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第九五回 勘違い


「ユージ様ぁっ、今日は早めに出発だからぁ、そろそろ起きてぇっ」


 早朝、セリアが雄士の寝ていたベッドの毛布を捲るも、そこには誰もいなかった……。


「……えっ……嘘……ユージ様……?」


 セリアは慌ててクローゼットやテーブル、ベッドの下、タンスの引き出し等を入念に調べるも、雄士は見つからなかった。


「……おいセリア、こんな朝早くから何騒いでるんだ……?」


「……セリアさん、まだ眠いですよお……」


「あ、ロエル、ミリム、大変なの。あたしだけのユージ様がいないの!」


「「……」」


 セリアの慌てぶりとは対照的に、ロエルとミリムは冷めた表情をしていた。


「な、何よ。どうして二人ともそんなに冷静なのよ!」


「……トイレならすぐ戻ってきてるだろうし、どう考えても逃げたんだろ。今から新しい勇者を召喚すりゃいい」


「ですですう」


「はあ!? ただでさえ遅れてるのに、そんな悠長なこと言ってられるの!? 大体、ユージ様以上の勇者なんているわけないのに!」


「だったら、さぼらずに一日中やりゃいけるだろ。それにあいつ気に入らねえんだよ」


「ミリムもお、ロエルさんに全面的に同意しますう……」


「二人がそんな風に冷たいから逃げ出したんでしょ!?」


 零れそうなほど目を剥き、顔中に血管と皺の迷路を作るセリアの顔は、最早人間の形相ではなかった……。


「……どっちかっていったらセリア、お前が原因じゃね? 鏡で見てみろよ、今の自分の顔……」


「ですよお。特にセリアさんを怖がってましたしねえ……」


「……あ、あれは照れてるだけよ! ちょっと潔癖なだけで、年頃の男の子があたしみたいな可愛い女の子にアタックされて、本音じゃ嬉しくてしょうがないはずよ!」


「「……はあ」」


 呆れ顔のロエルとミリムの口から溜息も逃げ出した……。




「……む、むぐ……むぐぐ……」


「いいか? すぐ自由にしてやるから騒ぐな。騒いだら殺す。俺様は本気だ……」


「むぐっ!?」


 宿の近くにある厩舎にて、縛られた雄士の前で一人の魔術師が頭に巻いた布を豪快に取ってみせた。


「ハッハッハ! 驚いたか。さあとくと見るがいい。この髪をー!」


 朝陽に照らされる場所に立つファルカーンの髪は、濃いめな緑色だった。自分を魔女に見せるための苦肉の策として、草の葉を染料として使ったのだ。


「……ひ、ひい。魔女だぁ……」


「……クックック……」


 彼は露骨に怯える勇者を見て、満足げに猿轡と縄を解いてやった。


「――……た、たしゅけて……」


「……あぁ、助けてやるとも……。勇者よ、お前の仲間が大金を差し出せばな!」


 ファルカーンの提案に対し、雄士の表情がパッと明るくなる。


「そ、それなら大丈夫! きっとお金をいっぱい持ってくるよ!」


「……」


 やや拍子抜けた顔になるファルカーン。


「お前……俺様が言うのもなんだがな、そこはもうちょっと抵抗しろよっ。それでも勇者なのか……?」


「う……。そ、それなら僕も言わせてもらうけど、人質なんか取って……それでも魔女なの……!?」


「……うっ……」


「「……」」


 しばらく気まずい空気と冷たい風が周囲を包み込んだが、雄士がはっとした顔でポンと手を叩いたことでムードは一変した。


「ど、どうした? 勇者……」


「僕、わかったんだ……事実が……」


「……な、何……?」


 カルファーンの目に鋭い光が宿る。彼は周囲に部下を配置していて、もし自分が本物の魔女ではないとバレた場合、相手が勇者なだけに暴れる前に一斉攻撃して殺すつもりだった。


「巨大な力を持ってる魔女が僕を人質に取った理由が、今わかった……!」


「……へ?」


 予想外の事態に目を白黒させるファルカーン。


「心が優しいからでしょ!」


「……」


 あんぐりと口を開けるファルカーンだったが、これを利用しない手はないと、無理矢理泣きそうな顔を作ってみせた。


「……そうなんだ。俺様は途轍もなく強い魔女だが、気が凄く小さいために虫も殺せない……」


「やっぱり……」


「「「「「プププッ――」」」」」


「――コホンッ……」


 周りから押し殺すような笑い声が上がる中、カルファーンが咳払いする。


「だからといって……お金をくださいとお願いするというのも、魔女としてのプライドが許せない……わかるか? 俺様の苦しみが、この胸の痛みがっ……」


「なるほど。それで僕を人質に取ったんだね。それなら心配ないよ。仲間はみんな怖いけど、お金だけはたんまりと持ってるから!」


「……そうか。じゃあ取引の際は、できるだけ怯えてくれよ? なんせ俺様は魔女なんだから……」


「うん!」


 がっしりと手をつなぎ合うカルファーンと雄士。奇妙な友情が芽生え始めた瞬間だった……。

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