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転移者や転生者を連れ戻す者  作者: ギャレット
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新たな命令

………私は人間と生きているが人間に生まれた者ではない……。


 私が生まれたのは人間があの世と呼ぶ世界で生きていた。


 自分の仕事は罪人として送られた人間に責め苦を与える事だった…。


 何の疑問も持たなかった。


 善悪の分からぬ子供に、これが正しいと教え込まれたのなら子供はそれを疑問に思うだろか?


 あの世で生を受けて20年経った時主君から命を受けた。


 人間の世界に行き、人間として生きて人間の情勢を伝えよと。


 主は人間の情勢が気になるお方らしい。


 ……あの世とこの世は直結している…。


 人間の世界には同族が、たくさん人間に紛れ込んでいる。


 公務員や政治家など多種多様な職業に同族はいる。


 命じられたのは一般市民として生きて情勢を伝えよとの事だった。




 いつの間にか人間の世界に来て10年が経った。


「あぁ眠い……」


 鳴り響く時計を朝の5時30分を指している。


「付き合いとはいえ深夜まで社長に付き合わされるなんてな…」


 私は、この世界に人間として生きている。


 人間の世界での私の名前は滝崎迅(たきさきじん)。建設業界の職人としてこの町で暮らしている。


 身なりを整えて、車に乗り職場に向かう。


「おはようございます社長!昨日はご馳走様でした」


「おう迅」


 面倒くさそうに自分が社長と呼んだ男も返事を返すのは社長も眠いのだろう。


(この仕事を始めて10年……)


 最初は何にも分からなかった自分に、この社長は1から教えてくれた。


 この社長には今でも感謝している。


 この仕事で技術を身に付けたし、いずれは独立したいと思う。


 人手も資金もないから今は無理だが…。


 そして今日もケガ、事故なく仕事を終わらす。


 

 人間世界に来た自分に彼らは優しかった。


 よそ者にも、この町の人間は本当に親身になってくれる。


 ある時、周りの人間から進められたので人間の武術や格闘技をやってみた。


 人間の姿では強い訳ではない。


 普通の一般人より力持ちで頑丈(タフ)なだけだ。


 仕事でも格闘でも技術を磨くのが好きなので夢中になって取り組んだ。


 何においても技術が向上すると嬉しいものだ。

   

 今日は業務報告の為に事務官がやってくる。


 大した報告ではない。


 建設業界は人手不足だの若い人材が集まらないだのそんな他愛のないものだ…。


(……さて今日も部屋で待つとしよう)


 呼び鈴が鳴らされ、迅は事務官を出迎える。


 事務官は若い女性だ。


 彼女も迅と同胞だが彼女は人間界では鈴香瑠衣(すずかるい)という偽名を名乗っている。


 迅が当然人間の姿をしているように彼女も人間にの姿をしている。


 見た目は会社の可愛い事務員の女の子といった感じだ。


「お疲れ様です!滝崎さん」


「お疲れさん。瑠衣ちゃん」


 お互い偽名なのだが人間社会では人間社会の名前があるので偽名で呼び合っている。


 来客なので、お茶とお菓子を出す。


「美味しいですね。このお菓子」


「馴染みの店で買ってきたんだ」


 今はネット通販でも買えてしまう世の中だが、やはり一つ一つ手作りの方が美味いだろうと思って買ってきた。


「ずいぶんと滝崎さんも、この町に馴染んでますね。ニオイも、だいぶ人間に近付いてきてますし」


 10年も生きて自分は人間に近付いたと言うが、自分自身では、まるで分からない。


「そりゃ、この町に10年住んでれば人間らしくしないと」

 

 そして、月1回の回数で報告書を出しているので瑠衣に報告書を渡す。


 内容は、どの業界も人手不足や、若い人間は最近は飲み会に行きたがらない事に対しての社長の意見や、商店街の店が昔と比べ減ってきた等を書いた他愛のないものだ。


 付け加えて仕事で独立を考えている事も書いた。


「我が主も滝崎さんの報告書には、大変一目置いていますよ」


「…へぇ、そうなの」

 

 迅も独立出来る技術があるので、そこそこ給料は貰っているが、それでも地上にいる高収入の同胞に比べたら1番底辺だと思っている。


 地上にいる同胞は争い事を好まず非常に温和で勤勉な性格である。


 人間社会に行く為に幼少の時より勉学に励むので、皆、頭が良く社会的地位も高い高所得者である。

 

「あの世の情勢はどんな感じ?」


 話題を変え瑠衣に振ってみる。


「あの世に来る人間が以前とは少し違うので、情勢は少しずつ変わってきています」


 変わりつつある情勢を、瑠衣から聞きながら会話をする。


「情勢が変わると君達も忙しくなるの?」


「忙しいです……。私の後輩が、また寿退社しましたので大変です…。私も、また後輩を祝福して見送るのは、もう嫌なんです」


 また始まったな……と、ため息をつく。


「なぁ瑠衣(るい)ちゃん。まだ24だろ?全然若いじゃないか」


「24て私達の人生の半分近くですよ!」


 高齢社会の現代だが、彼等の寿命は人間に比べて短い。だいたい50前後、長生きする者でも60で生涯を終えてしまう。


 昔は人間と対して変わらなかったが、いつの間にか人間は長生きするようになったものだと迅は常々思う。


「24歳なんて最近の人間の女性で言ったら大学を卒業して2年目の子じゃないか。女性が一番妙齢で綺麗な年頃だと思うけど?」


「そうなんですか?」


「昔は人間の女性なんてクリスマスケーキになぞらえて24までが結婚ラインでそれを過ぎたら確かに売れ残りなんていわれてたけど今は24で結婚するなら若いさ!」


 とりあえず24は若いと相手を認識させる。


「でも…人間とは違います」


と彼女は返答する。


「人間も私達も大差ないんじゃないかなと思うよ。飯食って働いて寝るし恋愛もするし、結婚だってするし、子供も産むだろ?」


「…滝崎さんは随分と人間にこだわりますね…」


「そりゃ10年も人間として生きてるし」


 他愛もない雑談をする。


 彼女の行き遅れの愚痴話の会話も、これはこれで楽しいもんだと最近は思う。


「話がそれてしまい失礼しました。今日は滝崎さんに我が主より新たな任務を申し上げに来ました」


「自分に任務を?」


「はい。我が主は滝崎さんの事を見込んで別世界の調査を命じられました」


「は!?」


 彼女は訳の分からない事を口にしている。


 ……いや。意味は分かっているが聞きたくない。


 彼女は言う。我が主君の命令の名の下に別世界に行けと。


「なぜ我が主君が、私に別世界の調査などと?」


「それは滝崎さんが一番適任との判断らしいです」


「なぁ…瑠衣ちゃんも私が暇人に見えるかい?」


「そんな事は……ありませんよ……」


「何故、今、言葉に詰まった?」


 少し不機嫌に瑠衣に問い詰める。


「申し訳ありません」


 瑠衣は謝るが、迅は自分の仕事の建設業の現状を伝える。


「こっちだって忙しいんだ!俺だって仕事があるんだ!人手不足なのに何としても納期までに工事を終わらせないといけないんだ」

  

「分かっています。滝崎さんが仕事熱心なのもことも!ですが我が主の命令なので、ご了承下さい!」


 それを言われたら何も言えなかった。


 主君の命令は絶対なのだから。


「命令には従うが我が主に一体何の考えが、お有りなのだ?」


 迅は瑠衣に問いかける。


「滝崎さんは神隠しという現象をご存知ですか?」


(神隠し?)


「あぁ知ってるとも、子供が突然いなくなる事だろ?それで突然帰ってきたりする事だろ?」


「その通りです。」


 彼女は答える。そしてまた質問を投げ掛ける。


「滝崎さんはライトノベルを読んだりしますか?」


「人間の娯楽だとは知っているが読んだりしない。私が人間の娯楽でたしなんでいるのは格闘技とロードワークがてらのランニングくらいだけだからな」


「本当に格闘技好きなんですね…」


「あれは技術の勝負事だ」


「まぁ滝崎さんの趣味趣向は置いといて」


 1つの仮説が浮かんだ。


「……ライトノベルてのは、ある日少年が異世界に召喚(らち) されて不思議な力に目覚めて戦うって話だろ?んで、まさか神隠しの正体は実は異世界に召喚(らち)されてたって事かい?」


 考えを述べてみる。

 

「その通りです!滝崎さん」


 馬鹿げていると呆れた。


 それが本当なら『事実は小説より奇なり』だが彼女は口を開く


「別世界にも神はいます。しかし古より神の世界では暗黙の決まりがあります」


(……その通りだ…)


 2人は口を揃えて言う。


「“神は人が生きる別世界に干渉してはならない”」

 

 これは古来より決められたルールだ。


 人間の暮らす現世と迅と瑠衣が産まれた、あの世は直結している。


 別世界と思われるかも知れないが直結しているので別世界扱いはされていない。 


(だが何故ルールを破って、この世の人間を召還(らち)するのだ?)


「滝崎さん…?」


 考えがえ込んでいる迅に瑠衣は心配そうに迅の名を呼ぶ。


「あぁ……すまない」


「この世界の人間はこの世界人間です。本来関わる事などありません。我が主はこうも命令されました。『異世界に神が関わっているか?』そして異世界に行ってしまった人間は……」



 瑠衣は少し間を置いて言葉をつむぐ、この先の言葉は非常に重要な事なのだから……。


「……その人間はこの世界の人間ですから、『いかなる理由があろうと手段を問わず“必ず連れ戻せ!”』…………と。」


 瑠衣は主の言葉を更に迅に伝える……。


「そして、もう1つの場合は……」


 瑠衣が、もう1つの場合を話し終えると迅は主の名前を呼び跪く。


「承りました…………。我等はあなた様の命に従うのみ……。私もあなた様の忠実なる(しもべ)の1人なのですから……」




 迅は彼女から更に詳しい話を聞いた。


 異世界に行った人間は何かしらの力を授かっている可能性が大きいと、しかし迅が異世界に行く場合には力を授かる事は出来ないらしい。


 当然だ…。誰だって招かれざる客なんて嫌いだろう。


 異世界に行ったらいつ帰って来れるなど分からない。1ヶ月後かもしれないし、1年後かもしれない。


 そして死んでしまったら二度とこの世界には帰れないだろう。


 迅は瑠衣にお願いをした。


 もし死んでしまったら魂だけは異世界から連れ戻して欲しいと。


(さて……当面の問題は仕事を辞めなけるばいけない事だろう)


 会社の社長や他の従業員の方に独立する為、退職を願い出たが社長や先輩方には何度も止められた。


 辞めるのは1ヶ月後に落ち着いたが毎日怒られていた自分がここまで惜しまるとは思わなかった。


 社長は迅に言う。


「お前が独立しても、これからは同業者なのだから応援している…試合をやるときは連絡しろよ、応援に行くからな。…もし事業が上手くいかなくなったなら、いつでも帰ってこい…」


(本当に…。本当に…。この人達は優しい人間だ)



 しかしこれで無職かぁ…と思ったが仕事終わりに会った瑠衣は言う。


「危険が伴う危険な任務なので今まで給料の倍額出します」


 おぉ、これで金の心配はないなと安堵する。


「…まぁ安月給だけど2倍の年収だと※※※※万だな」



「…結構貰ってる方じゃないですか…。半分でも…30代サラリーマンの平均年収より多いですよ。そんなに貰ってのにどうしてあんな安いアパートに10年も住んでいるんですか!?」


(余計なお世話だ…バカやろう…)


「そりゃ最初は給料安かったし…何年も住んでると愛着もでてくるもんだよ」


「…申し訳ありませんでした。まさか滝崎さんがそんなに稼いでいるなんて思いませんでした…」


(そんなに低収入に思われていたのか…)


「人間社会は技術があれば給料は上がるし、職人業界は技術と人脈があれば独立だって出来るだよ」


「分かりました…。主に滝崎さんの年収の倍、支払う事を伝えます」


「それとこれを滝崎さんに渡しておきます」


 彼女は何冊もの本を渡す。


「何だいこれは?」


「何って?ライトノベルですよ。異世界にも同じモンスターもいるかもしれませんから、少しは勉強して下さい。」


「………え?」


 異世界に行く1ヶ月の間、迅の毎日は地獄だった。


 昼は仕事をして、夜は道場に通い練習した。


 自分の技量がどこまで通用するか分からない。


 身長190センチでヘビー級でも人間状態なら自分より小さい敵やモンスターにあっさりと殺されてしまうかもしれない。


 しかしやらねばならないと意気込む。


 主君の命は絶対に遂行せねばならないのだから…。


 だが迅の一番の苦痛はライトノベルを読む事だった。


「我々の種族は勤勉だと思う。私も多数の資格を持っている、おそらく一生食べていくに困らないほどに」


 だが自分の同胞には医者や弁護士だっている、並大抵の勉学では合格出来ない試験を受かってしまうのだから同胞として尊敬している。


 そんな勤勉かもしれない種族の迅が苦戦している…。


 仕事の為とはいえ興味の無い物を無理やり読む程の苦痛はない。


「……誰か頼む。このツンデレとかいう現実世界にいたら痛々しい女の良さを教えてくれ…」


 1人暮らしが長い為か、そんな独り言を深夜につぶやいた。



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