【後半戦】高校生、本当の逆張りを仕掛ける
途中の話をすっ飛ばし。
忘れない内に書いておく(後で作品として肉付け予定)
日付は他の銘柄とかぶるので、最終的にはかぶらないようにずらす予定。(つまり架空の日付に置き換わる)
オサムが次に狙う銘柄は323X アカツチである。
スマートホン向けのゲームを開発する会社であるアカツチは、半年前に上場した新興企業である。
人気漫画ドラゴンボルトXを題材にしたスマートフォン向けゲーム「ドッキリバトル」は、Appストア売り上げランキングでモンスターストライプを抜いて1位になったこともある話題作である。
そのアカツチが先日第2四半期の決算を発表した。
第2四半期決算は売上高は累計44.21億円(前年同期比+82.1%)。営業利益は累計17.66億円(前年同期比+99.0%)。
数字だけ見れば成長性が見て取れるものであったが、アカツチを保有していた投資部の横山の顔は暗かった。
「これは下がるかもしれないね。」
横山が暗い顔をする理由はアカツチが同時に出した「通期連結業績予想の修正に関するお知らせ」というIRにあった。
その内容はアカツチの連結売上高予想は70~100億円から80~90億円に、営業利益は20~40億円から20~30億円に引き下げられるというものであった。
すなわち投資家達が期待していた最高の結果100億円またはそれ以上の結果は得られないということがハッキリと記されていた。
IR発表日である14日に、決算を期待した投資家達によって株価は2796円から始まり2910円(+4.1%)の高値をつけていたが、翌日15日には2660円で始まると2564円(-11.9%)の終値をつけた。
そこから横ばいに見えた株価は翌月の1日にはついに一時2200円を切った後、2201円で終値をつけていた。
「僕はもうダメだ・・・。」といって遂に横山は損切りを実行した。
「これは仕方がない。」「運が悪かったな。」と口々に慰める他の部員たち。
オサムも横山を慰めようと思ったが、何かが心の中で引っかかっていた。
オサムだけが気付いたアカツチへの違和感。だがその正体はつかめない。
もっとなにか別のことを横山に言うべきではないのだろうか。そんな気持ちにかられていた。
だが、オサムが安易に横山に口をだすことは部内のルールに違反する行為だった。投資部では他のメンバーに自分の投資判断を語るのは、相手が意見を求めたときという鉄の掟がある。
当時の部長は伝説の投資家ジェシー・リバモアを崇拝しており「かのリバモアは他人の投資判断を聞いて破産したことがある。投資とは自分の判断で行うべきなのだ。相手の同意無くして他人が口を出すことを禁ずる」と定めたらしい。
結局オサムは横山に何も言えずに終わってしまった。
オサムは帰宅途中にカヨシの家へ寄った。
「おじさん、アカツチの損切りについてどう思う。」
「そうだな。まぁ、仕方がないんじゃないか。」
「ずっと持っておくのは良くないのかな。」
「トレンドに逆らうのはやめておいたほうがいいだろうな。逆張りは難しいからな。」
「おじさんでも難しいの?」
「俺は徹底的なトレンドフォローを得意とするタイプだから逆張りはまずしない。BN・・・株のうまい知り合いも、逆張りは難しいと普段から言ってたな。」
「そんなに難しいんだ」
「かのウォーレン・バフェットでさえ、ワシントン・ポスト社の株を買ったときは数年苦労したんだぜ。結局最終的には利益で終わったけど、バフェットでさえ含み損時代があったというのが逆張りの恐ろしいところだな。」
「ふぅん」
カヨシの説明を聞いても、オサムにはまだ納得できない物があった。
就寝前、部屋の天井を眺めながらオサムはアカツチのことを考えていた。
市場は今回のIRを否定的に捉えたのは間違いない。
そして横山もしばらくは上がらないだろうという気持ちを持っていた。
部員たちも口々にアカツチを損切りした横山に同意していた。
あのカヨシですら逆張りは駄目だと言っていた。
そして皆の反応の通り、市場ではアカツチの株価は大幅下落した。
だが、どうしてもオサムは納得できなかった。
「本当にアカツチは売りなんだろうか・・・」
オサムはいてもたってもいられなくなり、部屋の電気をつけると、これまでのアカツチの決算を再度見直してみることにした。
「1-2Q合計売上高は44.21億円。合計営業利益は17.66億円だけど、これをバラバラにしてみよう」
売上高 : 2028/1824/2597
営業利益 : 657/744/1022
「更に今後の業績予想から3Q/4Qの売上高を算出してみよう」
残りの売上高最低値80.00 - 44.21 = 35.79(3Q/4Q平均17.895億円)
残りの売上高最高値90.00 - 44.21 = 45.79(3Q/4Q平均22.895億円)
残りの営業利益最低値20.00 - 17.66 = 2.34(3Q/4Q平均1.17億円)
残りの営業利益最高値30.00 - 17.66 = 12.34(3Q/4Q平均6.17億円)
最悪の場合を想定してみると
売上高の推移は1824/2597/1790/1790、営業利益の推移は744/1022/117/117となる
最高の場合を想定してみると
売上高の推移は1824/2597/2290/2290となり、営業利益の推移は744/1022/617/617となる
「なんだこの数字・・・最高の結果でも低すぎないか。決算説明資料には保守的に参入と書かれているが、本当にこの通りだとしたら先行きが暗すぎる。これは株価が落ちても仕方ない。」
まだしっくりとこない。しかし強烈な睡魔がオサムを襲う。
「はぁ、諦めるか。」
そういって再度布団に入る。
いつもの癖で手にスマホを持ったまま布団に入ってしまったオサムは、寝ぼけながらスマホを布団の端へと追いやった。
翌日、目が覚めた冷めたオサムが携帯を手にすると、スマホはツイッターが開きっぱなしになっていた。
タイムラインにはゲーム仲間たちの深夜まで続くツイートが見える。
「あいつら深夜までドッキリバトルやってるんだな・・・はは。ハマりすぎだろ。」
ハッとするオサム。
「こ、これか!!」
違和感の正体に気付いたオサムは、普段よりも早く登校すると、ゲーム友達から可能な限り情報を収集した。
オサムの質問はずばり「ドラゴンボルトXのドッキリバトルは、これから衰退していくのか」というものである。
だがゲーマー達の答えはほぼ全て「まだまだもっと流行る。半年以上は今以上の人気が続くだろう」という回答であった。
昨日の夜オサムが計算したベストケースでは、
売上高の推移は1824/2597/2290/2290となり、営業利益の推移は744/1022/617/617となる
だが、今の人気が続くのであれば最低でも
売上高は1824/2597/2597/2597(通期9615)となるし、営業利益は744/1022/1022/1022(3810)となる
実際の消費者たるゲーマーたちの意見は「今と同水準」ではなく「今以上」であった。
彼らの意見が正しければ、この水準ですら超えていくだろう。
とするならば、市場、投資部、カヨシ、すべての投資家が保守的すぎる業績予想修正に騙されているだけではないか。
そもそもアカツチは今回の四半期で「成長性」を打ち出している。
ところがその成長性が市場の過度な期待を超えることが出来なかったために売られている。
つまり「過度な成長性」は否定されたが「順調な成長性」は依然として決算から見て取れた。
では、投資家達がその誤解に気付くのはいつだろう。
「きっと次の決算発表のときだ・・・」
次の決算発表で今と同じ水準またはそれ以上の業績が出た瞬間に、現在の業績予想は明らかに少なく見積もりすぎていることに市場は気付くだろう。すなわち株価は3ヶ月以内には必ず反発する瞬間がくる。
だがその前に消費者であるゲーマー達の反応を見た調査機関がこの違和感に気付くに違いない。
であれば、もっと早くに反発は起きるはずだ!
オサムはスマホを開くとアカツチの証券コードを入力し、全資産の50%でアカツチを2200円で購入した。
その日、アカツチは2200円で始まると、2212円の終値をつけた。
翌日、2212円で始まったアカツチは2135円の終値をつけた
オサムは3%の含み損になっていたが、だがオサムに動揺はなかった。
「きっと1~2ヶ月以内に株価が動くはずだ」と信じる気持ちしかなかった。
また半額しか購入しなかったため、再び大きく落ちればそこで買いましてやろうという気持ちもあった。
それはRoRで自分にベストマッチするチャンピオンを見つけたときの感覚に似ていた。
オサムがRoRの最下層ランキングであるブロンズからゴールドに這い上がったときの感覚である。
眼前の1試合で負けることはあっても、トータルの勝率は7割を超えている。ただひたすら試合を続ければよいのだ。そうすれば自分のランキングは上がり続けいく。眼の前の1試合に負けてランキングが少し落ちようとも、それは何の意味もないノイズなのだ。そして、それがトータルで勝つという考え方なのだ。
更に翌日株価は2112円の安値をつけることがあったが、その後は2112円を下回ることはなかった。
そしてその1週間後、ついに株価は反発を迎える
ある調査機関がアカツチに投資判断「アウトパフォーム(強気)」と目標株価6500円を与えた。
調査機関は「ミドルコア領域向けゲーム開発を得意とし、高い開発力と運営力を背景にグローバルでの展開を実現している業界でも稀有な企業」とアカツチを高く評価た。更にアカツキの1年後の連結経常利益を66億2000万円を予想した。これは今季の会社計画24億円の2.75倍である。
前日2202円で引けた株価は、その日2280円で始まると最終的にはストップ高の2702円で終了すると
翌日は3000円まで上昇した。
オサムはここで残りの半分の資金でアカツチを追加購入した。
「多くの人が誤解していたことで売られすぎていた株価が今勢いに乗った。これは今日だけで終わらない。これから成長性に対する期待で株価は伸びていくはずだ!」
さらに1週間後、株価は4270円まで上がっていた。
オサムは4000円でアカツチを手仕舞っていた。
2200円で購入したアカツチが4000円で売れた。
3000円で購入したアカツチが4000円で売れた。
トータル約1.5倍の取引である。
オサムはこの取引のことは誰にも言わないでおこうと思った。
それは謙虚さからくる考えではなく、周囲の友人達をおもってのことだった。
自分が逆張りで儲かったことをいえば、投資部のメンバー達は安易な逆張りに走ってしまうかもしれない。
だが本来であれば、短期的な株式投資はトレンドに従って行うべきものだ。決してトレンドに逆らうべきではない。
今回のケースはたまたま反発のタイミングがわかったことで出来た逆張りであった。
業績予想修正によって市場の投資家達が騙され、自分だけがアカツチの決算発表の中にある成長性のメッセージを読み解くことができた。
このようなトレードは運が良かっただけだ。
もしかすれば生涯で1度だけしか出来ないトレードだったかもしれない。
そのような運が良かったトレードを安易に他人に教えてはいけない。彼らの投資判断を狂わせてはいけない。
オサムはそう自分に言い聞かせた。
【投資成績】資産+50%増加




