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ツーノッパ開戦の前に……

 ロビンの話から3日後の夜。小生は村の外れで横になっていた。

「そこは、敵が襲ってきた時に、真っ先に狙われる場所だよー」

「そこがいいんだよ。敵もまさか、こんなところで寝そべっているとは思わないでしょ」


 そう言いながら寝転がると、蜂の巣箱が視界に入った。

 この村をひとつの城と考えたら、小生が転がっている場所が城門前になり、蜂の巣箱は矢倉、巣箱と小生の前にある畑は、二の丸と言ったところだろう。


「手が空いたら、正面に立派な城門を作ろうか?」

「いいねー!」

 グラディウスもニコニコと笑いながら、柵代わりのイヌバラやアザミを眺めた。

「せっかくだから、空堀もあるといいよねー?」

「空堀? いやいや、小生がいるんだからきちんと水を張らないと!」


 やはり組んだのがグラディウスで良かったと思った。普通の女の子にこんな話をしても乗ってこないもんな。

 そう思っていた時、遥か遠くから悲鳴のようなものが聞こえてきた。

「な、なーに……今の声!?」

「行け……!」

 小生は声の方向に向かって翼を2枚放った。

 自慢の小生の分身たちは夜空に飛び上がると、樹木と空のすれすれと通りながら強硬偵察を行った。


 およそ数分で、離れた場所から魔物の叫び声が聞こえてきた。

「ギョヴァー!?」

「はふご!?」


「やっぱり……魔物がいたんだ」

 グラディウスが言うと、小生も黙って頷いた。



 およそ10分ほど待機していると、小生の翼に導かれながら女行商人が姿を見せた。

 行商人と言っても、手押し車があるわけでも牛馬を伴っているわけでもなく、野菜の入ったカゴを背負って市場に売りに行く出稼ぎ少女という雰囲気である。


「危ないところを……ありがとうございます」

 この時にはグラディウスはニンフの恰好をしており、微笑み返した。

「運が良かったですねー」

 小生は鼻を鳴らした。もう少し精霊らしく威厳を出せないものか。


「12の時から野菜売りをやっていますけど、こんなところでゴブリンに遭遇するなんて生まれて初めてで……驚きました」

「どうやら、ゴブリンパラディンが戦争を企んでいるようですー。だから、手下のゴブリンたちは食料を集めようとしていたのかも……」

「そ、そうだったんですか!? 私は世間のことには疎くて……」


 小生は視線だけを向けると、グラディウスはわかっていると言いたそうにアイコンタクトをしてきた。

「とにかく、戦争が収まるまでは……家にいた方がいいと思いますー」


《彼女が持っている食料は欲しいな。もし売ってくれるのなら対価は何が欲しいか聞いて》

《わかった》

 女行商人は、気落ちした様子で「はい……」と答えると、背を向けようとした。

「ちなみに、そのお野菜は何と交換ですかー?」

「そうですね。銅貨が一番ですが……腐らないものなら物々交換も歓迎です」

「では、ハチミツと交換は?」


 女行商人は、目を丸々と開いていた。

 どうやら、この驚き方だと相当な高値で取引されているようだ。もしかしたら、小生たちユニコーン以外はまだ蜂蜜を養殖する技術を持っていないのかもしれない。


「わ、私が持っているのは、主に去年収穫して保存した豆類と玉ねぎです」

 少し自信がないのか、声のトーンが下がった。

「そ、それから……陶器もあります。下手ですが……」

「蓋のできる陶器はありますかー?」

「あ、あります!」


 彼女は小さめの陶器を出すと、グラディウスは容器の半分程度まで蜂蜜を入れて女行商人に手渡した。

「これで、他の作物と陶器全部と交換……ということでどうでしょー?」

「は、はい……十分です!」


 グラディウスは言った。

「外には、別のゴブリンたちがうろついているかもしれません。夜が明けるまで、ここで休んで行かれるといいでしょう」

 女行商人は、恐縮した様子で頷いた。


 しかし、この行商人が家に帰ることはなかった。

 東側の空が白みはじめたとき、何と山の一角から火の手が上がったのである。

「あ……あれは!?」

 口に出してしまったと思ったが、女行商人は小生が喋ったことなど耳に入っていない様子で、その方角を眺めていた。

「あ、あそこは……私の家!」


「家族の人は!?」

 グラディウスが尋ねると、彼女は首を横に振った。

「父は私が5つの時に、母も2年前に亡くなったので……今は私一人です」


 ほっと息をついたのも束の間、小生の射出した翼の1つが炎上する民家からゴブリンたちが出てくるところを捉えた。

 どうやら連中は、行商人の家にあった食料を根こそぎ奪ったようだ。


「今は……あちこちで、こういうことが起こっているのかも……」

 グラディウスの一言を聞き、小生は下唇を噛んだ。

【ツーノッパの養蜂技術】

 ツーノッパ地域では、南部のハミ半島で古代から巣箱を用いたハチミツ栽培がおこなわれていますが、カッツバルゲルたちが行っているような近代養蜂の技術までは確立していません。


 すでにカッツの故郷では、バスタードが遠心分離機や重箱を開発していますが、人間たちにその技術はなく、蜜を取る際に巣を壊しているので、ハチミツは高価な食べ物になっています。

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