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第四九回 道連れ


「……まっ、魔女、よ……頼む……待ってくれ……!」


 呼吸を整える暇もなかった。魔女にどんなに近寄っても何故か遥か遠くにいるように思えて、俺は必死にその背中に呼びかけていた。それでも彼女は止まる気配がなく、ひたすら前に進んでいる。


「俺たちも一緒に……一緒に行ってもいいか……?」


 応答はなかった。ただ遠ざかる魔女の背中を見るだけだ。顔見知りであろうと、許可を得られない限り彼女と一緒に行くのは危険な気がした。今までとは雰囲気がかなり違っていて、より危ない感じがするんだ……。


「……頼む、一緒に……あっ……」


 それでも諦めきれなくて追いかけながら話しかけると、まもなく彼女は立ち止まり、振り返ってうなずいてくれた。ようやく許しを得たということだろう……。


 魔女はもう時間がないとばかりにすぐ歩き出している。もし少しでも諦めていたら、俺は許可のサインすらも見逃していたはずだ……。俺たちはお互いの顔を見合わせてうなずき、再び魔女のあとを追った。


「――……こっちに魔女がいるなら百人力ねっ」


 安心したのか、早速シャイルが俺の肩の上に出てきて軽口を叩く。


「シャイル、それを言うなら千人力ですわっ。魔女様、気を悪くしたかもしれませんけれど、たかが妖精の戯言ですから、軽く聞き流してくださいましね……」


「あんたこそ、ただのお人形なんだから引っ込んでなさいよ!」


「まー、怖いですわ。いつもこんな調子でございますのっ。ホホッ……」


「この、猫被り泥人形!」


「ど、泥人形!? それは聞き捨てなりませんわ……!」


「……」


 魔女は振り返ることすらなかった。


「やーい、二人とも無視されたのだー」


「「ヤファ、お手っ」」


「ガルルッ……」


「「きゃー!」」


 例の三人はいつものようにはしゃいでるが、やはり魔女はまったく反応しない。無視しているというより、気力だけで立っているような気がする。今にも倒れそうな感じすらあった。


「魔女よ……俺が背負っていこうか……?」


「……し……」


 お、反応してくれた。しってなんだ。黙れってことだろうか……?


「……死んでも、いいなら……」


「……え、遠慮しとく……」


 さすがに馴れ馴れしくしすぎたらしい。それにしても、声がやたらと弱々しかったしそっちのほうも心配になる。本当に大丈夫なんだろうか……。




 ――やがて木々の根元を浸す沼地が見えてきた。この辺りから既に地面がぬかるんでいて歩きにくい。あれ、魔女が急に立ち止まった……。


「……死にたくなければ、それ以上歩かないで」


「……え……?」


「《エル・ストーンラッシュ》!」


 一瞬だった。


 魔女の詠唱によって横から無数の石の塊が雪崩れ込んできたかと思うと、途中でピタリと止まった。石ころの山によって、ぬかるんだ地面は埋め尽くされ、木々はなぎ倒され、俺たちの前には灰色の道が出来上がっていた。


 ……地の範囲魔法みたいだな。エルが頭についてるから威力は桁違いだろうが、多分術自体は初歩のものではないだろう。洞窟前で彼女の地系の術を既に見てるしな。


 それにしても、もし魔女の忠告を聞かずに一歩でも前に進んでいたらと思うとぞっとする。俺の耐性をもってしても命はなかったはず。これが、魔女の魔法なのだ……。


 しばらく魔女の出す石の絨毯を歩いていると、とうとう沼地に到着した。周囲には薬草らしきものも見られるが、魔女は立ち止まっただけで手を出す気配がまったくない。あれ? 薬草を採取しにきたんじゃなかったんだろうか……?


「……コーゾー様、周囲に敵の気配が……」


「山賊か……?」


「はい、そのようです。おそらく百人くらいいます……」


「……百人……」


「「「ひー!」」」


 シャイルたちが青い顔で身を寄せ合っている。それだけいるってことは、どうやら山賊たちも総出でお迎えにきたようだな……。


「……今更気付いた、の……」


「え?」


 魔女は振り返ることなく言った。


「ずっと前から……ついてきていた……」


「……そんなことまでわかるのか……」


 ってことは、俺を監視してたやつがいたっぽいな。


 あ……もしかしたら、ギルドで会ったあの目つきの鋭い男かもしれない。薬草を欲しがってることは知られてるわけだし、村の外に出た時点であいつが仲間に知らせた可能性はある。


「……うっ……」


「魔女!?」


 魔女が倒れそうになったのがわかって近寄ったが、凄い形相で睨まれて止まった。


「……触るな。触ったら殺す……」


「……うあ……」


 一切触れてはいなかったが、俺の命はもうここまでだと思った。それくらいの殺気が伝わってきて、まだ生きていると気付くのに少し時間がかかった……。


「……魔女様。もしコーゾー様に手を出せば、私の全てを賭けてあなたを殺しにいきます……」


「……」


 アトリの鋭い声に対し、魔女はやはり何も答えなかった。ただ、ほんのちょっとだけ目を大きくして驚いている様子だった。みんなに恐れられている魔女だし、人間にそんなことを言われたこと自体、おそらくなかっただろうしな……。

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