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第六八回 始動


 渦巻き状になった通路を進んでいくと、待ち望んだ魔物――ワインドマン――が姿を見せてきた。これで俺は新たに習得した術を試せるわけで、ようやくスタートラインに立てたということだ。小さな竜巻が人型になるのを見計らって先頭に立った。


「お、おい凶悪犯! 貴様、気でも狂ったのか……!?」


「《マジックキャンセル》」


 詠唱後、俺が高々と掲げたクリスタルロッドが少し経って光り輝いたが、すぐ消えてしまった。まだレベルが1なせいか凄く短い……。


「……」


 それから少し遅れて魔物が放ってきた緑の球体が顔面に命中する。かなり高レベルの魔法なのかちょっとチクッとしたが、その程度だ。


「ふん。素直に我に任せておけば死なずに済んだものを……って、え……?」


 ラズエルは俺が平然としてるのが信じられない様子で目を丸くしている。


 だが、俺がやりたいのは己の耐性を見せびらかすことじゃない。それでも、アトリたちの様子を見ると溜飲が下がったのか、穏やかな面持ちになっているのがわかった。ただ、アトリだけはまだ何かあるのか少し表情が暗かったが……。


「参りましたでしょうか、ラズエル様。コーゾー様は耐性が凄いんです」


「参りましたか、ラズエルさん!」


「参ったって言いなさいよねっ」


「降参ですの……?」


「降伏なのだ!?」


「……ふっ。なるほど、これが勇者の固有能力というやつか。80%とか言ってたから、どうせ30%くらい誇張しているだろうと思っていたが、まさか本当だとはな……。しかし、いくら耐性があろうと完全に無効化できない時点で我の結界術の下位互換だ……」


 ラズエル、あくまでも俺を認めない気か……。まあいい。ワインドマンはまだ生きてるし、次こそは成功させてやる。見てろ……。


 やつは攻撃してきたあと、しばらく小さな竜巻に戻ってうろうろしていたが、こっちが隙だらけと見るやまた人型になって風の魔法を飛ばしてきた。今度はそのタイミングで《マジックキャンセル》を使い、輝いた杖に合わせる。……すると手に重さを感じるとともに、クリスタルに緑の風が吸い込まれるようにして消えていった。よし、上手くいった……。


「コーゾー様……凄いです。本当に打ち消しちゃいましたね……」


「ああ……」


「コーゾーさんっ、凄すぎですー!」


「ラズエルよりずっとちゅごいっ」


「ご主人様、凄いです!」


「すんごいのだー!」


「……うぬう……」


 ラズエルの顔が見る見る赤くなる。全体が青いから余計目立つな……。


「……だっ、だからなんだ。打ち消しただけではないか! 我と変わらぬ。風と火以外は自動で防げる分、我は貴様の完全な上位互換だ!」


「じゃあ、風と火は俺が上なのは認めるんだな」


「……そ、そこだけではないか! 調子に乗るな、凶悪犯めっ!」


 少しは見返せた感じはあるが、ラズエルは懲りてないようだしまだまだだな。


 通路をさらに奥へと進んでいくと、ハイドマンやブライトマンも出てきて、ラズエルは今まで以上にムキになって回り込んで結界を張ってきたが、ワインドマンが出てくると俺に任せていた。そのたびに顔をしかめながら舌打ちしていたが……。




 狭い通路を抜けた先には、天井、床、壁、それに脇に置かれた燭台や香壇、机に至るまで金色に輝く広大な空間があった。奥には幅のある黒い扉があり、一際異彩を放っている。ここが聖所であの扉の向こうに神殿最奥の至聖所があるってわけか……。


 さらに、室内には今まで出てきた魔物たちのほかに火の玉が多く飛び交っているのがわかる。


「――《マジックキャンセル》」


 俺の期待通り、やつはブレイズマンといって近寄ると人型になり火の魔法を放ってきた。当然、ラズエルは火の結界がないために俺の出番も増える。


 タイミングもわかってきたし、ほぼ敵の魔法をキャンセルすることに成功していた。杖に帯びた光が少し長持ちしてる気がして、もしやと思い精神鏡で確認したところ、案の定術のレベルが2になっていた。いいぞ、この調子だ……。


 こうなると攻撃魔法も欲しくなるが、それは贅沢だろうか? いずれにせよ、風と火の魔法を打ち消すことでラズエルの舌打ちとシャイルたちの歓声が交じり合う格好になった。


 順風満帆だが、唯一気になるのはアトリの顔色が悪くて表情も少し浮かないところだ。


「アトリ、ちょっと疲れてるんじゃないか?」


「……いえ、大丈夫ですっ」


「そ、そうか……」


 アトリの笑顔、力がないように見えるんだが……。


「……ふっ。無理はするな。そろそろ帰るぞ」


「……」


 よくみるとラズエルの顔色も悪いな。こっちは原因がわかるが……。


「さてはあんた、至聖所に出るっていうボスが怖いんでしょっ」


「怖いんですの……?」


「怖いのだ!?」


「……ばっ、バカを言うな! 我に怖いものなど存在せぬわ! ただ、まともな攻撃手段がないだろう? あのボスはタフだから火力がいる。召喚師を含む魔法職のパーティーでも倒すのに半日もかかるのだぞ。我の劣化コピーと騎士が一緒では、負けもしないが勝つこともできん!」


「ププッ……!」


「わ、笑うな、三流鑑定師!」


 相変わらず口の減らないラズエルだが、ターニャの笑い声に誘発されるようにシャイルたちも笑ってるし、最早ギャグキャラになってるな……。でも俺たちに火力役がいないのは確かだし、もし至聖所にボスがいるなら行くのは止めといたほうがよさそうだ。


「アトリ、ボスはいるか?」


「……います」


「……」


 よく考えたら人自体いないんだし、そりゃ倒されずに残ってるよな……。


「じゃあ帰るか」


「……あの……」


「……ん? どうした?」


「……先客がいます……」


「……え、先客……?」


「……はい。一人……」


 アトリの声が露骨に萎んでいて、それで俺は扉の向こうに誰がいるのか察してしまった……。

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