002:見学者
私は化学工場に勤めている。交替勤務だ。
普段はそれほど忙しくはないが、死ぬほど忙しくなる事がある。
装置のトラブルや緊急停止といった事態だ。
まぁ頻繁にあることではないし、若い頃は「お前らは緊急時にバルブを回すために雇われてるんだ」と言われていたくらいだ。
何しろ緊急停止してしまったあとは復旧に2週間ほど掛かる。休みなんかは取れなくなるし、強制的に休日出勤させられる。
復旧作業に加えて見回りや日常作業などもあるのでいつもの倍の人数がいても作業が回らないのだ。
給料だけはウハウハなので、たまに入るボーナス位の気持ちでいる。正直割には合わない……。
◇
そんな忙しい時にいつも現れる奴らがいる……。
あれは私が水分析計の確認を行った帰りだ。
水分析計は装置から少し離れた場所にあるので道路を歩くことになるのだが、計器室に戻ろうと道路を歩いている時に気づいた。
炉の外周通路の手すりに肘を掛けてのんびり見てる奴らがいる。
復旧作業員の時間待ちか?と思ったが、何だか様子がおかしい。
ヘルメットをかぶっていないし、着ているものも何となく普段着に見える。
それに大きな違和感として感じるのはその視線だ。
見ているようで見ていない、焦点が合ってないのだ。ある意味怖い。
どう見ても幽霊の類ではある。
思わず立ち止まって見ていると、いつの間にか後ろにいた恩田さんが呟いた。
「……またいるよ、あいつら」
恩田さんにも見えるらしい。この人霊感あるんだな。
「恩田さんにも見えるんですね」
「おぉ。あいつらさ、プラントがトラブったりするといつもいるんだよな」
「いつもなんですか?」
「いつもだよ。知らなかったか?」
「はい」
「……俺さ、思うんだよ」
「何ですか?」
「トラブった時ってさ、フレアーが吹くじゃん」
「はい、吹きますね」
「あれが篝火みたいになってて呼ばれるんじゃないかって」
「そんなことあります?」
「だってあいつら、いつもこういう時いるもん」
「迎え火みたいじゃないですか。お盆じゃないですって」
私は笑いながら答えた。
「こないだの緊急停止の時なんか、全部のフロアにあいつら鈴なりだったぞ」
「マジっすか」
「マジだよ。特等席で高みの見物よ」
フレアーの炎の大きさで数が変わるんだろうか……どちらにしても不可解な話だ。
その後もトラブってフレアーが大きく吹く時にはちょくちょく見かけるようになった。
……今までは単に認識の範囲外だっただけらしい。
いつもはいないのに、プラントに何かトラブルがあってこっちが忙しい時に限って出てくる。
だから『見学者』と私は呼ぶことにした。
いても迷惑ではない、何もしてこないし。
でもな、夜廻りさんを見習って少しは働いてくれ。トラブルの時は手が足りないんだよ……。
まだ彼らはいるようです。
最近立場が変わって見る機会が少なくなりましたが。




