表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ナイト/ライト  作者: 腐った眼鏡
第一章
7/7

第7話 ゆさゆさ

もっと明るい話にしたいのになぜかシリアスっぽい雰囲気になる。おかしい。

「……」

「エルト~」


 ゆさゆさ


「…………」

「エ~ルト!」


 ゆさゆさゆさゆさ


「………………」

「エ~ル~ト~!」


 ゆさゆさゆさゆさゆさゆさゆさゆさゆさ


「……ああもう! なんですか!」


 無言を貫いていたエルトはとうとう痺れを切らした。

 体を揺らしてくる手を振り払い、自身の横を見る。

 そこにはニコニコと笑うアメリアがエルトの隣に座っていた。


 時間は少し遡る。


 エルトがタメ口で話すことを了承してから数十分。

 アメリアはエルトに話しかけ続けていた。

 

 最初はエルトもきちんと反応していた。

 名前を呼ばれるたびに「何?」や「ん?」と。約束を守りつつ返事をする。

 それに対し、アメリアは特に何か話すわけでもなく、ただえへへ、とにやけるだけ。

 ひとしきりにやければ、またエルトの名前を呼ぶ。

 

 この何の意味もないやりとりをが何分も続いた。

 十分を過ぎた辺りから、エルトは次第に返事をするのが面倒くさく思い始めた。

 目を瞑り、壁にもたれかかる。

  

 寝たふり作戦だ。

 

 騎士が一人護衛中に寝る。

 普通に考えればありえない行為。

 

 一般の村人や商人ならすぐに気づくだろう。

 しかし今、目の前にいるのはアメリアただ一人。

 

 ほとんど王都から出たことがない箱入り王女になら、バレバレなこの作戦で切り抜けるはず!


 作戦を決行してすぐ、アメリアがエルトの名前を呼んだ。

 

 当然、寝たふりをするエルトから返事はない。

 返ってこない声にアメリアが戸惑っている空気を感じる。

 

 その後もアメリアは何度も名前を呼ぶが、エルトはそれらを全てスルー。

 全力で寝たふりを遂行した。


 遂に、アメリアによる「エルト」連呼が止まった。

 馬車内に何度目かわからない静寂が訪れた。

 

 (勝った……!)

 

 寝たふり作戦が通用したんだ。

 俺が寝たと思い諦めたんだ。


 あとはカーディアに着く直前までこの状態を維持すればいい。

 

 作戦の成功に伴い、様々な思考が頭を巡った。

 エルトの口角が僅かに上がる。

 

 しかし、勝利の余韻は長くは続かなかった。


 ガチャガチャ……


 (……?)


 勝利を確信してすぐ。

 馬車内に金属音が響いた。

 

 それは金属同士が当たる時に鳴る音。甲冑が擦れるときなどに鳴る音。

 エルトはすぐに理解した。

 

 アメリアが立ち上がり動いていることに。


 そして――


 ガチャンッ!


 エルトの真横から鋭い音が鳴り響いた。

 隣から人の気配をビンビンに感じた。


(……もしかして、隣に座った?)


 なぜ?と頭に疑問符が浮かび、胸騒ぎを覚えた。

 

 同時に、遂さっき学んだばかりのことを思い出した。


 彼女は大変諦めが悪い女性であることを。

 

 「エルト」

 「っ……!」

 

 口から出かけた悲鳴をぎりぎりで飲み込む。

 

 再び名前を呼ばれたから驚いたのではない。

 エルトは右腕に感じる感触に神経を集中する。

 

 見えないがおそらく手で触れているのだろう。 

 腕からアメリアの温かい体温を感じる。

 

(まさか……)


 エルトの予感は的中した。

 名前を呼んだアメリアはエルトの腕に自身の手を置き、前後に揺らしだした。


 ゆさゆさ


 ここで元の時間に戻る。

 

「……ああもう! なんですか!」


 作戦大失敗。

 結局、アメリアの攻撃(ゆさゆさ)に耐えられなくなったエルトは彼女の手を振り払った。

 

「なん”ですか”?」

「~~なんだよ!」


 アメリアの判定は厳しい。

 反射的に出た敬語をすぐに指摘してくる。

 

 エルトは半分怒鳴るように言葉を訂正した。

 彼女は「よくできました」と満足気に呟くと、頬を膨らませた。


「『なんだよ』じゃないよ。何回も話しかけてるのに無視して」

「返事しても何も言わないからだよ! ずっとニヤニヤして!」


 今度は本気で怒鳴った。

 溜まりに溜まった不満をぶつけたが、アメリアにはノーダメージ。


「いざ話そうとすると、顔が緩んじゃうから仕方ないの」

 

 それどころか胸を張りドヤ顔になる。

 

 エルトは文句の言ってやろうと口を開ける。だが、喉の奥で言葉が詰まった。

 アメリアが喜ぶ理由を知ってしまった以上、文句を言いたくても言いづらい。

 

 短い葛藤の末、エルトは渋々口を閉じた。

 

「エルト~。お話しようよ~」

「カーディアまでまだまだ時間がかかるんだから休めばいいだろ」

「無理。私、今興奮冷めやらぬ状態。あなたと話さないと眠れない」

 

 当たり前のように話すアメリアを、エルトは呆れた目で見つめた。


「話すって……、さっきたくさん質問してただろ」

「あの時、あなたは敬語だった。私はタメ口で話したいの!」


 本日、何度目かの我が儘発動。

 

 アメリアの瞳は真っ直ぐエルトを捉える。

 エルトも負けじと彼女の目を見つめ返した。

 

 一進一退の攻防。

 両者、己の我を通さんと視線のぶつかり合い。

 バチバチと火花が散る。

 

 約二十秒の勝負の末、決着した。


「……じゃあ今度は俺が質問する」

「やったー!」


 エルト、敗北!


 アメリアは喜び両手を上げる。


(なぜ断れないんだ……!)


 一方敗者(エルト)、敗因が自身の甘さにあることなど露ほども思わず、頭を抱えてうずくまった。


「さあ、早く質問して!」


 敗者(エルト)の様子など気にも留めず、勝者(アメリア)景品(質問)を催促する。


 キラキラと目を輝かせるアメリアを横目にエルトは顔を上げた。

 

「……どうして度々城から抜け出してたんだ?」

  

 聞きたいことを考えた時に、真っ先に思い付いた疑問だった。


 アメリアは「それかあ」と小さく呟く。

  

「私、夢があるの」

「さっき言ってた”お姉さんになる”ってやつ?」

「具体的には少し違う」


 そういうとアメリアは右手の指を三本立てた。


「”世界を見る”、”城にいるやつらを見返す”。そして”気兼ねなく話せる人を見つける”。この三つが私の夢。これらを全部一気に叶えるためにお姉ちゃんのようになりたいの」

「……なるほど」

「私が城を抜け出してたのは協力してくれる人を探すため」

「協力?」


 エルトは首を傾げた。

 アメリアはこくりと頷く。

 

「知ってるかもだけど、王族が部隊を率いて各地へ赴くには条件がある」


 今度は指を二本立てる。


「自分で身を守れるほどの魔法を使える。もしくは、部隊にめちゃめちゃ強い隊員がいる」

「!」

「どちらかを満たさないと王族は城を出られない」 


 アメリアの説明を聞き、エルトの眉間が少し険しくなる。

 

「一応、私身体強化できるけど、魔法が無いから外へ行くには強い部員に守ってもらわないといけない。でも城に閉じ込められてたらそんな人に会えないでしょ? だから城の外へ出て協力者を探してたの」


 魔法が使えないから陰で笑われる。

 見返そうにも魔法が使えないから外へはいけない。城に閉じ込められ、誰とも出会えない。

 

 魔法が使えない。

 ただそれだけのことでアメリアは何もかも縛られている。


 同じく魔法が使えないエルトでさえ夢を追うことまでは縛られてはいない。


 彼女と自分の境遇を重ねた自分を後悔する。


「そんな暗い顔しないで」

「しかし……」

「別に何もできないわけじゃない。できる範囲で私は戦うの」


 自身の境遇の過酷ささえ吹き飛ばすように、アメリアは笑う。

 

 エルトは思わず目を奪われる。

 その姿は今まで見たどんな人や景色よりも眩しく、美しかった。


「私は絶対夢を叶える。エルトにも協力してもらおうかな」

「……はい。俺なんかで良ければ」

「もう、また敬語になってる!」

「あっ……」

「 次、敬語になったら一つ言うこと聞いてもらうからね!」


 ビシッと人差し指を指すアメリア。

 彼女の強さに感銘を受ける。

 エルトも彼女のように口元を上げて、頷いた。

 

「ほら、次の質問を考えて」


 重くなった空気を変えるためか、アメリアは次の質問を求める。


 エルトは深く考えず、パッと思い浮かんだ質問を口にした。


「リアって名前、安直過ぎない?」

「イース団長が勝手に決めたの。私じゃない」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ