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回復薬

前日分の投稿を素で忘れておりました、申し訳ありません

「行きましょうアリスさん、錬金棟へ!」


「わ、ちょ、メルク!?」


「アリスちゃーん!」


 私はメルクに襟足を掴まれて出口まで引っ張られた。

結構息がしにくい。というかかなり苦しい。シエルさんが慌ててこっちへ来るのが見える。


「ちょ……ちょっと待ってメルク、錬金棟は人が多すぎ……」


「あぁ……それもそうですね」


 メルクは手を離してくれた。危ない。あのまま引きずられてたら死に戻るところだった……。


「では何処へ?」


「ここに錬金スペースあるから、そこでしよう」


 メルクは頷く。

私はアデプトさんに許可を取ると、店の奥のスペースへと急いだ。というかメルクが急いでた。


――――


「さて、ではまず私の見解からですね」


 メルクはアデプトさんの印がガラス瓶に刻印された『回復薬ポーション』を目の前に差し出す。

鑑定しろということだろう。私は頷いて【鑑定】を使う。


――――

HP回復薬ポーション++』▽

〈水〉〈ガラス〉〈耐???〉

{冷-9:9-乾}


 アデプトお手製のポーション。

 他のポーションよりも「第五精髄」の含有量が多く、その為回復量も高い。

 だが、その味の悪さは変わることはなかった。

 またこれに限った事ではないが、効果は上から順に適応される。

 まずさで死ななよう注意をするべきだろう。

 効果▽

  まずい(HP-30)

  HP即時回復(HP+700)

――――


「それで、これがどうしたの?」


「『賢者の石』と『回復薬ポーション』の違いです。何が違うのか不思議に思っていたんですけど……私の仮説が正しいのならその違いも証明されます」


「えっと……どういうこと?」


 私がそう言うと、メルクは不敵に笑って2脚の椅子とプロジェクターっぽい何かを取り出した。

……いつもの奴だ!一体メルクはどうやってこれをやってるんだろう……。こんなことできそうなスキル、全然見当たらないんだけど。


「まず結論から先に言います。「真空パック」と「永遠に腐らない」の違いです」


「えっと……?」


 メルクはいつの間にか装備していた杖からレーザーを出し、肉の絵が描かれた画面に向かって指す。横に座っているシエルさんをチラリと見たが、シエルさんも困惑していた。


「例えば、生肉は放置しておくと腐りますよね?でも真空パックで細菌から守ることによって腐ることはなくなります」


「そう……だね」


 ……この話が一体どうやって『賢者の石』と『回復薬ポーション』の違いに結びつくんだろう……。


「これが『回復薬ポーション』の仕組みです。一方『賢者の石』は防腐剤をかけた肉、とでも言えば良いでしょうか」


「うわっ、不味そう」


「例えです。では詳しく見ていきますね」


 メルクが画面を別のものへ切り替える。そこには第一質料と書かれた丸が、外部の性質と結合して四大元素となる様子が描かれていた。


「まず、第一質料は放置しておくと勝手に性質と結合して四大元素になってしまいます。そのため現世に存在できません」


「うん、そこは分かる」


 すると、画面の性質と結合している絵の間に“塩”と書かれた丸が割り込んできた。


「そしてこの文言をアリスさんは覚えていますか?『ここで注意したいのは、『塩』はその中間的な性質により争いを止めるだけでなく生まれた性質が第一質料と結合する事も止めることだ』、という一文を」


「あ、なるほど!」


 そういうことか。勝手に性質と結合するなら結合しないようにすればいい。

そこで『塩』を噛ませることで第一質料が結合するのを妨害する、って訳か。


「そうです。では『賢者の石』ですが、こちらは「既に性質と結合しているので他の性質と結合しない第一質料」という訳ですね。『塩』の力がなくとも現世に存在できるものです」


 なるほど。だから『回復薬ポーション』と『賢者の石』は別なのか。


「……というかメルク、よく思いつけたねそんなこと」


「あの戦争の時、『回復薬ポーション』を飲んだことがあったんですが――物凄い塩辛かったんですよ、あれ」


 あー、あの時「味が……」って呟いてたのはそういうことか。

というか、だから『回復薬ポーション』にはまずいって特徴があるのか……。


「……原理は分かったけど、それどうやって錬金するの?」


「まあ見ていてください」


 メルクはそう言って、部屋の中央にある錬金釜の中に雑多なアイテムをぶち込んだ。

適当に混ぜると、メルクは幾らか塩を振りまいて空き瓶を取り出す。


「ここで注意すべきなのは、錬金しようとしない(・・・・・・・・・)ことです。『回復薬ポーション』は、私の仮説が正しければ――錬金では作ることはできません」


「え、じゃあどうやって作るの?」


 メルクは笑う。


「こうやって――です!」


 メルクは錬金釜に溜まっている液体を直接掬おうとした。

空き瓶は溶けた。


「……んん?」


 メルクがどうしてこうなったのか分からないって感じの顔をしている。

……いや、錬金釜に入ってる液体って何でも溶かす液体だし。そりゃまあそうなるでしょ。


「――あぁ、そういうことね」


 今度はシエルが何か閃いたらしい。当惑しているメルクをよそに、シエルさんはアデプトさんの刻印が付いている空き瓶を取り出した。


「〈耐???〉って形相。あれ、多分〈耐万物融解液(アルカエスト)〉だと思う」


 え、アルカエストって何?

困惑している私達をよそに、シエルは空き瓶を思いっきり錬金釜の中に突っ込んだ。

……ちょっ、手が入ってるんだけど!え、大丈夫なのあれ!?


「シエルさん!腕が……」


「あ、これ?いやいや、全然大丈夫だよ。ほら」


 シエルは腕を錬金釜の中から引き上げる。子供には見せられない光景が広がるものと思っていたが、別にそんなことはなかった。

腕も手も溶けてはいないし、空き瓶も溶けていない。


「前にさ、アイナちゃんが釜に直接手を突っ込んで錬金してるのを見てねー。もしかしたら人って錬金釜で溶かされないのかな?って思ってやってみたら、以外と溶けなかったの」


 そう言ってシエルは笑う。

……よく実験したねシエル。凄い精神力というかなんというか。


「で、これでいいの?」


 シエルが『回復薬ポーション』を差し出す。

……とりあえず鑑定してみるか。


――――

『塩水入り瓶』▽

〈水〉〈ガラス〉〈耐???〉

{冷-9:9-乾}


 塩辛い水の入った瓶。

 効果▽

  まずい(HP-30)

――――


「……?」


 なんか……回復薬ポーションになってなくない……?

とりあえず私は鑑定結果を皆に伝えた。


「え、ただの塩水になってました……?」


「うん」


 何回か【鑑定】してみたが、塩水は塩水だった。

メルクの理論は間違ってなさそうに見えたが、一体何がダメだったんだろうか。

メルクと私がむむむと悩んでいるとき、シエルが少し申し訳なさそうに口を開いた。


「あー、実はね……。そこに辿り着いてるプレイヤーって結構いるんだよね」


「え、そうなの?」


「うん。回復薬ポーションのレシピ思いついた!って言って塩水にしかならずに諦めていった錬金術師は結構いたから」


 って事は、メルクの意見に辿り着いているプレイヤーは一定数いるのか。

でも、今のところ回復薬ポーションを錬金できたという情報はない。ということは、皆こうして塩水しか作れずに詰まっているのか。


 ……って、ちょっとメルク?何してるの?


「あぁ、ちょっと味を確かめようと思って」


 メルクは今にもその塩水を飲まんとしていた。

……それさ、入ってるの何でも溶かす液体だよね?飲んで大丈夫なの?


「シエルさんが腕を入れても大丈夫だったんですから、飲んでも大丈夫な筈です」


 おおう憶測。

メルクは一気に回復薬ポーションを煽った。

……!メルクがこれまでに見たこともないような顔してる!

今にも飲んだものを吐き出しそうな顔だ。まあ得体の知れないものだしね……。


「っ……。……ふぅ」


「な、何か分かった……?」


「味は一緒です、回復薬ポーションと」


「な、なるほど……」


 メルク、中々チャレンジ精神あるよね……。流石に私は何でも溶かす液体を飲もうなんて気にはなれない。


「となると……何が違うんでしょうか」


 メルクが考え込む。

そしてまたメルクは俯いて「塩……優先度……性質……」というようなことを呟いている。

……あ、そうだ。ちょっとメルクの理論が正しいか試してみるか。


「……アリスちゃん?何してるの?」


「ん?あぁ、メルクの理論が正しいのか確かめてるの」


 私は一つだけ持っていた回復薬ポーションの瓶の中に適当なアイテムをねじ込んでいた。

もし仮にメルクのやり方が正しいのであれば、この中に入っているのはなんでも溶かす液体の筈だし。


「おっ?」


 どうやらメルクの言っていることは正しかったようだ。

中に入れたアイテムは泡を出しながらあっという間に溶けた。

……とりあえず、この結果から一つ分かった事がある。


「私達これ飲んでたんだ……」


 知らなきゃ良かった……。臓器とか溶かされてるんじゃないのこれ。凄い不安になるんだけど。


「……そうか!ナイスですアリスさん!」


「え、どうしたのメルク?」


 メルクが思い詰めた表情で回復薬ポーションを持っていた私の手をがっちりと掴む。


「その回復薬ポーション、【鑑定】してみてください!もしかしたら――回復量が減ってるかもしれません!」


「え、ええ?」


 その凄い剣幕に押されて私はとりあえず【鑑定】をする。

物を一個混ぜたくらいでそう回復力が変わるなんてことないと思うんだけどなぁ……。


――――

『塩水入り瓶』▽

〈水〉〈ガラス〉〈耐???〉

{冷-9:9-乾}


 不純物の混ざったポーション。

そのため、回復力はない。

 効果▽

  まずい(HP-30)

――――


「消えてる……!」


 回復力が減ってるどころか消えてた!しかも鑑定文も何か別のものになってる!

私は慌ててこのことをメルクに伝えた。

それを聞いたメルクはぱああっと笑顔を浮かべ、嬉々としてメルクの考えた理論を語り始めた。


「やっぱりです!『塩』は性質があるとそっちに行ってしまうんですよ!」


「えっと……どういうこと?」


 シエルも興味深そうにメルクの話を聞いている。

メルクはニヤリと笑みを浮かべて話し始めた。


「『塩』が第一質料を性質と結合しないようにする、というものは副次的なもの――『塩』が余っている時にしか起こらないんです。そして『塩』が余るという事態はまず起こらない。それは……」


「それは?」


 ビシッとメルクが私達に向かって指を指す。


「『塩』が性質同士の争いを止めにいくからです!」


「……んん?」


「あぁ、そういうことね」


 どうやらシエルは分かったようだ。

私は全く分からない。どういうことだろう……。

そう頭上にはてなマークを浮かべていた私に、シエルさんは丁寧にメルクの理論を噛み砕いて教えてくれた。


「メルクちゃんが言いたいことはこういうことだと思うよ。第一質料と『塩』だけなら『塩』が外界の性質から第一質料を守るけど、第一質料と『塩』に加えて『硫黄』や『水銀』が混ざると『塩』は二つの争いを止めに行っちゃうから第一質料を守らなくなる。

だからさっきのアイテムを入れた回復薬ポーションの回復力が消えたってことで合ってるよね?」


「はい!」


「なるほど……。でもさ、どうして『硫黄』とか『水銀』が混ざるの?あの液体の中って第一質料と性質だけだよね?」


 確かにメルクの考えた理論はおかしくないと思うけど、あの液体の中にアイテムを入れても第一質料と性質に分かれるだけで、『硫黄』とか『水銀』は混ざらないと思うんだけど。


「いえ、違いますアリスさん。あの液体は物体を『硫黄』と『水銀』、『塩』の状態にまで戻すんです。――少なくともそうでないと説明が付きません」


「えっ、そうなの?」


「多分……」


 メルクは自信なさげだ。

正直私もこんがらがってきてよく分からなくなってきたんだけど、要するにこういうことなんだろうか。


「えっと……とりあえず、どうにかして第一質料と『塩』だけにしなくちゃいけないんだけど、普通にアイテムを溶かすと第一質料だけじゃなくて『硫黄』と『水銀』も混ざっちゃう……で合ってる?」


「そう……ですね、多分」


「じゃないかな?」


 私達は三人で顔を見合わせる。

若干頭がごちゃごちゃになってきたとはいえ、ここまでくれば回復薬ポーションの作り方は分かったようなものだ。


「つまり、どうにかして第一質料だけを溶かしたあの液体にアイテムの塩を加えれば出来上がりってことだね!」


 問題はどうやって第一質料だけをあの液体に溶かすかだけどね……。


 そしてメルクがいつものように椅子と机を出し、討論を始めようとした時――そのアナウンスは訪れた。

その内容は、次回大規模イベントについての概要がお知らせ欄に届いたというものだ。


「このイベントは……」


「なるほどね……」


 二人は「面白い」と言わんばかりに笑みを浮かべる。

私も一拍遅れてイベントについての概要を読み終えた。


「……つまり」


 私達三人の声が重なる。


回復薬ポーションをイベントまでに作れるようにならなきゃいけない……!」

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