カッツバルゲルの父親登場
「師匠ー!」
「どうしたんだ……いっ!?」
少年少女たちの中で、一番レベルの高い子が走ってきた。
「黒毛の立派なユニコーンが、師匠のことを探していました」
彼の後ろに立っているユニコーンこそ、小生の父親コンドコソトレルだ。
毛並みは小生にそっくりな黒毛で、水色の角は1メートル近く、ガラスのような翼が6枚。小生よりも一回り小さいけれど、貫禄があるせいか大きく感じる。
「……お父さん!」
「え……?」
一番レベルの高い子は、コンドコソトレルを見てから、再び小生を見た。
多分、小生が若馬だったことに驚いているんだろうな。
《147レベル!?》
《読者の皆さんにバラさないでよ……秘密だったのに》
《ああ、すまない》
彼は巣箱をじっと見ると言った。
「養蜂か。この辺りは蜜源植物も多いからいいハチミツが取れそうだな」
「うん。小生もそう思う」
ところで、シッポン諸島にいるはずの父親がなぜ、世界の果てと言えるツーノッパまで来たのだろう。
「ところで父さん。この地域に来たのは旅行 それとも……?」
コンドコソトレルは、やや難しい顔をしながら言った。
「旅行なら……よかったのだがな」
小生は間をおいてから聞いた。
「ということは……もしかしてまた?」
彼は頷いた。
「このツーノッパか、たてがみ地方のどこかで悪魔が現れようとしている」
「それって、ヒノミコというシャーマンの占い?」
「そうだ」
その話を聞いて、小生は苦々しく思った。
彼女の占いは当たる。それも悪いものほど高精度なことで有名なんだ。
身近な例だと、小生と妹のスティレットの間に生まれてきた弟か妹が流産することを言い当てていたり、崖崩れに巻き込まれて前のリーダーが亡くなることとか、1年前の大地震の発生まで予想しているから驚く。
「その勢力は……強大なの?」
「それが、ヒノミコもあいまいな言い方をしていたのだ……この地域の有力者が悪魔の意味を捉え違えると、甚大な被害が及ぶそうだ」
つまりそれは、姿すら見えない強力な悪魔なのだろうか。
いや、人間や生き物に擬態していて、正体がわかりづらいタイプかもしれない。
父は小生を見た。
「そこで、お前に聞きたいのだが、先日ここで戦いがあったそうだが……」
「あれは小生も驚いたよ。オーガがいたからね」
「オーガか……ダンジョンの奥地やネクロマンサーの住処など、暗黒磁場の強い所にしかいないはずの生き物だな」
しばらく黙ると、父は小生を見た。
「私はもう少し調査を進めてみる」
「わかった。小生もここでしばらく待機してみるよ」
「それなら、これが役に立つかもしれんな」
父は袋から、茶色い種の入った小さな袋と、肌色の丸いイモのようなものを出した。
「なに……これは?」
「我が故郷に自生する植物だ。小さな種がソバ、肌色の方がヤマイモという代物だ」
「育ててみるとおもしろいかもね」
「ムギにばかり頼っていると、不作になったときが怖いからな」
翼を広げたが、父は振り返った。
「ソバは蜜源植物だから養蜂にも打ってつけだ……ただ、あまりいい香りはしないがな」
そう言い残すと飛び去った。
「師匠のお父さん……凄い迫力でしたね」
案内してくれた子が言うと、小生も頷いた。
「シッポンの民を苦しめていた悪魔や怪物を何体も浄化しているからね」
「そ、そうなんですか……」
さすがに147レベルあれば、父親のレベルも窺い知ることができると思っていたけど、見通しが甘かったようだ。
果たして彼は……何レベルなのだろう……?
【コンドコソトレルの独り言】
ふむ……息子が養蜂を始めるとはな。
あらかじめわかっていれば、蜜をたくさん出しそうな草花をもっと持ってきたのだが……
まあ、とは言っても、菜種ならツーノッパにも生えているだろうし、ミカンは……ちょっとこの辺りの栽培には向かんな。
そういえばレンゲソウも蜜をたっぷりと含むのだったな。土地を肥沃にしてくれる植物だし、今の仕事にひと段落着いたら、故郷に戻って用意しておくか。
ん、そういえば、何かを忘れているような…… まあ、思いださないのだから仕方あるまい。




