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今日も魔王城は飯がうまい  作者: 昼の月
321/386

火を離れる時

朝の調理場は、

前日よりも

少しだけ明るかった。


火を入れる前から、

人の出入りがある。


誰かが

水を汲み、

誰かが

鍋を運ぶ。


まかない部は、

中央には立たない。


一歩、

脇に下がって見ていた。



◆真似が始まる


町の若い女が、

昨日と同じように

豆を煮ている。


味見をして、

首を傾げ、

少し塩を足す。


「……これで、

 ええんかな」


ミナは

口を出さない。


ただ、

目だけで

見守る。


少しして、

女は

小さくうなずいた。


「……多分、

 これやな」


正解かどうかは、

問題ではない。


自分で決めた

という事実が

重要だった。



◆場が自走し始める


倉庫の前では、

昨日より

声が低い。


言い争いではなく、

確認の声。


「今日は、

 午前だけやな」


「昼は、

 止めとこ」


紙は、

まだ書き換えられていない。


だが、

動きは揃っている。


アリアが

小さく息を吐いた。


「……始まりましたね」



◆関わり続けないという判断


昼前、

まかない部だけで

短い相談。


ミナが

率直に言う。


「……今日までやな」


ルナが

少し寂しそうに言う。


「……もう……

 要らん……?」


アリアは

首を振る。


「……要られなくなった、

 が正確です」


それは、

成功の形だった。



◆置いていくもの


出立の前、

アリアは

町の管理役に

一言だけ伝えた。


「……困ったら、

 料理を

 してください」


管理役は

一瞬戸惑い、

やがて笑った。


「……それなら、

 できそうだ」


通達でも、

指示でもない。


再現できる行為だけを

置いていく。



◆火を落とす


調理場で、

最後に

火を落とす。


ミナが

かまどを撫でる。


「……世話になったな」


石は

何も答えない。


だが、

冷え方が

穏やかだった。



◆去り際の変化


町を出るとき、

誰も

引き止めない。


代わりに、

声がかかる。


「……また来る?」


アリアは

即答しない。


「……必要なら」


それで、

十分だった。



◆風の合図


街道に出たとき、

風が

背中から吹いた。


押し出すほど

強くはない。


だが、

迷いを

削ぐ程度には

確かだ。


ルナが

小さく言う。


「……行ける……」



◆次の気配


遠く、

別の町の上に

薄い雲が

溜まっている。


重くはない。

だが、

同じ匂いがする。


整えきれていない

 気配。


ミナが

空を見て言った。


「……次、

 来とるな」


アリアは

頷く。


「……ええ。

 でも、

 同じやり方とは

 限りません」



◆戻る場所を胸に


背後には、

魔王城がある。


壊れていない。

息をしている。


戻れる場所があるから、

前へ進める。


まかない部は、

火から離れた。


だが、

火の感覚は

 手に残っている。


それで、

十分だった。



場が動き出したら、

手を引く。


整ったら、

去る。


それは、

冷たさではない。


自走を信じる

 距離だった。


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