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島の外の戦い1

ヨンフリーは、右腕の腕輪についた赤い花弁の数を確認した。

今現在、赤く色づく花弁は9枚ある。この赤い花弁は、ヨンフリーが今使える魔力の量を表すものだ。

ヨンフリーが自ら課した制約の所為で花びらの最大値は現状16枚という事になるので、今は半分強の魔力しか残っていない計算になる。


「うーん、まあこんなものかな…。竜の上では回復に専念したつもりだったから、もう少し残っていると有難かったのだけど、ここに来て結構魔法を使っちゃったし、仕方がないか…」

ヨンフリーはそう独り語ちた。


とはいえそれだけの魔力があれば普通の生活を送る上では全く問題無いはずなのだが、これから海上で海竜を相手にしないといけないという局面では、さすがに余裕があるとは言えない状況といえる。

ヨンフリーは足元の赤く光る魔法陣に目をやると、少しでも魔力の消費を抑えられるよう、徐々に高度を落として行った。


途中、後方を振り返り、既に海竜と戦っているはずのレンドローブとワイカレスの姿を探してみる。

巨鳥ワイカレスの姿はすぐに確認する事ができた。ヨンフリーの位置からだと巨大な火口の向こう側、島から少し離れた海上で、海面に向かって口から火を吐いているのが見える。ここからワイカレスのいる場所までは、かなりの距離があるのだが、それでもワイカレスの迫力は伝わってくる。海竜は海中に潜る事でその攻撃を避けているようで、あれだけの炎でも致命傷には至っていない様だが、島からは徐々に離れて行っているようだ。ワイカレスにしてみれば、ベストではないものの、一応狙い通りに事を進めているものと思われる。


一方、レンドローブの姿を見つけるのには少しばかり時間を要す事となった。レンドローブが遠く離れた沖合にいたからだ。彼の竜は、あのでかい海竜を、短い時間にそれだけの距離を引っ張って行った事になる。距離がある為、詳しい状況までは見えないが、遠見の魔法を使って確認する事まではしないでおく。そちらの方はレンドローブに任せておけば問題ないはずだからだ。


そしてヨンフリーは再び前方へと向き直った。

この島に来る前にレンドローブが抜いて来た海竜は、もうだいぶ近くまで来ているはずだが、それでもまだ島にはとりついていない。その事を確認した後、首を振って他の方向も探ってみる。前方の海竜よりも近くにいる輩がいた場合、そちらに向かう事も考えなければならないと思ったからだ。


幻術を解除する魔法は既に目に掛けてあるので、余程強い幻術を使える個体でもない限りは見逃す事はないはずなのだが、それらしいものの姿は見当たらない。もう既に山の中腹位まで降りてしまっているので、山が邪魔して島の反対側にはもう見えなくなっている部分もあるのだが、すくなくとも見える範囲には海竜らしきものの姿は確認できない。気配は依然として島全体を囲むように存在していることから、もしかしたらもっと遠くにはいるのかもしれないが、その辺の所についてはわかりようもない。


とはいえ、当座、他に当たるべき敵がいないのは助かったといえる。当たるべき相手が複数見つかった場合には、それ用に戦い方を変えなければならない可能性があったからだ。その場合、掛る負荷は当然大きくなる訳で、魔力に制限がある今のヨンフリーにとっては、つらい戦いになったはずだ。


雛鳥を狙っている海竜はまだ他にもいるかもしれないが、できればレンドローブかワイカレスに任せられれば有難い。それでも抜けて来たヤツについては、…レーシェルに任せるより仕方がない。


「まあ、レイちゃんも昔会った時よりはレベルも随分と上がっているみたいだし、陸上に限って言えば、意外と魔力の制限のある私よりは戦えるのかも」

ヨンフリーはそう自分に言い聞かす様に呟くと、正面から近づいて来る海竜の方へと視線を向けた。海竜はだいぶ島に近づいて来ている様子ではあったものの、それでもまだ随分と沖合にいる。


ヨンフリーもその海上へと突入する。

この島の周囲は、かなり高さのある断崖になっている為、海上に出ると、海面までの距離が一気に開く事となる。視界も開け、気持ち良くもなるのだが、魔力の消費量もぐんと増す。


なので、海面近くまで一気に高度を落としていく事にする。高度を落とす事で、正面の海竜の姿は確認しづらくなるのだが、海竜はもうずいぶんと近くまで来ている上に、海上には視界を遮るものがないので、見失う心配は無さそうだ。ならば海竜と接触した時に備え、魔力を節約しておいた方がいい。ヨンフリーはそんな風に思考を巡らせ、思わず笑ってしまっていた。

そんな事を考えている自分がとても矮小に思えてくる。このような思考をするなどとはウルオスにいた時には考えた事が無かった。


「ふふふ、でも、このくらいの緊張感があった方が楽しい人生が送れるかも」

そう思うと、ヨンフリーは楽しくなってきた。なんだか無性にわくわくしている自分に気づかされる。


海面ギリギリまで高度を落とした所で態勢を整えたヨンフリーは、徐々に速度を上げていった。海竜との距離が一気に詰まってくるのがわかる。ヨンフリーの存在に気が付いたのだろう、海竜が海の上に首を掲げ、大きな口を開けて威嚇してくる。その姿を見てヨンフリーは笑みを浮かべた。


「バカな子ね」

言いつつさらに一段速度を増す。そしてその速度のまま海竜へと突進していく。


海竜が大きく口を開ける。その口の中では青白い光が瞬いている。

次の瞬間、その口から一条の閃光が射出された。


光の槍がヨンフリーのすぐ脇を通り抜けて行く。

直前に僅かに軌道を変えていた事が幸いし、ヨンフリーはこの海竜の攻撃を躱す事となった。そしてその後すぐに当初の軌道から大きく逸れて、海竜の躰を回り込む様な方向へと向きを変える。


直後、ヨンフリーが進もうとしていた海上に光の雨が降り注ぐ。さすがのヨンフリーでも避けきれなかったであろう密度の光の槍だ。直進していたら、ハチの巣にされていたかもしれない。しかし、そこにヨンフリーの姿はなかった。


「本当、バカな子。そんなに撃ったらすぐに弾切れになっちゃうわよ」

ヨンフリーは、海竜の周りを大きく周りながら徐々に海竜に近づく軌道に入った。そうはさせじと、海竜は次々に光の槍を放ってくるが、槍はヨンフリーの通って来た軌道を示すかのように、ヨンフリーの後ろの海面を波立たせるだけだ。


しかも、その槍もすぐに射出されなくなる。弾切れだ。

海竜の攻撃が止まったと見たヨンフリーは、再び海竜に向かって前進を開始した。海竜が慌てて海中に首を戻していく。


ヨンフリーは瞬時に魔法を発動させると、右腕の先に風の刃を纏わせた。これは、魔法で作った言わば風の剣とでもいえるような代物だ。しかもその剣は普通の剣と比べると四倍近い長さがある。海竜の躰に確実にダメージを与えるにはこのくらいの長さは必要だと考え、そういう剣を造り出したのだ。


以前のヨンフリーなら、この様な状況では海竜が使った様な射出系の魔法で一気にケリをつけたはずだ。しかし、魔力に制限のある現状では、考えなしに魔法を使う事は出来ない。魔力の消費の大きい魔法は出来るだけ使用を抑えておく必要があるからだ。


ヨンフリーは風の剣を前に構えた状態で、更にもう一段速度を上げた。


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