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島の外の戦い2

ヨンフリーの振り上げた剣を見て、海竜は高速で海中に首を沈めるべく潜り始めた。

だが、海竜の潜るスピードよりもヨンフリーの踏み込むスピードの方がまだ速い。首が海中に戻りきる前までには剣は充分届きそうだ。


しかし、この時ヨンフリーは、海竜の首を切り落とすべきか、それとも怪我を負わせるだけに留めておくか、一瞬迷い、躊躇した。大怪我を負わせ、敵わない事を思い知らせれば、諦めて引き返してくれるのではないかという思いが頭の中をよぎったのだ。

だが、そう思ったのは一瞬だけで、すぐに海竜には仲間がいた事を思い出す。この一体にだけ情けをかけても海竜の攻撃は止まらないどころか、逃がした事で逆に他所の戦いに悪影響を与える事にだってなりかねない。であるならば、手心を加える訳にはいかない。


「苦しまない様、せめて一撃で屠ってあげるわね」

ヨンフリーは風の剣を振り上げた。

既に十分なスピードに達しているので、その状態を維持したまま、海竜の首の脇を通り過ぎる事が出来れば、それだけで自動的に海竜の首が飛ぶ。それで決着となるはず…だった。


しかし、ヨンフリーが海竜に迫り、風の剣が海竜の首に届く寸前の所で、ヨンフリーの足元の海面が急激に盛り上がり、間髪入れずに、そこから丸太のような何か円柱状の物体が物凄いスピードで飛び出してきた。

海竜の尾だ。

海竜は海中で体を折り曲げ、尾の先をヨンフリーとの間に滑り込ませたのだ。


ヨンフリーは身体を斜めにしながらも、風の剣を予定通りに横に薙いだ。風の刃を通してしっかりした手ごたえが伝わってくる。が、ヨンフリーが薙いだのは海竜の首ではなかった。先程海中から現れたばかりの尾の先が、真紅の飛沫をあげて海中へと沈んで行く。指し込まれた尻尾の所為で、首までは届かなかったのだ。


急いで後ろを振り返る。が、ヨンフリーが振り向くのとほぼ時を同じくして海竜の頭は海中に消えていた。

激しく飛び散る水しぶき。

それを避けつつ急上昇したヨンフリーは、空中で一旦停止した。そこで海中に逃げた海竜の様子を窺う事にする。まんまと逃げおおせた海竜は、今度は何処から襲って来るかわからない。その為、位置を把握する事は重要なのだ。


しかし、気が付くと海竜の気配はもうヨンフリーの直下にはなくなっていた。海竜は既に島に向かって移動している。

「あらあら、私を無視して行こうなんて、随分と憎らしい事をしてくれるじゃない」


言いつつ、ヨンフリーは海竜を追いかけ動き出した。

海竜は海に潜っている所為か、それほど速いスピードでは移動出来ていない。なので、すぐに追いつく事が出来そうだ。

とはいえ、海竜は海中にいるので普通の攻撃では届かない。ヨンフリーは更に一つ魔法を重ねて掛けた。自分の周りに空気の層をつくる魔法だ。風の剣もまだ解除しない。


そしてその状態のまま海の中へと突入する。

ヨンフリーが海中へと突入すると、それに気付いた海竜は明らかに動揺しているようだった。海中にいれば攻撃されずにすむと油断していたのだろう。それまでのゆったりとした動きの泳ぎを止め、急いでヨンフリーの方へと頭を向ける。そして、鋭い目でヨンフリーを睨みつけながら、速度を上げて近づいて来る。


だがそれはヨンフリーにとっては都合の良い事だった。

海竜は海の中ならば自分の方が有利だと判断したのだろうが、ヨンフリーの飛行魔法は水の中でも自由に移動する事が可能だ。ある程度時間は限られるものの、海竜よりもずっと速く移動できるのだ。


そのスピードに乗って、今度こそ海竜の首を刎ねる…つもりが、その攻撃も避けられる。避けられるタイミングではないと思っていたので、ヨンフリーは驚いた。

「意外とやるじゃない。でも、今はあまり遊んでいる暇はないの」


言いつつ再度斬り掛るが、それもまた避けられる。どうやら長い胴体をうねらせる事で、頭の位置を微妙にずらしているらしい。ヨンフリーからしてみれば、海竜がそんな動きをする事など頭の中になかった為、その動きに惑わされてしまったのだ。


だが、これはわかっていれば対応できない動きではない。すぐに方向転換し、再び海竜の首を取るべく動き出す。

すると、海竜は今までとは違う動きで長い身体を器用に丸め、その反動で尻尾をしならせながらヨンフリーを叩き潰すべく迫って来る。が、尾の先は先程ヨンフリーが斬ってしまった為、既に無い。ヨンフリーはワザと切断された尻尾をギリギリの所でやり過ごすと、その流れに乗って風の刃を振るって薙いだ。


今度は海竜も避けきれない。

海竜は大きな頭の付け根の所でバッサリ二つに両断された。

こうなってしまってはさすがにもう生きてはいられない…はずなのだが、まだ油断する事は出来ない。頭を失った胴体がまだうねうねと激しく動いていたからだ。これに巻き込まれてしまっては、思わぬ被害に遭いかねない。海中ではちょっと意識が飛ぶくらいでもおぼれてしまいかねないので、致命傷に至る可能性だって十分ある。


ヨンフリーはそうならない様慎重にうねる胴体の脇を通り抜けると、そこから一気に上昇に転じ、海の上へと飛び出した。

「ちょっと手間取りすぎちゃったみたいね。ひとまず島に戻った方がいいかも」


見ると、腕輪の赤い花弁の数はもう残り三つになっている。

「出来れば海中には入りたくなかったのだけれどね」


海中での移動は空中よりも魔力を使う。だから著しく消耗してしまったのだ。

この残量は、もう海上で戦うには心許ない残量だと言わざるを得ない。途中で飛べなくなったりしたら、戦うどころの話ではなくなってしまう。しかし、陸上ならまだ何とか戦えそうだ。


ヨンフリーは急ぎ島へと戻る針路を取った。

海面すれすれの高さを滑るように移動していく。一応、飛びながら周囲の様子を探ってみたが、他に海竜の姿は見当たらない。高い位置から見た訳ではないので、わかるのは限定的な範囲でしかないのかもしれないが、見える範囲に海竜の姿はないようだ。もしかしたら残りの海竜はレンドローブかワイカレスのいる島の反対側にはいるのかもしれないが、もしそうでも心配する必要は無い。彼等なら充分に対応してくれるはずだからだ。


島の上空まで戻ってきたヨンフリーは、一旦、島の端の崖の上へと降り立った。と言っても、この辺りは岩場なので、降りたのは大きな岩の上だ。花弁は更に一枚消えて残り二枚になっている。ここから山頂を経由してレーシェルの元まで戻るとなると、魔力の残量はさらに減るだろうから、かなり厳しい状況になると言わざるを得ない。さすがにゼロにはならないだろうが、海竜と戦うには厳しい残量になってしまう。それではレーシェルの助けになるどころか、足手まといにさえなりかねない。ならば、島向こうで戦っているはずのレンドローブか親鳥が戻るまでここで回復に専念し、こちら側に海竜が現れた時にだけ戦う様にした方が現実的だ。


「ふう、こんなにギリギリになるなんて。…格好悪い」

こちら側に海竜が現れた場合を考えると、意外に切羽詰まった状況にある事も間違いない訳で、そう思うとヨンフリーはため息を漏らすしかなかった。少し前まででは考えられない程追い込まれている現状に、苦笑いしかできない。だが、同時に別の気持ちが湧き上がって来ている事にもヨンフリーは気が付いていた。


「ふふ、何だかちょっとわくわくするかも」

ヨンフリーは口に出してそう言うと、軽く周囲の様子を見回しながら、島の中心に聳える山に向かってゆっくりと歩き出した。

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