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見逃してもらいたかった

「……???」


 目を開けたミツバは、状況を認識し損ねて、少し考えて、諦めてもう一度目を閉じ、それから我に返ってまた目を開けた。


 そこは赤と黄色と茶色の世界だった。


「あったかい……?」


 三葉の記憶の中では寒さを伴う暗闇に身を置いていたはずだった。

 現状を把握できず、彼ーー三葉孝則はキョロリと周囲を見回した。

 見回しただけではよく分からなかったため、腕をついて身体を起こそうとした。

 それでようやく、自分が土と葉っぱに半分以上埋められた状態だったということに気付いた。

 正確には地面に穴を掘り、そこに落ち葉を敷き詰めその上に寝かされ、更にその上から大量の土や葉っぱをかけられたような状態だった。


 誰が水辺で凍えるおじさんをこんな状況にさせるというのか。


「すごく親切な人がいたんでしょうか……?」


 人間を土に埋める行為を親切というのかという疑問を三葉へ投げかける者は、そこにはいなかった。


 落ち着いて周囲を見ると、そこは三葉が意識を手放した水辺のほとりに違いなかった。

 日が昇ったのか光の入った森の中は意外なことに、紅葉した木々がひしめき水辺には色とりどりの花が咲く、美しい場所だった。


「こ、こんな場所で死にかけてたんですね……」


 夜にはてっきり地獄かそれに準ずる何処かだと思っていたのに、一夜明けた今では天国に見える。


「いや、天国だとしても、たどり着いていたら僕は死んでますね」


 どのみち現実的ではないという事に気付いた三葉は、そっと諦観に目を閉じた。

 見た目が明るく天国のようになったところで、水辺の向こう岸は見えないし、森の先も見通せない。

 どちらへ向かえば良いのか分からない時点で途方に暮れるというのに、さらに困ったことに、どうも土に埋まった下半身が抜け出せそうにない。


どうしてこんなにガッチリ埋められてしまったのだろう。


 地面から生えたまま仰向けに横たわる三葉は、親切な人かも知れない誰かの意図が分からず青い空をしばらく見上げて陽の光を浴びる以外、何もできる事が無かった。


「……親切な人ではなく、僕に恨みがある人ですか?」


 どこの誰とも知らない親切な人(?)へ向けて、三葉はそっと尋ねてみた。

もちろん返事は無かった。


✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎


 半分地面に埋まったまま途方に暮れていると、後ろの方でガサガサと木々を掻き分ける音がした。

 それで三葉はようやく、この森に動物がいる可能性に思い当たった。

それが鹿やらウサギやらなら別に構わないのだが、何か獰猛な生き物だったりしたらどうすれば良いだろうか。


ガサ…ガサ……


例えば狼とか。あるいは熊とか。


ガサ…ガサ……


遠くに影が見えた。どう見てもウサギのような可愛らしい大きさではない。

狼ですらない。


ガサ…ガサ…ガサ……


大きな影が大きな手で藪を左右へ掻き分けて進んでくる。

影が近づいて来るにつれて、パキン、パキン、と枝を払うような音も聞こえて来る。

つまり大きな爪か何かで、高い位置の枝を払える獣ということだろうか。

まさか熊なのか。きっと熊に違いない。

恐怖にゾワゾワと鳥肌が立つ三葉である。


(熊に遭遇した時の対処法って、なんでしたっけ……)


木に登る……のは、下半身が土に埋まっているので無理である。

大きな音で脅かすというのはどうか、と考えはしたものの、手元に残っているのは眼鏡だけ。声では食べやすい人間だと思った熊が逆に襲って来るかも知れない。


(もう残り、これくらいしかないですね…)


 ぱたり、と土と葉に埋まり直し、息を殺して死んだフリをする。


(これ、本当はうまくいかないという話も聞いたことがあるんですが……)


 頭からガブリと齧られたらどうしよう。

想像するだけでも恐ろしい。

 背中に冷や汗をかきながら必死に息を殺していた三葉は。


むぎゅっ。


「うぐ。」


大きな影に思い切り踏みつけられて、あえなく悲鳴を上げた。



 死んだふりをするならばもっと黙る努力をしなければいけなかったと、三葉は後になってから思った。

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