだ。
大小合わせて、その数はおおよそ70か所。そのうちの半分以上には深さがあり、馬サイズの生き物でもすっぽりと隠してしまう。
「どうやら、小生とこの森の相性は……かなり良いようだ」
2分が経つと、肉眼では15メートル先が見えなくなった。もう一息だ。
2分半。これほど濃くなると目のいい人間でも8メートル先が見えればいい方だろう。
ちょうど500メートル以内に先ほど戦ってきた人と魔物が入った。そろそろ迎撃するか。
「行くよ、グラディウス」
そう声をかけたとき、グラディウスは困り顔で言った。
「カッツ、この子たち……魔物と戦いたいって」
視線を向けると、まだ13、4歳という様子の少年少女4人がいた。
「お願いだユニコーンさん! 俺たちも力になりたい!」
「せっかく暮らせる場所を見つけたんです!」
「……もう、魔族に怯えて……暮らしたくない」
彼らの防具は、古びた衣服とズタズタの靴。
持っている武器は、錆びたナイフや木の棒といった感じだ。
レベルは、高く見積もっても5以下だろう。幼体ゴブリンにやられても不思議ではない。
しかし、彼らは駄目と言われても戦うと言わんばかりの目をしている。こういうまっすぐな子を見たのは何年ぶりだろう。育ててみるとおもしろいかもしれない。
「こぶし大の大きさの石を……そうだね。最低でも10個は拾ってきな」
「わかった!」
小生は若者たちに指示を出しながら、背中の翼を2本射出した。
このガラスのような翼には、1枚1枚に小生の人格がコピーされている。彼らは自ら考えながら霧の中を飛び、敵の前衛部隊であるヘルウルフや幼体ゴブリンを薙ぎ払いはじめた。
まずは機動力があって、村人の脅威となる存在を倒すに限る。
【幼体ゴブリン、ヘルウルフたちからのお願い】
「お、オデたちのデバン……もうおわり?」
「わん、ワンワンワンワンワン!」
「まじで!? オデ……一言もしゃべってないゾ?」
「トウメイなへんなのに、ぐさ……でおわりだもんな」
「ワワンワンワンワンワン!」
「つーか、カッツバルゲルを見ることもなかったよな」
「あっさりしてたな~ さすがやられやく」
「ワワワワン、ワンワンワンワン!」
「じかいは、まっさおになるオーガ」
「……」
「……」
「あのこわいボスもザコあつかい……なのか?」
「……」
「…みたいだな」
「こほん、こーこくバーナーの下にある☆☆☆☆☆を★★★★★にしてくで」