第五十回 頭
「そこまでだ、お前たち」
「……なっ……?」
周りから頭に布を巻いた男たちがぞろぞろと出てくる。前方にいる長身の男を除き、みんなギルドにいた怪しい男と背恰好も顔も似たような連中で、沼地の前で俺たちを取り囲んで一斉に弓を構えた。
……とはいえ、一斉に弓矢を放たれてもレベル6の風魔法でなんとかなるだろうし、それにこっちにはアトリと魔女もいるんだ。心配はまったくしてない。
それにしても、彼らが山賊なのは間違いなさそうだが、唯一警戒すべき魔女らしき頭領の姿はどこにも見当たらないな。それらしいのは前方に一人だけいるが、全然魔法職っぽくなくて普通に弓を構えてるし違うんだろう。この状況では、俺たちが圧倒的に有利だ……。
「俺様……いや、私は優しい男だ。着ているもの全部置いていきなさい。死にたくないならなあっ!」
お、前方にいる長身の男が、白い歯を見せながら高らかに宣言した。こっちに魔女がいるとは思ってないらしい。まあ見た目が幼女だし、帽子もつけてるしな……。
「……あ、一応おっさんにだけ言っとくが、下着だけは脱がなくても大丈夫だっ。それを脱ぐのは雌犬だけでいい……」
「「「「「ケケケッ……」」」」」
周囲から下卑た笑い声が聞こえてくる。前方にいる男、山賊を率いる副隊長みたいな存在なんだろうか。
「お願いです、助けてください」
何を思ったのか、魔女がそんなことを言い出した。やろうと思えば簡単に皆殺しにできるだろうに、考えられない台詞だ。一体何を考えてるんだ……。
「な、なんだこのクソガキャー」
「命までは奪わねえから服や持ち物を置いてけってんだろうが、バカガキッ!」
「殺されてえのか、あ!? このクソアマァッ!」
「「「「「脱げっ!」」」」」
周りの男たちが魔女にどんどん罵声を浴びせていてヒヤヒヤする。次の瞬間には彼らが皆殺しにされてもおかしくないからだ。
「はい、脱ぎます。その前に聞きたいんですが、あなたたたちの親分は誰ですか?」
「おいおい! 下っ端じゃ話にならねえってのか!?」
「そうじゃないです。山賊のお頭なら帽子くらいは許してくださると思って。それとも、それすら許さないケチな親分なんですか?」
「て、てめえ!」
「ぶっ殺すぞガキャー!」
「待て、お前たち……っと……。危なっ……!」
前方にいる男が涼しい笑みを浮かべながら一歩前に出てきたが、滑って沼地に落ちそうになり、慌てた様子で戻っていった。
「ププッ……あの人、おかしー」
「ですわねぇ……」
「面白いのだー」
あの男、シャイルたちには受けがいいようだ。落ちそうになったのが恥ずかしかったのか、顔を赤くしてるが……。
「お、面白いガキどもだ。まさか、山賊を前にしてここまで堂々とした態度を取るとはな……。気に入ったぜ。その度胸に免じて、私が親分を呼んできてあげよう」
「ちょっと、カルファーン様!? なんでそんな要求を呑むんですか!」
「そうだそうだ! こんな弱そうなやつら、俺たちだけでも充分でしょう!」
「早く持ち物奪っちまおうよ!」
「まあ待て、お前たち。おっさんは論外として、生意気なガキどもが裸で泣き喚く姿、見てみたいだろう?」
「「「「「見たいっ!」」」」」
それまでブーイングが起こっていたが、一転して歓声に変わる。単純なやつらだ……。
「では、親分を呼んでくる。精々、覚悟くらいはしておくことだ……」
カルファーンと呼ばれた男が姿をくらましてしまった。これだけ山賊たちは結集しているのに親分だけなんでこの場にいないのか。それにしても、魔女は一体なんの目的で親分を呼んだんだろう。沼地の薬草が目的じゃなかったのか……?
「……うっ……」
また魔女がバランスを崩して倒れそうになる。足も震えてるし、かなり苦しそうだな……。
「「「「「ケケケッ!」」」」」
周りの男たちは、ただの子供が緊張ゆえにそうなったと思ったのか笑い声を上げていた。
「びびったのか!?」
「ざまあねえな!」
「ママのおっぱいでも飲んでな!」
「……黙れ」
「……ひっ……?」
魔女に睨まれた男が青ざめて尻餅をついていた。しかも立ち上がれない様子だから腰を抜かしてしまったんだろう。弱っても、睨むだけでこれだけ相手を圧倒するんだから、腐っても魔女だな。近くにいる山賊仲間が呆れ顔で起こしていた。
「なんだお前、ガキに睨まれただけでなっさけねえなあ。……お、来たぞ!」
男たちの視線が、カルファーンが去っていった方向に一斉に向けられるのがわかる。
「――待たせたな!」
「「「親分!」」」
前方から黒いローブを着たカルファーンが颯爽と出てきた。右手には、ただの木の枝にしか見えない杖が握られている。……って、あれ? 親分の姿らしきものは依然見当たらない。まさか、彼がそうだったって落ちか……? しかもまた沼に落ちそうになってるし……。
「お、おっとっと……。危ない……。さ、さあ見て驚け! 聞いて驚け! 俺様こそ、魔女カルファーン様であるぞー!」
「「「「「わああああー!」」」」」
俺たちの前で勢いよく頭に巻いた布を脱ぎ捨てるカルファーン。くせのあるその短い髪は、確かに緑色だった……。




