風の外側で起きること
町を離れて半日、
街道はゆるやかに山へ入った。
風は安定している。
強すぎず、弱すぎず。
問題は、
そこにはなかった。
ミナが歩きながら言う。
「……珍しいな。
風、
何も言うてこん」
ソラが前を見たまま答える。
「せやな。
逆に、
嫌な予感する」
ルナは、
風ではなく
地面を見ていた。
「……音……
変……」
⸻
◆違和感の正体
山道の途中、
小さな休憩所が見えた。
旅人向けの水場と、
簡素な屋根。
だが、
人の気配がない。
それ自体は
珍しくない。
だが――
アリアは
立ち止まった。
「……音が、
吸われている」
足音が、
土に沈みすぎる。
反響がない。
カール(蒼術)が
地面に触れる。
「……これは、
風ではない。
地脈が弱っている」
ミナが眉をひそめる。
「……風の次は、
地面かい」
⸻
◆風も知らない異常
ルナが
珍しく困った顔をする。
「……風……
これ……
分からん……」
風は、
上空で
いつも通り流れている。
問題が、
風の届かない層で
起きていた。
アリアは理解する。
(……これは、
管理や選択の話ではない)
⸻
◆崩れかけた休憩所
休憩所の柱の一本が、
根元から
ひび割れている。
木の腐りではない。
虫害でもない。
地面が、
支えきれていない。
ソラが
低く言う。
「……このままやと、
次の雨で
潰れる」
ミナが周囲を見る。
「旅人、
巻き込まれたら
終わりやな」
⸻
◆対応の選択
アリアは
即座に判断した。
「……直す」
ミナがうなずく。
「管理でも、
説得でもない。
補修やな」
ソラが
材料を確認する。
「石、
まだ使える」
カールが
地脈の流れを測る。
「……完全回復は無理だ。
だが、
逃がすことはできる」
その言葉に、
全員が理解した。
⸻
◆地面に逃げ場を作る
作業は静かだった。
地面を掘り、
水の通り道を
少しだけ変える。
柱の下に、
力を分散させる
石を組む。
ミナが
汗を拭いながら言う。
「……風だけやないな。
逃げ場、
必要なんは」
ソラが
短く笑う。
「せや。
世界、
だいたい同じや」
ルナは、
地面に手を当て、
小さく呟く。
「……だいじょうぶ……
今……
踏ん張れる……」
それは、
地面に向けた言葉だった。
⸻
◆風の立場
作業が終わる頃、
風が一瞬、
低く降りてきた。
地面の上、
人の高さ。
ルナが
驚いて言う。
「……風……
今……
“見に来た”……」
風は、
関与しない。
だが、
理解しようとしている。
アリアは
その様子を見て思う。
(……次の報告は、
風の話だけでは
足りない)
⸻
◆報告の重さ
夕方、
休憩所を離れる。
見た目は
大きく変わらない。
だが、
潰れる未来は
遠のいた。
ミナが
ぽつりと言う。
「……魔王様に、
何て言う?」
ソラが
少し考えて答える。
「風は、
落ち着いた。
でも、
地面のほうが先に
悲鳴上げとるって」
アリアは
はっきり言った。
「……それを、
そのまま伝える」
⸻
◆魔王城への道
山を下る道、
遠くに
魔王城の影が見え始める。
風は、
一行の横を
静かに進む。
問題は、
一つ解決した。
だが、
世界の歪みは
一つではない。
アリアは
歩きながら考える。
(……魔王への報告は、
成果ではなく、
兆候になる)
それは、
今後の判断を
左右する話だ。
⸻
風は吹いている。
だが、
それだけでは
足りない世界が、
すでに始まっていた。




