ツーノッパ諸侯連合軍の遠征
5月も中盤になると、作物もすくすくと成長してきた。
「ムギもソバもイモも、いい感じに育ってました」
レベル21になった少年少女のリーダーがやってきた。
彼の体にはたっぷりと筋肉が付き、持っている武器が即席の木剣でもサマになっている。
「アレン、なかなかたくましくなったね」
「そうでしょ。いや~ここまで努力するのは大変でした」
今の彼らなら一般兵士として十分にやっていけるだろう。だけどこれくらいで満足してもらっては困る。
「そろそろ君も魔法を使ってみるかい?」
「え? 俺も使えるの!?」
彼が嬉しそうに自分に親指を向けると、小生は頷いた。
「君は風の精霊と相性がいいみたいだから、多少のことなら教えられるよ」
「ぜひ、是非お願いします……師匠!」
小生は沼地を見ると言った。
「じゃあ、ウインドナイフを教えようかな」
「それって、師匠がオーガの手下を半〇しにしたヤツですね!」
「いやいや、ウインドナイフという魔法は風属性の中で最下級の魔法さ。基本的には敵の弓使いや魔導士をけん制するために使う」
「そ、そうなんですか……」
「まずは姿勢を楽にして」
「は、はい」
「自然体で、心を落ち着けて」
「はい」
「鋭く前を睨んで……」
「よー!」
この声はロビン。
ツーノッパコマドリの彼は、おもしろがる様子で枝で羽根を休めていた。
「お弟子さんに魔法を伝授か。さすがはスーパーユニコーンさま!」
「……いい加減にしないとお前を標的にするぞ」
ロビンと小生は、少し慣れ会うと本題に入った。
「今日もまた、何か困ったことがあったのかい?」
「今回は、ちょっと寄っただけなんだ。ただ……」
「ただ……どうかしたのかい?」
ロビンは珍しく真顔になった。
「お前らはしばらく、ここで引きこもってるのか?」
「まあ、そうだね」
「その方が賢明だろうな」
「というと?」
「実はな、このツーノッパ地域の諸侯が団結して、魔族討伐に乗り出したんだ」
隣にいた青年アレンや、奥の方で蜂の巣箱を眺めていたグラディウスも、驚いた様子でロビンに視線を向けた。
「つまり、人間と魔族で合戦するということかい?」
ロビンは頷いた。
「ああ、今回のお貴族さんは気合入ってるぞ。何せ騎兵1000、歩兵5000だからな」
「対する魔物側は?」
「噂じゃ、ゴブリンの王が各地に点在する同族に出陣命令を出したって話だ」
「……数だけは集まりそうだね」
ロビンは不気味に目を光らせた。
「兵の質で勝る諸侯連合が勝つか、それとも数の暴力に軍配が上がるか……?」
「こればかりは、結果を見るまでわからない」
「そういうこと」
どうやら、決戦の日は着々と近づいているようだ。
【作者からのここだけの話】
このツーノッパの世界では、各地域で最も力を持っている貴族が国王を名乗り、他の貴族が従属する形で国家を作っています。
そのため、王様の権力はそれほど強くはなく、貴族たちが嫌がれば戦争はできない事情があります。
逆に今回の場合のように、貴族たちから強い要望があれば、王様も求心力を強めるために討伐命令を出すこともあるのです。
ちなみに、貴族たちも独立精神も強く、よく王国から離反して内紛を起こしています。




