伝家宝刀の包囲戦術
「お父さん、貴族たちはゴブリンとどう戦うと思う?」
そう聞いてみると、コンドコソトレルは即答した。
「包囲戦術だろう。彼らは1000いる騎馬隊を500ずつに分けて、両翼に据えているからな」
「ゴブリンは……いつもの力押し?」
「そう見て間違いはないだろう。ゴブリンパラディンの出す号令は基本的に、行け、飯だ、寝るぞ……しかない」
少年少女4人と、元行商人の少女、グラディウスは一斉に引きつった顔をした。
「そんなに、ざっくりしてるんですか?」
アレンが問いかけると、コンドコソトレルは頷いた。
「ああ、ゴブリンパラディン自身の知能は高いからな。分かりやすい命令しか部下は解からないことを理解しているから、その3つの号令を上手く使い分けているのだろう」
「な、なるほど……」
「り、理解できました」
「おーい、ユニコーンさまー!」
これはコマドリのロビンの声だ。
「どうしたんだい?」
「貴族部隊の両翼が、ゴブリン部隊を取り囲んでたぜ。これはもう人間側の勝ちだな!」
「敵は中央を突破しようとしてくると思うけど?」
「中央には重戦士がしっかりと守りについてるし、後ろには弓隊とお貴族様たちも見守ってる。ありゃいくらゴブリンナイトやパラディンでも落ちないよ」
「な、なるほど……」
「やはり、人間側が一枚上手だったか」
「そうそう、仮にも騎士様がゴブリンなんかに負けるはずないよ」
少年少女たちが頷き合っていると、カラスの声が響いた。
「た、大変だー!」
「どうした!?」
コンドコソトレルがカラスに目を向けると、彼は息を切らしながら枝に止まった。
「森に伏兵がいました!」
「ゴブリンに伏兵だと!? 馬鹿な……」
「いいえ、出てきたのは……人狼隊、ワーウルフとビックウルフの集団です!」
思わず、「そんなバカな!」と小生は叫んでいた。
「人狼は昼間は人間のはずだよ。狼になることは……」
「事実です!」
コンドコソトレルは険しい顔をすると、唸るように言った。
「狼人間が、狼化するには月夜か……それに準ずる魔力があればいい」
グラディウスはすかさずロビンに言った。
「ロビン、戦況を……!」
「言われなくてもそうするよ!」
ロビンが飛び去った後に、小生は「は、そうか……!」と呟いた。
「オーガの軍団の中に狼たちがいた。その出所をしっかりと調べていれば、こうなることを予想できたかもしれない……」
その一言を聞いたコンドコソトレルは、小生以上にしまったと言いたそうな表情をした。
「……」
「父さん?」
「……うっかりしていたな。私もお前に編成を聞いておけばよかった……」
狼獣人隊に弓隊を襲われた諸侯連合軍は、大混乱に陥った。
機動力に勝る狼獣人隊は、高名な貴族や騎士を次々と討ち取り、狼獣人隊とゴブリン隊に挟み撃ちにされた歩兵たちも次々と倒れ、人間側は大きな痛手を負うこととなった。
そしてこれは、小生たちにとっても、決して他人事ではない事件だ。
このツーノッパ北東部の平原が抑えられたということは、小生たちの村は人間の村々と完全に隔離されたことになる。




