新エリア探索
「武闘大会ねぇ……」
あれから一日が経ち、私はまた月曜日を迎えた。
昼休み、いつものメンバーで私達は昼食を摂りつつNHOの話をする。
「またありきたりな……。ですが、ありきたり故に運営はこのイベントに決めたんでしょうか」
「ま、そんな邪推はいいだろ。それよりイベント内容の話しようぜ」
栄水がイベントの詳細が書かれた公式HPのウィンドウを共有モードにし、私達に見せる。
そこにはイベントの詳細がつらつらと書いてあったが、栄水によれば要約するとこういうことらしい。
「ま、至って普通のルールだな。1vs1部門と2vs2部門に分かれて戦う。装備は自由だが、持ち込めるアイテムはそのプレイヤーの職業による……っと」
栄水がイベント詳細のページをスクロールし、別の大見出しを指でなぞる。
私的なこのイベントの一番の目玉はそれだ。このイベントにはなんと生産職にも争いの場が設けられている。
闘技部門に関してはあまり興味がなかったのでよく見てなかったが、そちらの方はしっかりと目を通していた。
「イベント中、屋台等を開いてより多く売り上げを上げたプレイヤーに報酬。職種別ランキングと全体ランキングの二つがあって、集計は闘技場が開かれる毎に行われる……でしょ?」
「流石丸暗記マスター」
私は数学ができない変わりに暗記を要する教科は取れる。丸暗記マスターと呼ばれた頃もあったくらいだ。
「丸暗記だけでは勉強は成り立ちませんよ。……それにしても、今回のイベントは中々苛烈なものになりそうですね」
「だね」
まさか生産職も争いに駆り出されるとは思わなかった。
正直言って、今回のイベントは前回のイベントとは違ってかなりやる気がある。
それは条件が明確であるというのもあるし、危険なプレイヤーに襲われないというのもある。だが何よりも……。
「お、この上位報酬って錬金術師にピッタリなんじゃないか?」
そう、上位報酬である。
幸いにもそれは全体売り上げのランキングではなく、職業別のランキングで上位に上がれば手に入るアイテムだ。
「うん、私これ狙ってるの」
私は“上位報酬一覧”と書かれた枠の中、『携帯型アトリエ』と書かれた一つを指さした。
「確かに錬金術師らしいといえばそうですね」
『携帯型アトリエ』、それはインベントリに入れて持ち運べる移動式の拠点らしい。
街の中やフィールド上にある安全地帯で使うことが可能で、使った場合プレイヤーと同じ程度の大きさのテントが作られる。内部は外観からは想像も付かないであろう大きさで、大体8畳ほどの大きさがあるそうだ。
私は拠点を持っていなかった(街の家を買って住むことができるらしいが、金欠で今までもこれからもできない)し、それに特定の場所に定住しようとは考えていなかったので丁度良いアイテムだ。
何より名前に“アトリエ”と付いているところが気に入った。
「あー、だから昨日は徹夜してたんですね」
「あはは……」
そう、私――いや、私とシエルとメルクは『携帯型アトリエ』のために屋台で『HP回復薬』を目玉商品にして売りまくり、職業別上位ランキングに入り込むという計画を企んでいた。
そのため昨日『HP回復薬』の製法を見つけるために徹夜したのだが……。それが祟って寝坊してしまった。
「ま、応援してるぜ。手伝えることがあったら言ってくれよ」
「ん、ありがと。じゃあさ、私と一緒に武闘大会に出てくれない?」
「は?」
栄水は唐突すぎて意味がわからない、というように固まっていた。ついでに委員長もフリーズしている。
「……あの、出るんですか?武闘大会」
「勿論。だって勝ち上がれたら錬金術師のいい宣伝になるでしょ?」
「……お前、まさかこのイベントで二冠取ろうと考えてるんじゃないよな?」
「え、考えてるけど」
錬金術師は貴重な戦おうと思えば戦える職業だ。
だったらイベントを最大限楽しむと同時に、錬金術師の宣伝行為に励もうと思ったのである。
錬金術師がまともにアイテムを作れるようになったといえども、盛り上がっているのは錬金術師と先見性のある一部のプレイヤーだけだ。
これでは錬金術師のプレイヤーが増えることはないだろう。
しかしここで私が武闘大会で好成績を収めればどうだろうか。錬金術師は戦うこともできるハイブリッドな職業だと一躍脚光を浴びるのではないか?私はそう考えたのだ。
「だからといって……二兎追うものは一兎を得ずですよ」
「まあ見ててって。絶対二冠取ってくるから」
委員長が深い溜息を付く。
これは何をしても無駄だと悟った時の委員長の癖だ。
「それにしても……2vs2のパートナー、俺でいいのか?」
「うん。盾役できそうなのって栄水しかいないしさ」
まず私は武闘大会で好成績を狙う、という行為において1vs1に出ようかと考えた。だが、流石に他プレイヤーのサポートなしでタイマンとなれば純戦闘職のプレイヤーに分がある。多分為すすべもなく負けるだろう。
であれば当然残る選択肢は2vs2だ。
そこで私は知り合いの中で誰を武闘大会のパートナーにしようかでかなり迷った。
まず槍玉に挙がったのはメルクだ。
長らく一緒に戦い、研究を続けてきた私の仲間だ。
だけどね、流石に二人共脆すぎるよね……。メルクは半分くらい回避盾とはいえ、ターゲットを取れるスキルを持ち合わせていない。まず私が狙われて倒され、次にメルクが狙われて倒される。そんな未来が見えた。
次にパートナー案に浮上したのはシエル、アイナさんだ。同じ錬金術師ということもあり、楽しく戦うことができるだろう。
しかし、私が武闘の部において求めているのは勝利のみである。流石にダブル錬金術師なんて構成で行けばただのカモだ。あえなくこの案は却下された。シエルに至っては連れて行けるかも分からないし。
その次にパートナー案に浮上したのはイグニスさんと委員長だ。
この二人はプレイヤースキルも高く、武闘大会で戦うであろうプレイヤー達とも互角に渡り合えるであろう逸材だ。
……まあね、それやるとシナジーも何もない遠距離職同士になっちゃうってのがね。
うん……。
パラケルススさんとかアデプトさん、フリップさんにフロップさんは……まあ、連れていけたら強すぎる。流石に運営はそんなことを認めないだろう。
まあそんなこんなで、半分くらい消去法で私はオグロこと栄水をパートナーに選ぶことにしたのだ。
まあオグロは僧侶盾だし、(若干決め手に欠ける気もするが)バランスは十分だろう。
私は以上のことをざっくりと栄水に説明した。
「……という訳で、栄水にはパートナーになって欲しいの」
「なるほどな。……ま、俺のギルドには俺と組むとなると途端に萎縮する奴しかいねぇし……丁度いい。じゃ、往こうか」
「ゆこう」
そういうことになった。
――――
「で、なら何故私を呼んだんだ?」
『真なる原風景』の《カルサイト》、そこに私含め三人のプレイヤーが門の付近に立っていた。
私とメルクとイグニスさんだ。この面子でこの場所、ということは勿論今からやることはアレしかない。
「アイテム採取と戦闘の練習を兼ねて、あそこに行こうかなって思って。後気分転換も」
「……あぁ、そういうことか」
つまるところそういうことである。『迷妄機関』に行くのだ。
あそこの敵は最初に行ったときイグニスさんが【識別】してくれたのだが、そのときに識別された敵のレベルは16だった。今の私とメルクのレベルは13、イグニスさんは15だ。
うん、若干力不足感は否めないけどね……他のエリアは地獄絵図になっているのだ。しょうがない。
いや、地獄絵図は流石に言い過ぎかもしれない。
だけどイベントの発表のせいでマップが酷いことになっているらしいのだ。
屋台で売るアイテムを作るために生産職が採取に本気を出したらしい。その結果『原初の荒野』や、ここ『真なる原風景』、『大樹海』(エルフ種族の初期ワールド)等のモンスターがまだまだ弱いエリアは人だかりが凄いことになっているらしい。
またそれを狙ったPKや、戦いたくがない故に起こしてしまったトレイン(魔物を大量に引き連れながら逃げること)等大変なことになっているそうだ。
そのため、最高効率での採取を考えるなら未だトップ勢しか辿り着けていない二つのマップや『魔の森』、生産職からそこまで人気のない『逆転湖』で採取をするのが良い、そう委員長からアドバイスを貰ったのだ。
……というかさ、まだイベント始まるまで二週間と半分くらいあるよ?皆気が早くない?
まあそんなこともあって、最初私は『逆転湖』で採取をしようとしていたのだけど。そこで私はもう一つの選択肢に気づいた。それこそが『迷妄機関』だ。
なんかメカメカしいアイテムしか入手できない気もするが、錬金術に関係するのは形相と結合比率だけだ。問題はない。
レベルもまあギリギリ戦えるくらいにはなったし、前々からあそこには何があるのか気になっていた。
……断じて『回復薬』の作り方が分からない腹いせという訳ではない。断じて。
「つまり良い機会ということですね」
「その通り!」
……というか、折角行くんだしとノリでイグニスさん呼んじゃったけど……大丈夫かな?
「大丈夫だ、私も生産職だからな。あの場所の素材は私も気になっていた」
「……あ。そういえばそうだったね」
そういえばイグニスさんって生産職だった。
最後に見たイグニスさんってゴツい銃を担いで指示を飛ばしたり撃ち合ったりと戦闘してばっかりだったから、完全に忘れていた。
「よし、じゃあ早速行こっか!」
私は「行くぞー!」と叫んで拳を上に突き上げる。
沈黙が辺りに訪れた。
そういえばこの二人ってそういうのにノってくれないプレイヤーだった……。
――――
「ここに来るのも久しぶりだな……」
「そこまで時間経ってないですけどね」
私は前回と同じように骨柱を破壊し、内部の謎の空間から『迷妄機関』へ移動した。蠍?あぁ、なんか流れで普通に倒せた。
そりゃまあ前回の私達とはレベルが違うしね。
ちなみに、今回は最初に来たときみたく真っ暗闇からライトアップで始まる演出は無かった。
またあれを体験したかったんだけど……ちょっと残念。
「よしイグニスさん、【識別】お願い!」
「了解だ」
イグニスさんが私達の少し前方をうろつく、私達の3倍程度の大きさがある機械に手をかざす。
その機械はUFOみたいな円盤にタコみたいな機械の足が8本くらい生えている感じの見た目で、円盤の下部には凄く未来っぽい銃器が生えている。その銃もイグニスさんの持っている銃っぽい何かではなく、完全に現代の銃のそれだ。
「レベルは16だ。名前は『ニーク・シャイベ』。上部のレーザーで地形情報や敵の情報を得ている自律機械だ。円盤部にダメージが通りやすく、また下腹部から生えている銃器は破壊可能だそうだ」
「了解。じゃあ先制攻撃を仕掛ける。レベル差はあると言えばあるくらいだから、場当たり的に戦っても勝てるはず」
「分かりました」
「なら指示は私が行おう。行くぞ、せーの……」
イグニスさんの「突貫!」という掛け声で私は駆け出した。付近に別の敵モンスターの存在は見えない。であれば確実に勝てるだろう。
「『銃弾』!加速しろ!」
私は形相が〈植物〉のみの銃弾を使った。それは円盤機械(命名:私)の円盤部を斜めに貫くと、円盤機械の奥にあるパイプに突き刺さって止まった。……なんかパイプから危険そうな煙出てるけど、大丈夫だよねこれ?
そう心配する私をよそに、動けなくなっている円盤機械にメルクが飛びかかった。メルクは銃器と円盤の間になんかよく分からない動きで空中をかっ飛びながら近寄ると――!?
えぇ、銃器と円盤の接合部分を折ってるんだけど……。メルクってそこまで筋力にステータス振ってないだろうし……何かのスキルかな。
一瞬であえなく足以外の攻撃手段を失った円盤機械はイグニスさんの「【一斉射撃】」という叫びと共に葬り去られた。
私達は急いでドロップアイテムを確認する。
「レアそうなのはありませんでした!」
「だろうね」
「はい」
まあ、あれがこのエリアの雑魚ってことなんだろう。
……これ、相手が一体だからなんとかなったけど……何体も相手にしたら結構やばそうだよね。というか相手の攻撃力を見れなかったのが結構痛かった。
とはいえ、ここは前人未到の地だ。マップや攻略情報も無いし、今の所は一本道だし、とりあえず道なりに進むしかない。
……次敵に遭ったら一発くらい攻撃受けてみるか。
そう考えながら道の先へと進もうとした時――。
「ひいっ!」
「ひゃっ!?」
私とイグニスさんの声が重なった。ちなみに私の名誉のために言っておくが、私の声は前者の方である。
「ぼ、亡霊……」
まさか機械の世界でそんなものと出会うなんて思いもしなかった。全体的に青みがかったオーラを纏っている人型で、目は薄い黒で体や髪、服は白い。何より足がないのが私が“亡霊である”と判断した理由だ。
くっ、ホラー苦手なプレイヤーにはとことん厳しいなNHO……。
「……あの、あれ……私達を呼んでません?」
「馬鹿な、死人からの呼び声だと……」
「ありえないよメルク。ちょっと休んだ方がいいよ」
「いや、でも……」
メルクは渋る。
しょうがないなぁ、あんまり直視はしたくないんだけど……見てみ――!?
あ、あの手の動きは……!
よ、呼んでる……私達を……。
「ほら、行きますよアリスさん。イグニスさんも」
嫌だ!私は行きたくない!
ぐっ……意外とメルクの力が強い。やめてー!
結局メルクは私とイグニスさんの二人を引きずってその亡霊の元まで近づいていった。すると……。
「……!?壁が開いた……?」
その亡霊のすぐ傍にあった壁が開いた。
……この亡霊、一体私達をどこに誘おうとしているんだ――!




