エレナ・ルーデンベルク
はっ
突然、思い出した。
これは…この世界はループしている!!!!
私は王国立魔術学園に通う男爵令嬢、エレナ・ルーデンベルク、17歳。今日は記念すべき入学式の朝だった。パリパリの新品の制服を着て、髪を整えるために入念に鏡を見ながら自己流ヘアセットをしているところだった。見覚えがある。いや、見覚えがありすぎる。なんなら予言できる。この後、前髪が決まらないからと髪をいじくって最終的にオールバックにして入学式に望む自分の姿を。この世界はループしている。そう思い、一旦前髪はオールバックにした。どうせ決まらないなら意味がない。
さっさと身支度を済ませて足早に屋敷を出る。男爵令嬢といってもメイドも執事もいないから見送ってくれる人はいない。母は家事をしていて、父は王都に仕事に出掛けている。もはや他の貴族家庭が羨ましいという感情すら失せた。エネルギーの無駄だ。領地すらないような弱小貴族なのだから。
王国立魔術学園にいくための通学用乗り合わせ馬車に乗り、思考をしばし整理する。
私の記憶だと昨日(正確には朝目覚める直前まで)は学園の卒業式だったはずだ。そう、魔力量が少なすぎる上に怠惰な性格が祟った成績不振ながら留年せずに卒業できた、私の奇跡の卒業式だったはずだ。友人と涙を流して互いの卒業を祝いあった。それなのに何故か今入学式の朝になっている。繰り返している…もしくは、長すぎる予知夢を見ていた……?どちらにせよ意味がわからなすぎる!!!!
ガタンッ 。ゴッ
急に馬車が揺れ頭を打った。いたた…。でもこれも覚えている。この後たしか……
「「すいません!もう少し安全運行でお願いします!!今日は入学式なのよ!!!髪が乱れたらどうしてくださるの!!」…え?」
思わず記憶通りに声をあげてしまった。御者に苦言を呈した女学生と目が合う。やってしまった…
またしても見覚えのありすぎる深紅の長髪に唇には真っ赤なルージュ、宝石を思わせるエメラルドグリーンの瞳に、気の強そうな顔を携えたご令嬢。彼女は入学式にてこの話題で意気投合し卒業式まで仲良く過ごし、互いの卒業を祝いあっていた伯爵令嬢、ハイネ・オーランド…いわゆる親友だった。在学中は身分の差をなくすことを取り決めとしている王国立魔術学園に則って庶民に近い文化を学ぼうとしている、変わり者の令嬢だった。
「あら、奇遇でしたわね。ウフフ。私たち気が合うかもしれませんわね。」
「そ、そうね。是非今後とも仲良くしていただきたいですわ。オッオホホホ」
取り繕った返事をしたせいで変な笑いかたになってしまった。家があまり貴族然としていないこともあってお嬢様言葉は取って付けたようなものだ。なんだオホホホって。
「貴女もこれから入学式ですの?見たところ新品の制服をお召しになっていらっしゃるようね。」
「えっええ。そうなんです!これから入学式です!!もうわっくわくですよ!!!」
「…わっくわく?フフフ。平民の方の言葉遣いは面白いものですわね。」
「あっ。えっと…一応男爵令嬢です。領地とかはないんですけどね…私エレナ・ルーデンベルクって言います……」
それもそうか。言っていなかったが私は暗めの茶髪を高く結った黒い瞳…言うなれば地味なのだ。華やかさが命の社交界ではあまり、いや全然好まれない傾向にある。おまけにマナーも教養もへったくれもない。本物のお嬢様がみたら成金の平民だと思っても仕方がないのである。それはそれとして初対面の人にずけずけ物を言うハイネもハイネなのであるが…
「あら、そうでしたのね。それはごめん遊ばせ。てっきり最近名を上げた商家の方かなにかかと思ってしまいましたわ。まぁそれもそうですわね。平民の方が安易にこの馬車に乗れるはずありませんものね。私としたことが。ウフフフ。…あ、そうそう、私はオーランド伯爵家が娘ハイネ・オーランドと申します。名乗りが遅かった無礼、許してくださいましね」
「もッもちろんです。オーランド子爵令嬢様。」
豪奢な金と朱の扇子で口許を優雅に覆いながら微笑んでくる。こちらを圧倒してくる怒涛の勢いの会話は私の知っている彼女のままだった。まぁ、それが災いして学園生活では私以外の友人はできなかったようだが。根は悪い人じゃないんだけれどね。
「フフフ。心の広いかたで良かったですわ。これからもどうぞよろしくお願いいたしますね。」
「はい!オーランド子爵令嬢様!!」
そんな話をしていると馬車が学園についたようだ。御者が到着をわたしたちに知らせる。彼女がスカートを華麗に翻して颯爽と馬車を降りる。振り向き様にこちらに手を差し出して告げる。
「さぁ、いきましょうか」
「はっはい!!」
「それと、私のことはハイネと呼んでくださって構いませんよ。折角の縁ですので言葉も崩してしまいましょう。肩がこりますもの」
「あ、は…うん!ハイネ。よろしくね」
「ええ。こちらこそですわ。エレナ」
私は彼女の手を取り馬車を降りた。華麗なエスコートだ。貴族としては変わり者の彼女は市民の生活のみならず、貴族令息としての振る舞いも身に付けていた。こっそり教えてくれたのは伯爵位を継ぐことを目論んでいたのだとか。結局卒業後はどうなったのだろうか。時が戻ってしまったから私にはわからないが、気の強いハイネのことだなんとかしたのだろう。
「手、ありがとうね。」
「あら、気にしなくてよろしくてよ。貴方鈍臭そうなんですもの。ウフフフ」
「…えぇ」
なんだか釈然としない気持ちのまま講堂へと向かった。鈍臭くてわるぅございましたね。
記憶とは違う彼女との友好の始まりに私は、戸惑っていたものの、その後続いた学園生活の忙しさにやっぱりループは予知夢かなにかだったのかと思い直したのだった。その後感謝祭やらなんやらでループしていた気がすることはすっかり忘れてしまっていた。




