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転移者や転生者を連れ戻す者  作者: ギャレット
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全ては主君の為に

転移者の就職の面接を終えた(じん)は、車で瑠衣(るい)の事務所に向かっていた。

 

 いつもなら迅と会う時は笑顔で迎えてくれるが今日は、重い空気の中で迎えられた。


 瑠衣は真剣な表情で次の相手の事を告げてきた。


「昨日渡した資料を、お読みになったと思われますが次の相手は1度死んだ人間です……」


 その言葉には重さがあった。


「死んだ人間……。次の相手は転生者なのだろうか?」


「現時点では分かりません……。しかし異世界の神の力で転生して転生者となっている可能性は高いのではと思われます」


 瑠衣も迅も、死んで異世界に行った人間など分からない。


 だが転移者がいるのなら転生者がいても、おかしくはないと思っている。


 転生者……。


 現世で死んだ人間の魂が異世界の神の力で蘇り、神から様々な能力を貰っている可能性がある存在。



「探すとなると前回も前々回も、たまたま相手が近くいたから良かったが広い世界から人間を探すのは酷なんだが……」


 迅は不満を漏らす。


 確かに力の強い主人の地獄の神に頼めば、場所を特定出来るかもしれないが、しかし自分達の主の地獄の神は忙し過ぎて、迅や瑠衣も休んでいる姿など見たことがない。


 異世界に行った自分を監視していたと言うが、おそらく本来の仕事をしながら、自分に動きがあれば側近に報告させ見ていたのだろうと思った。


 そんな忙しい主人に配下の者として、負担はかけられない。


 しかし転移者や転生者を連れ戻す仕事をする上で、どうしても解決しなければならない問題点であるのも事実である。


 迅が地道に探してやるしかないと思っていると瑠衣が予想外の事を口にする。


「その問題点ですが、私も滝崎さんの力になれるかもしれません」


「え……?」


 解決策の見つからない問題点に、解決策があるかもしれないという返答に驚いたが、瑠衣は話を続ける。


「人間は誰しも才能を持っていますが、大半の人間は、その才能に気付かず一生を終えてしまいます。それは私達も同じです」


「確かに、そうだが……」


 人間は誰しも才能を持っている、その才能を開花させた者を天才と呼ぶのかもしれない。


「先日、他の転移者や転生者を、どの異世界の神が異世界に召喚(らち)したのかを探り当てる為、私の嗅覚で異世界の神の特徴を主に報告する為、地獄に向かいました」


 迅も瑠衣は残されたニオイでも様々な事が分かる事は知っている。


 例えば異世界の神のナヒヤを探り当てた時も、神か、その使い魔か、男か女か、大人か子供か、そしてニオイを嗅ぐと頭に、その人物や物が頭にイメージとして浮かび上がり、そして画家並の腕で似顔絵を書くらしいが、これだけでも瑠衣は天才だと迅は思っている。


 人間の女性としても妙齢で容姿も美しい瑠衣は、一呼吸置いて更に話を続ける。


「主も滝崎さんが、転生者や転移者を探すのは大変だろうと思い、神である自分の力で異世界に行った転生者や転移者を見つけ居場所を教える等、他にも影ながら手助けをするつもりだったらしいですが、流石に側近の方々に止められました。」


「そりゃ、止めてくれて正解だ」


 只でさえ忙しい主人に力を使わせ探してもらう訳にはいかない。



 同時に大勢いる配下の1人に過ぎない自分に、ここまで気を配ってもらえるていると知った迅は感激した。


「滝崎さん。同僚の子に言われたのですが、私にも人間同様、まだ眠っている能力があるそうです」


 人の才能を見抜く人間がいるように地獄にも、そんな人材はいる。


「君の眠っている能力てもしかして……」


「はい。それは私の、ご先祖様が使っていた能力らしいです」


 居場所を探す能力と聞いて迅も薄々気付いたが、更にそして先祖の能力と聞いて確信になった。


 瑠衣の母方(………………)の先祖は知っていたが、父方は知らなかった。


「あれって君の、ご先祖様だったの!?」


 しかし驚かずにはいられなかった。


「私の亡くなった父方の先祖だそうです。だから私が能力が使えても不思議じゃないと思いませんか?」


 例え、恋人や親や兄弟など、どんなに親しい人物でも全てを知っている訳ではない。


「しかし、その能力を習得するとなると、かなりの時間が掛かるんじゃないのか?」

 

「そうですね……故郷である地獄で修練すれば、1週間程と同僚の子は言っていましたが、早く習得出来るかもしれませんし、それ以上の時間が掛かるかもしれません」


 能力を身に付けるのは大変である、能力の習得には個人差がある。


 迅も瑠衣は小さい頃から絵を描いたりしていて、絵が上手いのは知っていた。


 新たな能力の習得、それは元々イメージする力も強いから出来る事であり、それも才能だろうと認めている。 


 参考書(ライトノベル)の主人公は様々な能力を貰っていたが、迅はそんな貰った能力で強くなったと思っている奴など認めていない。


 迅は生まれつき備わっていた能力は才能として認めている。


 努力の末、自分自身で能力や技術を身に付けた者は例え立場が違えど尊敬している。


 能力は貰う物ではなく自分自身で身に付ける物であり、生まれつき備わっていた才能に気付いたのなら、それは極めていくべきだと強く思っている。


「1週間か……。それまでに仕事を片付けるのが理想的だろう」 


「もし1週間経っても情報が掴めないようでしたら、一旦戻ってきて下さい」


「もしもの時は、そうさせてもらうが、仕事は早く確実に終わらせるつもりだ。だから最善を尽くすよ」


「次の異世界の神はメビキアという名です。ジュネスやナヒヤとは比べものに、ならない程の強い力を持つ神でしょう」


「だろうな。死んだ人間を生き返らせる力を持っているだけでも強い神である証だからな」


 だが本来、神は特別な例外を除いて蘇生は禁止されている。


 生物の寿命は定められているが、それは神が定めたものではない。


「生物は肉体を失えば蘇生する事はありません。それは地獄の神の配下の私達とて肉体を失えば死を迎えます。今回の転生者と思われる相手は、現世に肉体もありません」


「だとすると、もし転生しているとしたら異世界で“第二の人生”と言うやつか」


「主も言っていますが『この世界の人間は、この世界の人間』です。転生者も転移者も、例え異世界で第二の人生を歩んでいようと必ず連れ戻して下さい」


「『例えどんな理由があろうと、どんな手段を用いても連れ戻せ!』だろ?分かっているさ」


 自分の主人である地獄の神は世間一般な怖いイメージとは裏腹に、とても心優しい神である事を迅や瑠衣は知っている。


 死んだ人間には厳正に審判を下し、罪人となった人間は地獄へと送る。


 だが地獄の神は本来死者の審査などはせず、元々は人間の死を見守り楽園へと導く存在だった。


 しかし当然、悪しき魂を持つ者も、やってくるので悪しき者を何の罪も咎めず楽園へ導く訳にはいかないので、自ら重き役目を背負われたのだ。


 悪しき者は罪人になるが、罪人達にも地獄の神は更正の余地を与える。


 罪人に憎まれもするが例え罪人になる者でも判決を申し渡す時など、いつも心の中で泣いているのを配下の者は知っている。

 

 暴君の代名詞となった皇帝ネロも、当初は罪人の処刑にサインをする時、例え罪人でも字が書けなければ処刑する事は無いのに、どうして自分は字が書けるのかと悔やんだと言われる話もある。


 しかし地獄の神は暴君などではない。


 迅も人間として10年生きてきたが本当にクズのような人間も見てきた。


 悪行を重ねた死んで当然なクズな人間は、自分達の故郷の地獄に送られ罪人となるが、地獄の神はそんな罪人にすら更正の余地を与えるのだ。


 地獄の神は、どんな人間だって見捨てたりはしない。


 そして、どんな罪人でも必ず最後は楽園へと導く。


 そんな心優しい地獄の神の主人が異世界の神に対して怒っている。


 神々の決めた規則(ルール)に背き、この世界の人間達を連れ去り、好き放題に振る舞う異世界の神々に、ご立腹なのだろうと迅は感じた。



「これより滝崎さんは多くの異世界の神々に監視されるだろうと仰っていました」


「だろうな。私は異世界の神から見れば邪魔者以外の何者でもないからな」


「滝崎さん。この仕事をしていれば、いずれ転生者と呼ばれる者と対峙する日が来ると思っていました。そこで主より滝崎さんへと言伝(ことづて)を申し上げます」


 凛とした表情にさえも、別の美しさが瑠衣にはあった。


「ああ、心して聞こう。言ってくれ」


「『好き放題に振る舞う転生者と、この世界の人間を連れ去る異世界の神々に宣言しろ!』と仰せです」


 それは耳から入る言葉ではなく、心に刻む言葉だった。


「分かった。地獄の神に喧嘩を売るような事をした異世界の神々、そして力を貰い異世界で好き放題やっているなら転生者…………………………にも後悔させてやる!」


 人間を連れ去る異世界の神々は自分達の主人を怒らせ、そして越えてはいけない一線を越えてしまった。


 もはや、この世界の人間を連れ去る異世界の神々は許されない。


 

 


「御武運を。私は滝崎さんの無事を願っています」


「それは私が帰らないと仕事が片付かない意味もあるからか?」


 少し意地悪く瑠衣に尋ねる。


「両方ですよ」 


 そんな事を言いながら瑠衣は笑顔を見せる。


 どんな女でも、やはり笑顔が1番似合うなと迅は思いながら瑠衣の表情を見つめる。


「例え気持ちの半分でも、君のような美人に無事を祈られるとは男冥利に尽きるものだ」


「私はもう寿命の半分くらいの年齢ですよ。今の人間の年齢でいえばオバサンかもしれませんよ?」


「何が問題だ?。それなら私は30でオッサンだ。寿命の6割は終わっているぞ」


「男は30過ぎてからですよ」


 男の30代は仕事も出来て精力的である。


「それは女だって同じだ。それに(こころ)の美しい女性は歳を重ねるごとに美しくなる。この現世で18より働いていた君より今の君の方が綺麗だ」


「それって私を誉めて口説いてくれてるんですか?」


「目の前に美人がいるのに、男が誉めて、口説かないなんて失礼だろ?」


「ふふ。お世辞でも嬉しいですよ。ありがとうございます」


「その感じだと脈ナシのようだな」


 肩を竦める迅に釘を刺すように瑠衣は警告する。


「でも、異世界の女性とは一線を越えないで下さいよ」



 それは異世界の神々に監視される事になるので、異世界の行動には注意を払う必要がある為である。


 異世界の女と肉体関係を持てば、自分達の主人は異世界の神々に非難される事になる。


 故に迅は、娼婦でも異世界の女を抱く事も出来ない。


「分かっている。だが、情報を聞く為に、お茶くらいはいいだろう?。私も30の独身男だから、つい誘いに熱が入ってしまうかもしれないが」


「それくらいなら問題はないと思います。ナヒヤやジュネスの世界、異世界の女性は、どんな感じでしたか?」


 知らない事への純粋な好奇心として、瑠衣は迅に尋ねる。


 迅は異世界の出来事とナヒヤの世界で出会った、背が高くて男勝りの性格な故に男と間違えられる女の子の話を語る。


 家族や仲間思いな性格で背が高い事を気にしていたが、顔立ちが美人だから、化粧や手入れをしないのは勿体ないと感じた事を話す。


「怪我をしていたから、早く治るといいが……」

 

「その女性からは、割と好印象的に思われたんじゃないんですか?」


「ゴリラだから、全く相手にされなかったな。なんとか人間の男として見てもらうのが、やっとだった」

 

「やっぱり、ゴリラの雌を口説いた方が良いんじゃないですか?」


 失礼な質問だが、付き合いが長いので気にしない。


「うむ。そう思って以前、人間の友達と動物園に行ったら雌ゴリラに見つめられてしまった。私は同胞や人間の女にはモテないが、ゴリラにはモテるらしい」


 瑠衣は、お腹を抱えて笑っている。


「滝崎さんは、顔も体も男性的過ぎて、ゴリラなんですよ。」


 迅は身長190センチで体重は115キロある。


 デブというわけではない。


 鍛えた肉体は筋肉が多いので体脂肪率は1桁しかない。

 

「それなら私のような顔や体型もゴリラの野獣(おとこ)は、女を口説くのは大変だ。だから危険な異世界かもしれないが、仕事を達成する方が美人(きみ)を口説くより簡単だ」


「そうですか?。私を口説く方が案外、簡単かもしれませんよ」


 迅も瑠衣もお互いが冗談を言っているのは分かっている。


 2人共、この冗談のやり取りが面白いのだと思っている。

 

「さて、瑠衣ちゃんを口説くより、仕事を終わらせる方が早く終わりそうだから、そろそろ行くとするよ」


 そう言うと迅は荷物を(まと)める。


「それでは、メビキアの世界の扉を開きます」


 瑠衣は『結び石』をかざしメビアの世界の扉を開く。


「滝崎さん」


「ん?」


 扉を進もうとする迅を瑠衣呼び止め告げる。


「配下の者としてお互い頑張りましょう!」


「ああ、主の為に働き結果を出すのは配下の務めだ」


 瑠衣は地獄へ、迅は異世界へと行くが2人は自分達の主人に揺るがない忠誠心を示し別れる。


 異世界の扉を歩く中で、迅は強い覚悟と共に主人である地獄の神の名を口にし、メビキアの世界へと進む。

  


「全ては“閻魔(ヤマ)”様の為に」




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