転位者 立木弘樹
少年の名前は立木弘樹15歳地味で目立たない少年だ。
高校受験前だというのに彼はため息ばかりつく。
趣味はゲームぐらいだろう。
少年はいつも思っている。
ゲームの物語の主人公は強く、優しく、そして格好いいのでモテる。
今の自分とかけ離れた存在。
もし自分も物語の主人公だったらどんなに楽しい事かと妄想を膨らます、強い力、仲間(女)。
でも自分は変われない。
羨ましいと思うほど自分が悲しくなる。
部屋でくつろいでいると声が聞こえた。
「女性の声?」
自分以外家には誰もいないはず……「泥棒?」と少年は警戒する。
『あなたの願い叶えましょうか?』
「え?」
不気味な現象が起きている。自分の目の前が歪み歪んだ空間から何か出てくる。
「初めまして、弘樹様」
「!!」
現れたのは大人の女性。髪は金髪で民族衣装の様な服を纏い、女神かと思う程の美貌に少年は釘付けになる。
少年は驚きながらも問いかける。
「…誰だ?あんたは?」
女性は答える。
「申し遅れました。私の名前はジュネス。弘樹様をお迎えに参った次第です」
ジュネスと名乗る女性は優しく微笑み答える。
「僕を?」
(ジュネスと名乗る女性は僕を迎えに来たらしい……何故?)
「はい。変わりたいと願う弘樹様の願望が私を呼び寄せました。」
「呼び寄せた?」
「はい!そしてあなたの望む世界はあります」
そう言うと女性は少年の手を掴み引き寄せる。
「ちょっと!」
年上の美人な女性と話した事も手も繋いだ事もない少年はドキドキしている。
歪んだ空間にジュネスが入っていく、そして自分も空間に引き寄せられる。
空間を抜けるとまばゆいばかりの異空間。
ジュネスは優しく少年に言う。
ここは僕は憧れた剣と魔法の世界だと。
僕に勇者になって救って欲しいと。
ジュネスは僕に装備をくれた。
剣と鎧と盾、そして僅かばかりの資金。
ジュネスが言うには今は何の能力はないがレベルアップすれば装備に特別な力が付くらしいと。
この時の彼は憧れた世界に早く行きたくてしょうがなかった。
「力を貸して頂けませんか?弘樹様!」
ジュネスは少年に懇願する。
「分かりました」
少年は答える。願ってもない事だと。
「弘樹様、私は、いつでもあなたを見守っています」
「それでは行ってきます」
まばゆい光を抜け転移したのは森の入り口。
「街を目指しながらレベル上げにスライムでも倒そうと森に入ってみるか」
しかし何もでてこない…。
更に奥に進むと何かいる…狼だろうか?
全身を灰色の毛でおおわれている、まぁ最初はあれでいいだろうと狼に斬りかかる!
振り下ろした剣は狼にヒットする。
よし!と思った。
狼は簡単に倒した。
なんだ簡単じゃないかと少年は思う、どんどんモンスターを倒してレベルを上げよう!。
狼を更に倒し少年のレベルは上がった。
少年はレベル2に上がったとステータス画面に表示される。
(最高だ!!)
少年は自分がレベルアップして強くなった快感に酔いしれる。
ドロップアイテムや、この世界での金貨であろうゴールドを次々と手に入れる。
レベルをある程度あげたところで町を目指す。
町に行けばギルドがあるだろう。
そこに登録して正式に依頼を受けよう。
きっと安い宿屋もあると思う。
(僕の冒険はここから始まるんだ)
少年はこの時そう思っていた。
…あんなオッサンに会うまでは……。
出発の前日、迅は会社の送別会を受けていた。
迅の成功を祈って乾杯!!と注がれたジョッキ生を合わせ乾杯をする。
先輩方から飲め!飲めと酒を強要される。
迅は酒は好きではない、付き合いで飲む程度だ。
明日は異世界に行かないといけないから控えたい気持ちもあるが今日は、とことん飲みたい気分だった。
タフな為、酔いつぶれ事は滅多にない。
(先輩方は酔いつぶれるまで飲むだろう……先輩方といっても40、50代のオッサン達だが)
社長は飲むと説教をする。
いつも本当にうっとおしいと感じていたが、おそらくこれが最後の説教だろうと言葉を待つ。
「迅よ。元気でやれよ…」
迅が社長と呼んだ男の説教は最後の日はなかった。
酔いつぶれるた社長達に何度も頭を下げた後、迅は自宅に戻り荷物を纏める。
(明日は自分の命日かもしれない…)
……明日が来るのが怖い…。
そう思うと不安が押し寄せてくる。
事前に相手の情報は得た。
相手は自分の半分の人生しか生きていない少年、“立木弘樹”
話し合いで済めばそれでいいが問題は戦闘をせざるを得ない場合。
相手はどんな能力を使ってくるか分からないだ。
しかし拳を握りしめて決意する。
“…必ず連れ戻す…。”
眠れない夜を無理やり寝て起きた早朝、迅はタクシーで立木弘樹の住んでいる家の近くの公園で瑠衣と会う。
「おはようございます滝崎さん」
「おはよう」
迅は彼女から事前に渡された『結び石』と呼ばれた2つに割られた石を荷物から出す。
1つは赤く輝く石。
もう1つは青く澄み渡る石。
この石は過去『神隠し』に合い、なんらかの理由で帰還する事が出来た者が持っていた物だ。
罪人となったその者が言うには、それで異世界を渡り歩いたらしい。
どの神が罪人となった彼に渡したかは分からない。
一説には渡した神は女神で彼女に惚れていた彼は彼女を守る為、口を割らないとか、ささやかれている。
真相は分からないが、分かっているのは罪人となった彼が、まだあの世で責め苦を受けている事…。
二つの石の効果は赤い石が異世界の扉を開く事が出来、青い石は異世界に行った場合、この世界にある赤い石と共鳴して異世界とこの世界を繋ぐ事が出来るらしい。
「では赤い石は私が預かります」
彼女に赤い石を渡す。
本来自分達が異世界に関わる事もマズい。
しかし異世界の扉は偶発的に開く事もあるらしい。
そこに巻き込まれた人間がそちらの世界に迷惑かけては申し訳ないと思い、その人間を連れ戻す為やむを得ず、そちらの世界に行ったと言うのが我々の言い訳だ。
もし他の世界に神が干渉しているなら“神は人が生きる別世界に干渉してはならない”というルールがあるのだから神も自分がやりました!なんて認める訳にはいかないだろう。
「さて行くとするよ…」
迅はそうつぶやくと彼女は彼女は赤い石をかざす
彼女達は非常に鼻が利く。
迅達の種族は長年人間社会に住んでるとのニオイが薄れ、だんだん人間のニオイに近づいてくる。
そうすると人間と見分けがつかなくなってしまうのだが彼女達はごく僅かなニオイでも区別出来るらしい。
本当に犬のような嗅覚だ。
彼女のその能力の応用でどの世界の神が関わったか調べ主に報告し探り当てた。
関わっているとされるのはジュネスという女神。
「ではジュネスの世界の扉を開きます」
そういうと空間が歪み扉が開く、迅を歩を進める。
「滝崎さん」
彼女が迅に話しかけ呼び止め彼女は更に続ける
「一度石を使ったら次に使えるのは12時間以降です」
『結び石』は12時間置きに1度しか使えない。
開いた扉に入れるのは2人まで。
「分かってる」
「では、お気をつけて」
彼女の言葉を聞いた迅は開いた扉に入る。
目の前の白く輝く光を目指す。
「参考書である程度知識は入れたんだ…」
迅は参考のため読んだ本を思い出す。
(確か中世の世界だったな…読んだ本は…)
言葉の通り足を踏み入れた異世界もまるで中世だった。
さて人捜しといこうとジュネスの世界へ進む。
「……剣と魔法の世界ねぇ……。ハハ……。魔法は無い物ねだりかい?立木弘樹君」
参考書を読んだ時、参考書にはたくさんの種族が出てきた。
迅は思い出す。
人間世界と直結した迅の故郷では毎日たくさんの人間が送られてきた。
罪人は世界中の多種多様な人種が送られてくる。
その罪人達は悲しみ、苦しみ、後悔の声をあげる。
毎日毎日その声を聞く内に多種多様な人種の言葉を理解してきた。
自分は人間として生きているが人外の者だ。
(この世界にも多種多様な種族がいるのだろうか…?)
そんな事を考えながら『結び石』で転移した迅は町を目指していた。
まずは情報を集めなければならない。
しかし最大の問題は言葉の壁であろう。
何せここは異世界なのだから…。
早朝から昼過ぎまで何時間も歩いた後、町が遠くに見えたので町を目指し平地を歩く。当然現代道路のように整備もされていない。
迅は標的の立木弘樹の写真を眺める。
迅の住んでる隣町に住む中学3年生。
身長は165センチくらいで細身の体型。
父親は単身赴任、母親は昔に他界している。
5日前から行方不明となっており彼の叔母が捜索願いを警察に出している。
この仕事が選ばれたのはおそらく一番最近の事件だからだろう。
同胞にも警察関係の者もいるのでそこから事務官に通じ迅のところに情報が来た。
いろいろ考えていると町が見えたので入ってみるが、この町は門番はいないらしい。
「……この町に奴はいるだろうか?」
軒並みに店が並び声をあげている。
ここは人間の町らしく見かける人間は自分達と変わらなかった。
防寒用に外套を作ってもらった。
瑠衣より中世異世界ならこれを着ていればいいらしいと言われた。
(……こんな格好で変人扱いされないだろうか心配だ…)
町の人達は迅を指差して話などしてはいなかったので迅は安心した。
ーー1つの異変に気付いた。
町で話す人々の言葉が自分達と同じだ。
「……何故だ…?国が違えば言葉も違うはず…」
1つの仮説をたててみた。
石を持っていた罪人は異世界を歩き渡っていたらしい。
ひょっとしたらこの石には翻訳機能が付いているのではないのかと。
答えは分からないが今は町人に話しかけてみよう。
とりあえず人の良さそうな老人に声をかけてみる。
「こんにちは!」
「おや旅人さんですか?こんにちは」
(……やはり言葉は通じる。……この人の良さそうな人にいろいろ聞いてみるか)
「はい、遠い国から来ました。すいませんが、いろいろとお尋ねしたいのですが…」
迅は老人に尋ねてみる。
「あぁそれなら…。」
人の良さそうな老人は他にもいろいろ教えてくれた。安い宿屋から美味い店など。
この世界にも優しい人間はいるんだなと話を続ける。
「旅人さん、どうぞ楽しんでいって下さい」
その言葉に迅は老人にお礼を言い立ち去る。
早速老人に聞いた場所に行ってみる。
(たしか…職業安定所だったかな?)
もし奴が冒険者に憧れているなら登録している可能性が高いと考えたからだ。
老人に教わった場所でギルドを見つける。
西部劇の酒場みたいなところだな、と感じながら歩を進める。
入ってみると、いかつい男から若い女いろいろな人間がいる。
彼等は迅の方を一瞥するとまた視線を戻す。
受付には20歳前後の若い女性が2人、そして15歳くらいだろうか若い少女の受付嬢がいた。
日本じゃ受付や対応者は、おばさん、おじさんばかりなのに、この世界はずいぶん若いなと驚嘆する。
若い女性2人は冒険者の対応しているので、別に3人の内、誰でもいいので手が空いている少女の受付嬢に聞く事に決めた。
フードを外し受付の少女に歩き出す。
「ようこそ!ハルトラエのギルドへご依頼でしょうか?」
少女は元気な声で挨拶をする。
(…ほう。この町はハルトラエという名称なのか)
「いえ、お尋ねしたいしたい事があります」
「はい何でしょうか?」
「ここ最近ギルドに登録した若い少年はいますか?」
少女は少し考えた後で思いだしたのか口を開く
「それなら確か弘樹さん…でしょうか?こちらの冒険者に登録されていかれました」
やはりこの町に来てギルド登録しているのか!。居場所は知っているだろうか?
「彼に少しお話があります。彼は今どちらに?」
「今日は確か別のパーティーさんと組んで近頃大量発生したゴブリン退治に行かれました」
ゴブリン?確か子鬼の一種だっただろうか?と考えていると少女は更に語り出す。
「弘樹さんて魔法が使えるんです!魔法を使えるなんて余程の才能がないと使えないから、ここにいる皆さん驚いていましたよ」
(魔法が使えるだと!?もし戦闘になれば厄介だな、どんな魔法を使ってくるか分からない…)
「それは凄い!しかし…クエストに出ているならいつ戻られるかも分かりませんね…。ではまた改めて来ます」
一礼してその場を立ち去る。
(ベラベラと喋る女の子だったな…)
情報が得られたからいいが個人情報の守秘とかないのだろうか?と疑問に感じながら、職業安定所を出た。
迅が立ち去った後で年上の受付嬢が少女の受付嬢に質問している。
「あの大柄な人何か用だったの?」
「弘樹さんの事を尋ねていましたよ」
少女の返答に年上の受付嬢も思い出す。
「あぁこの前新しく登録した弘樹君ね」
更にもう1人の年上の受付嬢も加わる。
「弘樹君て魔法も使えるし、剣も鎧なかなかいい物を装備してたからどこかの優秀な家系の出かしら?」
「今から唾付けとこうかしら。」
「女性に免疫とか無さそうだし。」
受付嬢の他愛ない雑談が続いている。
彼女達の頭には先程の来訪者の事などもう頭になかった。
ギルドを出た迅はしばらく外で考えていた。
(……奴はこの町にいる…。そして魔法を使える…。女神ジュネスが関わったかはまだ分からないな)
考え事をしていると6人のグループが何か話しながら歩いてくるのが分かった。
剣や鎧を装備している…冒険者だろうか?。
リーダーらしき男の言葉が聞こえてくる。
「しかし驚いた!荷物持ちとして同行してもらうつもりが魔法であんなに活躍しちまうなんてな!」
「剣の腕はまだまだだけど、線は悪くないぜ!」
他のメンバーも口々に誉めている。
「いやぁ僕なんかまだ新米ですし」
迅は盗み見るように話題の中心人物を見る。
「まさかこんなに早く見つける事が出来るなんてな……」
それは自分が捜していた相手。
……立木弘樹…。
「アイツか…」




