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第六七回 風


「――あっ……」


 土が剥き出しになっている前庭に足を踏み入れた途端、祭壇の周囲に弓を構えたスケルトンが十匹ほど現れ、一斉に矢を放ってきた。


「《ウィンドブレード》」


 アトリが例の剣術を使うも、半透明の結界により矢が全部落下しただけで、魔物たちはびくともしなかった。


「おっと……。そこの子供が何かしたっぽいが、我の結界で無効になったようだな」


 ラズエルが振り返ってきて見慣れたドヤ顔を披露する中、骸骨の弓兵からどんどん次の矢が放たれるが、そのたびに結界に弾かれて落下し、地面に吸い込まれるように消えていった。


 よく見ると、古代言語らしき文字が彫られた石造りの祭壇には血が飛び散ったような跡があり、所々恨めしそうな人の顔が浮かんでいるのがわかった。なんとも不気味だ……。


「ラズエル様、デッドシューターくらい私にも倒せます。結界を解除してください」


「……なるほど、出番がなくて悔しかったのか。しかし今時物理職とは珍しいな。貴様が望むなら我の靴磨きくらいさせてやるぞ。パワーだけはあるだろうからいい具合に綺麗になりそうだ」


「……くっ……」


「悔しいか? 凶悪犯。我を斬り殺したいなら早く来るがよい。少しくらいなら遊んでやるぞ」


「……もういいです。私のことはいいですから、コーゾー様にレベル上げの機会を与えてください……」


「んーむ。その言い方だと我が妨害したかのようだが、これは彼を思っての行動だ。世の中の厳しさというものを少しくらい知らなければ、大きくなれんぞ……?《ミラーシールド》」


 周囲を囲む半透明な無色の結界が輝いたかと思うと、矢を反射してしまった。それも同じような軌道、速度で戻っていき、弓兵たちがことごとく射抜かれていく。


「見よ、我の術の素晴らしさを……。物理攻撃を無効化するどころか跳ね返せるのだ。貴様らの出番など永久に来ないだろうな。すまん。強くて……ハッハッハ!」


「……」


 なんとかならないものか。ラズエルが強いのはよくわかったが、このままじゃみんなの不満が高まるばかりだ……。


「――さ、さて、貴様ら、そろそろ帰るか」


 ん? 奥にある通路に入ろうとしたとき、急にラズエルがはっとした顔で振り返ってきた。


「ここまで来たんだから先に行ってみたいんだが。ボスが出る至聖所はともかく……」


「こ、ここから先は危険だぞ……」


 変だな。ラズエルが動揺した顔をしている。


「シャイル、至聖所のあるこの方角は吉か凶か教えてくれ」


「うん。吉って出てるよ」


「……なっ……出鱈目を言うな、妖精!」


「出鱈目じゃないもん。べー!」


「き、貴様っ!」


「ラズエル様、この子は闇の妖精で、どの方角が吉凶なのかわかるんです。それが外れたことは今までありません」


「う……」


 アトリの説明でラズエルが露骨に顔をしかめている。何かこの先に、彼女にとってまずいものでもありそうだな。


「それとも、怖いんですか?」


「ば、バカを言うな! 我に怖いものなど何も存在せぬわ!」


 ずかずかと大股で通路に入っていくラズエル。明らかに動揺してるな。こりゃ楽しみになってきた……。




 通路の先、ひび割れた洗盤の後ろには緩やかな下りの階段があり、下っていくと先が見えない曲がりくねった道に出て、先に進むたびに冷ややかな風が吹いてきた。なんだ? もしかして外に通じてるんだろうか……。


「――来ます……」


 アトリの声で立ち止まってまもなく、俺たちの前方に緑色の竜巻が現れた。あのウィンドギフトをさらに小さくしたようなやつだ。


「ワインドマンです……!」


 ターニャが叫ぶ。マンがつくってことは……。


 予想通り、ワインドマンという魔物は瞬く間に人型となり、掲げた杖らしきものから緑色の球を放ってきた。


「……うっ……」


 ラズエルを中心として周囲に半透明の土色の結界が張られるが、緑色の球が貫通してラズエルに命中する。


「……う、うぬぅ……」


 彼女は苦しそうに胸を押さえつつ歩き、魔物に結界を押し付けて消滅させた。倒したとはいっても結構時間かかってたし、それまで威張り散らしたブルーオーガとは思えなかった……。


「……はぁ、はぁ……」


 両膝に手を乗せたラズエルの荒々しい呼吸の音だけが響く。若干気まずい空気だが、悪くない。今までよりはよっぽど清々しい。


「ラズエル、間違えたのか?」


「……じ、自動なのに間違えるわけがなかろう……! これでも50%は防げる。も……問題ない……ぐぐっ……」


「……」


 なるほど。100%防げる風属性の魔法を持ってないのか……。その影響か青いローブも所々破けちゃってるし、先に進みたくない理由がわかった。


「お、おい、じっと見るな雄犬っ。我にも弱点くらいある……。といっても、使えないのは風と火の魔法くらいだが……」


「コーゾー様は全種の魔法が使えますよ」


「……な、何……?」


 一瞬呆然とした顔を見せたラズエルだったが、すぐに口をひん曲げて意地が悪そうに笑ってみせた。


「だ、だからどうした……? それを活かせぬなら宝の持ち腐れに過ぎん……」


「ラズエル、とりあえずワインドマンの魔法の対処は俺に任せてくれ」


「……は? 結界術師でもない貴様に何ができるというのだ……」


「まあ見ててくれ」


 今こそあれを試すべきだな……。

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