三葉さんを甘やかし隊
「ロルフが25階層から最下層を目指してから3日……ロルフにゃら、最下層に到達しててもおかしくないにゃ」
三葉に菓子を食べさせながら状況のあらましを聞いたミャルガは、口許に肉球をあてて、ふむ、と頷いた。
なお、迷宮25階層から最下層までは、通常の探索者ならば10〜20日、ジェイミーとミャルガが組んで潜っても5日以上は掛かる道のりであるが、その道をロルフが3日で踏破できる事をミャルガは疑っていなかった。
「迷宮の内側から植物が生えて動き出して、各階層の出入り口や階段が崩落しちゃったのね……。それが大体、3時間前の事ですって……」
いつの間にか部屋に来たジェイミーが、何故か来客用の食器を使ってお茶を淹れてくれている。
三葉がやろうとしたのだが、ミャルガとジェイミーの二人に揃って止められてしまった。
なお「お手伝いはちゃんとしてるわよ……?」とジェイミーが微笑み首を傾げる様子を見るに、同時進行で魔術を使って物を運んだり話を聞いたりしているらしかった。
「ガルドルフは、救助に向かうつもりなのね。まずは浅層の探索者を救助するって、既に10名ほどの冒険者が迷宮に向かったみたい……」
「昔は、迷宮で事故なんかあっても自己責任だったけどにゃあ?」
「……んー、……『人的資源』……?とか言ってたけど、よく分からなかったわぁ……?」
長椅子の上で、何故か左右をジェイミーとミャルガに挟まれて温かいお茶を啜る。
ぎゅっとくっつくように二人に挟まれていると、怖い事など何も無いかのように穏やかな気がしてしまう。
「植物……にゃあ……?」
「やっぱり、最下層のアレ……よねぇ?」
「アレ?とは……」
頷き合うミャルガとジェイミーに首を傾げると、二人とも紙に絵を描いて教えてくれる。
なんでも、迷宮の最下層には魔獣はおらず、蔦の張り巡らされた広い空間の真ん中に、木の根の塊のようなものがあるらしい。
「根っこの向こう側には、黒っぽい大きな石があってにゃ。おそらく迷宮の核だと言われてるにゃ」
「おそらく、ですか?」
黒猫はぷるぷると首を横に振る。
「よく分からないにゃ。『精霊力』が時々チラチラ光るから、魔石に近い物質だとは言われてるにゃけど、武器で傷付けようとしても傷付かにゃいし、持ち帰って研究できるわけでもにゃいし……」
「迷宮から出てくる色々な物質は、冒険者の装備を作るのにも役立ってるから……、核に何かあって迷宮が使えなくなっても得が無かったのよね……」
二人の魔術師が同時に物憂げに口許を押さえて嘆息する。
「まぁ……、迷宮が崩落したとにゃると、逆ににゃあ……」
「核がそのままになって、魔獣が生み出され続ける方が危ないかもねぇ……」
「まあ、めちゃくちゃ頑張ったとして、あんな物壊せるのはあいつだけにゃ」
「あの子だけよねぇ〜……」
ため息をつく二人の想定する誰かは、絶賛行方不明である。
しかし、三葉は二人の態度で気付く。
おそらく、この状況の原因である何かに、ロルフは一番近い場所に居て。
この二人の冒険者は、今でも彼がその原因の解決に尽力していると信じて疑わないからこのような態度なのだ。
「でも……、あの子がどうにかできてたとして、3時間は長いのよねぇ……」
「あいつは力押し速攻型にゃし、大体瞬殺だからにゃあ」
ちらりと顔を見合わせた二人の冒険者は首を傾げる。
「『迷宮崩落』は……『魔獣暴走』より高位の大災害よねぇ……」
「街が……下手したら国が、地図から消えるだろにゃ」
「はぁ……、休む暇も無いわぁ……」
なにやら不穏な会話を残してジェイミーが立ち上がる。
「ねぇ、ガルドルフ?……魔導バイクでデートしましょ?」
「やっとその気になったか。早く来い」
部屋の扉が開いて閉まるまでのわずかな間に聞こえた会話に、三葉はわけが分からぬまま呆然としていた。
その三葉の隣で、ふかふかの黒猫がかわいい肉球お手々をぴょんと上げて、みゃあんと笑う。
「ミャーは寝室に連れてって欲しいにゃ!」
……何故?
お茶のカップを両手で抱えたままの三葉の疑問は声にはならなかった。
真剣に書いてるんですが、温度差で風邪ひきそうですね。




