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『魔法要塞』の恋

「救助隊を結成する!手の空いてる冒険者を掻き集めろ!」

回復ホーリー系は、こっちの部屋で戻ってきた探索者の怪我を診てあげて!」

「状況説明できるやつは迷宮内部がどうなってるか聞き取りさせろ!こっちの部屋だ!……いや、お前は怪我を治してから来い!あっちだ!」


「……みゃぁあ……?」


 ミャルガとジェイミーがギルドの扉を潜った時、内部は騒然としてギルド員はあちこちへ駆け回っていた。


にゃにがあったにゃ……?」


 耳と尻尾をピンと伸ばして周囲を眺めたミャルガは、各部屋に必要な物資を運び込んでいる壮年のギルド職員を見つけた。

今にも倒れるかと思うほど顔色が悪かった。


「タカニャリ!どうしたにゃ!?」


そのギルド職員ーー三葉へ駆け寄ったミャルガは、薄いガラスの装飾品越しに大きく瞳孔の開いた焦茶色の目を向けられて、直感的にまずいと思った。

恐怖と混乱に支配され、憔悴した人間の顔だ。


「ーーガルドルフ!ガルドルフ!ちょっとタカニャリ借りるにゃ!!……タカニャリ、荷物は置いて、ちょっと来るにゃ!」

「ーーいえ、でもーー、僕……ダメです、はやく、……早く助け出さなくては……」


 腕を引いても首を振って動こうとしない三葉。

ミャルガはギッと歯噛みした。


「ミャーが助けてやるから、全部任せて、こっち来るにゃ!!」


 なんだか状況も分からないのに豪語する。

しかし、『魔法要塞』たる彼にはそれだけの事を言える実績が充分にあった。


「荷物は……、ジェイミーが運んであげる。……大丈夫よ、ちゃんとお手伝いしてあげるから」


ふわりと笑ったジェイミーが短杖タクトを振ると、三葉の抱えていた医療品の箱が宙へ浮かび上がる。

 透けるように白いジェイミーの手で目元を撫でられた三葉は、それでようやく息を吐く事を思い出したようだった。


「ミャルガ……、ミャルガ、助けてください……、お願いします、僕、……僕は何もできなくて、それが、……こんなに、悔しいなんて……」


 普段はふわふわと細まる綺麗な飴色の目が、くしゃりと眇められて、隙間からボロボロと透明の雫が溢れて落ちた。

細くて骨っぽい腕が、手が、ミャルガのふわふわの被毛をギュッと抱きしめる。


 夢の中を除いては、こうしてギュッとされるのは初めてだなぁ、とミャルガは思った。

タカノリがこんな風になるなんて、理由は聞かなくても分かった。

どうせあの不遜な『金色狼』がどうかしたんだろう。


しょうがないなぁ。


ミャルガはため息を一つついて、三葉の背中を柔らかい肉球でぽふぽふと叩いた。

ついでに濡れた頬っぺたにミャルガのふわふわ頬っぺをすりすりした。

役得という気が無くはないけれど、こうしてやると人間は落ち着くのをミャルガは知っているのだ。


「タカニャリの大事なもの、ミャルガが助けてやるにゃ。全部守ってやるにゃ。大丈夫にゃ」


 ミャルガを抱きしめたままの三葉が、ミャルガの肩口で大きく頷くのが分かった。

 肉球で濡れた頬に触れて顔を上げさせると、まだ潤んだままの綺麗な焦茶色の目がミャルガを映していた。


「よし、あっちの部屋で少し座るにゃ。状況も聞かせてにゃ」


まだ体温の低い三葉の手を両手でくいと引くと、先程まで頑固にしていた壮年の男は子供のようにこくりと頷いて手を引かれるままについてくる。


(ミョルニルはああ言うけど、やっぱり好きなものは好きだな)


 ミャルガには、好きになるのに損得とか、自分を好きになってくれる相手かどうかとか、好きな理由とか、そういう難しい事はちょっと分からなかった。

でも、顔を見たら幸せになってしまうし、困っていたら助けてやりたいし、それで助けて嬉しそうにされたら、やっぱり胸がきゅーっとなって嬉しくなってしまうのだ。


そりゃあ、ミャルガを選んでくれたら良いのにと思いはするけれど。


ミャルガを選ばせるために相手を困らせるのは、あんまり楽しくない。


「……ミャルガ?」


 部屋について、扉を開けながらタカノリが首を傾げる。

そんな仕草もやっぱりかわいい。


「んみゃ、タカニャリは、そっちのフカフカの椅子に座るにゃ。ミャルガはこっち」

「でも、ミャルガ、こっちは来客用だし、僕が座るのは……」

「じゃあ、お隣でミャーと一緒に座るにゃ!」

「えっ、う……?」

VIPミャーの接待でタカニャリがお隣座るにゃら、問題無いにゃ?」


 先に長椅子型のソファへ腰掛けて隣を肉球でポフポフ叩くと、赤い顔で困ったように頬を掻いた三葉がおずおずと隣へ腰掛ける。


……チョロ過ぎて心配になるなぁ……。


 弱っているとはいえ易々(やすやす)と丸め込まれた壮年の男に、ミャルガはこっそり瞳孔をミョンと細くして目をしぱしぱさせたが。


……ま、いいか、ミャルガ困らないし。


 この状況でそんな事を指摘するほどお人好しではないもので。


「それで、状況はどうなってるにゃ?迷宮ってチラリと聞こえた気がするにゃけど、ロルフにゃら迷宮攻略ごときでどうこうなるとは思えにゃいけど……」


 そのまま『夢見カバン』から取り出した飴やら菓子やらを三葉へ与えつつ肉球で白髪混じりの頭をポフポフと撫で、ミャルガは事情聴取を開始した。

最近、いいねボタンや評価ボタンがページのすごく下の方にある事を知りました。


こんな「押そう」と思わなければ押せないような場所にあるボタンを押していいねや評価をしてくださる皆様に、改めて多大なる感謝を申し上げます。

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