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【アレンジ版】夜の帳を護りし者達  作者: 苺姫 木苺


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現実を知る



雪斗は黙って田中の後ろを付いていく。追い出されずに自分をどこに連れていくのだろうかと雪斗は不安になる。

「あの!どこに行くんですか?」

「んー?秘密」

田中の顔は前髪が長くほとんど見えないせいで、にんまりと笑っている口元がとても怪しく見える。この時、雪斗は田中のような大人は見たことがないと思った。

「何で僕をここから追い出さないんですか?」

田中は車椅子を止め「君に興味があってね」と雪斗をジッと見た。実は田中は雪斗のことを少しだけ知っている。昨日咲間から灰化症にならない人間は存在するのかと聞かれ、その時に雪斗のことを知ったわけだ。

「貴方も……八咫烏、なんですよね」

「そうだよ。まあ、僕は研究員だけどね」

しばらく進むと田中と雪斗は一番大きく真っ黒の建物の前に着いた。その建物を見た雪斗が「真っ黒」と呟く。

「ここは漆黒館。ま、そのまんまだよね」

「あれ?田中さんが外にいるの珍しいです、ね?!え?何でこの子がここにいるんですか!」

田中と雪斗の会話に割って入りこんできたのは宮木まおだ。今日は非番で銭湯帰りで漆黒館の側にいて田中と雪斗と遭遇。

「ん?僕がここに連れて来た以外何かある?」と田中は問題でもないかのようにあっけらかんと言う。だが、ここで田中と宮木の会話は少し噛み合っていない。宮木は何で常闇ノ庭にいるのかと聞いた。でも田中は漆黒館に連れて来たのは自分と答えたから微妙に違っている。

「あの、一般人はここにいちゃダメなの知ってますよね!」

「うん。知ってるよ。でも、この子の体質を調べたくてさー」

田中の返事を聞いた宮木は頭を抱えた。田中は変人で研究のことになると誰も止められないくらいヤバイ奴である。そのことを宮木も知っているから、自分ではどうしようもないことだからこの現状に頭を抱えるしかできない。

また隊員が増え訳の分からないことになり始め、雪斗はどんどんまずい状況なのではないかと理解し始めた。

「会田君、だったよね?君どうして常闇ノ庭にいるの?」

「常闇ノ庭?」

「ここは常闇ノ庭という特殊な空間なの。で、どうして?」

雪斗一瞬横を見て走ってあっちに行けばここから逃げられるんではないかと考える。でもその考えを見透かした田中が「逃げようとしても逃げるのは無理だよ?」と言った。

「……両親を探す為に、です」

「咲間隊長が私達が探すって言ったよね」

雪斗はバッと顔を上げ「それが信じられないんだ!!それにあんたらが誘拐犯かもしれないだろ!」と声を張り上げる。

「ちゃんと私達でご両親を探すから信じて。ここは一般人がいていい場所ではないの」

「会ったばっかのあんたらをどう信じればいいんだよ」

雪斗は色々あり大人を信じることが出来ず、宮木の言葉を信じられない。

「宮木、この子の立場になって考えてみなよ。両親が攫われて見ず知らずの奴が見つけるから待っててって言われて信じられる?」

「……無理、ですね。でも一般人が獄堕の園(ごくだのその)と関わるのは危険ですよ?」

田中はニヤリと笑い「この子を八咫烏にすればいい」と言った。宮木と雪斗は田中の発言に驚く。

八咫烏になるのが両親を探すのに一番の近道とわかっているが、いざその場面になると雪斗は尻込みをしてしまう。

「八咫烏になるのも大変なんですよ?この子が試験に通ると思っているんですか?」

「さあ?でも、やってみないとどうなるか分からないでしょ。で?君どうする?」

田中に質問された雪斗は答えられずに黙ってしまう。さっきまでは八咫烏に入ると瞬時に答えられた。でも、いざこうなると雪斗は答えられない。それを見た田中が「そんな覚悟なら両親を探すの諦めな。中途半端な覚悟で八咫烏に入られるの迷惑だし」と雪斗へ冷たく言い放つ。

「僕は……」

「ね、会田君お家で待ってて?」

雪斗は両親の顔を思い出し自分がやらないでだれがやるんだと決心し「家族の為なら死ぬ覚悟ある。八咫烏に入ります」と力強い目で田中を見る。

「ふーん……さっきよりましになったね。着いて来て」

「何であんたは僕に優しくしてくれるの?」

田中は車椅子を止めずに「あはっ、僕が優しい?ただ君の体質に興味があるだけだよ」と言った。そう田中はただ単に研究のために雪斗を八咫烏に入るように仕向けただけ。傍から見ると田中はまともな大人に見えるがそういうわけでは無い。

「あ、そうなんだ」

漆黒館の入口に着くと田中はスッと立ち上がる。それを見た雪斗はまさか田中が歩けるとは思わず驚く。

「僕別に歩けないわけではないよ。ただ人より下半身の筋肉が弱いだけ」と車椅子を持ち上げながら階段を登る。

「あ、手伝おうか?」

「平気平気。バリアフリー化して欲しいよ」

階段を上り終えた田中はたたんでいた車椅子を広げドサッと車椅子に座り直した。田中は雪斗の体質を早く研究したくてうずうずとしている。

廊下は木で出来ており、廊下は木の匂いが微かにする。田中と雪斗が進むたびにキイキイと音が鳴った。

少し進んだところにプレートに第一研究室と書かれた場所の前で田中は車椅子を止める。



「第一研究室?」

「そ。ここは僕の研究室。中ごちゃごちゃしてるから物倒さないでね」

田中はガラッと引き戸を開いた。田中の研究室は動線であろう所以外がとても汚い。机には空き瓶や得体の知らない薬に食べかけのパンが置きっぱに。床には脱いだ服に本やゴミが。

この状態を見た雪斗は言葉が出ない。こんな汚部屋は初めて見て雪斗はここに入らなければいけないのが心底入りたくないと思った。

「何しているの?早く入って」

「え、あの……ここ本当に研究室ナンデスカ」と雪斗はロボットのような口調になった。一応礼儀も必要だからと色々考えた結果だ。

「第一研究室に書いてあるでしょ。何でそんなこと聞くの?」

「研究室ってこんなイメージ無いんだけど……もっと綺麗じゃないの普通」

田中はいつまで入って来ない雪斗のしびれを切らし、雪斗の腕を引っ張り中に入れる。

「そこ座ってて」

田中は棚から未開封の注射器を一つ取り出す。雪斗は「それ……注射するんですか?」と青い顔をしながら、喜々として注射器を開封している田中に聞く。

「使うために開けてるんだから、それ以外無いでしょ。まずは血液検査からね」

「まずは……そ、そもそも!僕検査に協力するって言って無い!!」

前髪をガバッと手で上げた田中が「いいの?八咫烏の入隊試験受けるには推薦人が必要だけど……拒否する?」と雪斗を脅す。

田中の翡翠色の瞳が怪しく光って見え、雪斗はこいつやばいと今やっと田中の変人さに気づいた。

注射器をフリフリしながら田中が「で、どうする?」と答えを分かっていて聞く。もう田中は雪斗を実験したくてしょうがない。

「……検査、受けます。身体切り裂くとかそういうのは拒否するからな!」

「はいはい。じゃ、肘が見えるまで袖捲ってー」

田中が雪斗の腕に注射器を刺そうとした瞬間、ガラッと研究室の引き戸が開いた。そこに現れたのはなんと任務中であるはずの咲間である。

「アレーン!!お前勝手なことするな!」

「咲間任務は?」と田中は不機嫌な顔で聞く。あともうちょっとで灰化症にかからないというレアケースの血が採取できるはずだった。

「宮木からまたお前が暴走しているって、報告されたから来たんだ」

「へー」

咲間は雪斗の方を向き「お前常闇ノ庭にどうやって来た?」と怖い顔で聞く。それを雪斗は悪いことをした自覚があるのでばつの悪そうな顔をする。

「ボロボロの洋館に隠れて、あんたら来た道みたいな所から」

「はあー……あれはお前だったのか」

田中は「何だそれなら咲間も僕と同じじゃん」とあっけらかんと言った。それを聞いた咲間は「お前と一緒にすんな。俺はこいつの為に動いてたがお前は自己中心的にやったことだろ?」と田中を睨む。

「えー?僕は会田君の体質が八咫烏の為になると思って行動しただけだしー」

「嘘つけ。入隊試験で推薦人は必ず必要なわけではないだろ」

入隊試験で推薦人は必要ではないことを知った雪斗はバッと田中を見た。その田中は「扉の前で盗み聞きとか礼儀無いね」と雪斗をきにしていない。

「アレンに礼儀云々を言われる筋合いはない。お前もほいほい大人を信じるからこうなるんだぞ」

咲間はなんだかんだ雪斗を放って置けない。雪斗が自分のことを疑っているのは知っているが、咲間はまだ子どもの雪斗を守らないといけないと思っている。

「でも、弟の為にも探さないといけないから」

「弟?」と咲間が何か事情がありそうな雪斗に聞き返す。

「弟が病気で入院してる……お金も必要だから」

全てを理解した田中が「なるほどね。親がいないと入院費払えないからか」と言った。

「……そうか」

親も攫われ病気の弟の入院費を賄わなければならい雪斗を咲間は不憫に思う。でも、だからこそ弟の為にも八咫烏に入らない方がいいのではないかと考える。

「で?この事情を聞きながら咲間はこの子が八咫烏の試験受けるの反対するの?八咫烏は命の危険があるけど高給取りだよ。僕は入院費を支払うってなったら八咫烏に入る以外選択し無いと思うけどなー」

「ちっ。お前はただ単にこいつの体質を調べたいだけだろ。そもそもこいつが霊力無いかもしれないだろ」

田中は汚い机の上に置いてある棒を雪斗の前に差し出し「これ握って」と渡す。何も知らない雪斗は不思議な顔をしながら棒を握る。雪斗が棒をギュッと握った瞬間、ピカッと眩い光が部屋を照らす。

雪斗はまさか自分が握った棒が光ると思わず驚き棒から手を離した。雪斗が手を離したからカランと音を立てて棒が床に落ちる。

「すごい光だったねー。まあ、これでこの子が霊力あるの分かったね」

「アレン!!」

怒っている咲間を無視し田中は雪斗をジッと見た。そして「君親類に八咫烏っていたりする?」と何かを考えながら雪斗に質問をする。

「分からない」

「分からない?何で?」

雪斗は「……実の親を知らないから。それより何でそんなこと聞くんだよ」と言う。普通ならこんな質問をしたら咲間のように気まずい顔になるのに、田中はなにも気にせず「霊力が凄い多いから八咫烏にいるかもって思ってね」と言った。

「アレン!無視すんな。はあ……お前本当に八咫烏に入るつもりか?」

真剣な表情で咲間に問われた雪斗は、ジッと咲間の顔を見てコクッと頷く。雪斗の本気の目を見た咲間は深くため息を吐くと「現実を見してやる。来い」と言った。

「え?ちょ、まだこの子の検査してないんだけど」

「そんなの知らん」と咲間は言い雪斗を連れ第一研究室を後にする。


無言で歩く咲間に雪斗は不安が段々と出て来る。

「あの、どこ行くの?」

「黙って着いて来い」

黙々と木で出来た廊下を歩き咲間は鬼灯の花が描かれた襖の前で立ち止まる。「これを見たらお前も考えが変わる」とぼやき咲間は静かに襖をスーと開けた。襖を開けるとスーと夜香木の匂いが外に漏れていく。

部屋の中にはたくさんの人が「うぅ……」と苦しそうに呻きながら布団の上に寝ている。

「あの、この人たちは?」

布団の上で寝ている者達は肌の所々が黒く変色し腕や足が無い。

「ここに居る奴らは灰化症になった者だ」

「はい、かしょう」と雪斗は呆然となりながら呟く。そして自分もああなっていたかもしれないと分かりゾッとした。

「灰化症になると肌が変色してああなる。漆黒になった所は灰に変化し脆くなり、四肢が砕け欠けるんだ。これを見ても尚、お前は本当に八咫烏に入るつもりか?」

雪斗はジッと苦しそうに呻いている八咫烏の隊員達を見つめる。

すると急に布団の上に寝ていた者が「う、うあああ!」と叫びバタバタと暴れたかと思いきやパタリと静かになった。次の瞬間、その者の全身が灰になりボロボロと崩れ、その灰から薄く赤く光る鬼灯が咲く。薄暗い部屋の中でその鬼灯は薄く赤く光っているせいで不気味だ。

「あの、あの人ってどう、なったんですか?」と答えをわかっていても雪斗は咲間に質問をする。

「死んだんだ」

「そ、うですか」

こんな間近で人が亡くなるのを初めて見た雪斗は何とも言えない気持ちになる。それにただ亡くなったわけではなくあのような残酷な形で目にしてしまったわけだし。

雪斗はジッと見て自分もああなる可能性はあるだあろうと思った。本音を言うと八咫烏に入りたいわけではない。でも、八咫烏に入る以外の選択肢は……。

「貴方は怖くないんですか?ああなるかもって」

「怖い。でも俺だって守りたいもんがある」

雪斗はまだ晴斗が病気になる前に家族で出かけた最後の時の事を思い出す。その時は両親も弟も笑っていた。またあの笑顔を雪斗は見たいと思った。

咲間はこれで雪斗は気持ちが変化すると思い「どうする?」と聞く。

「僕は……」






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