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今日も魔王城は飯がうまい  作者: 昼の月
306/372

風の外側で起きること

町を離れて半日、

街道はゆるやかに山へ入った。


風は安定している。

強すぎず、弱すぎず。

問題は、

そこにはなかった。


ミナが歩きながら言う。


「……珍しいな。

 風、

 何も言うてこん」


ソラが前を見たまま答える。


「せやな。

 逆に、

 嫌な予感する」


ルナは、

風ではなく

地面を見ていた。


「……音……

 変……」



◆違和感の正体


山道の途中、

小さな休憩所が見えた。


旅人向けの水場と、

簡素な屋根。


だが、

人の気配がない。


それ自体は

珍しくない。

だが――


アリアは

立ち止まった。


「……音が、

 吸われている」


足音が、

土に沈みすぎる。

反響がない。


カール(蒼術)が

地面に触れる。


「……これは、

 風ではない。


 地脈が弱っている」


ミナが眉をひそめる。


「……風の次は、

 地面かい」



◆風も知らない異常


ルナが

珍しく困った顔をする。


「……風……

 これ……

 分からん……」


風は、

上空で

いつも通り流れている。


問題が、

風の届かない層で

起きていた。


アリアは理解する。


(……これは、

 管理や選択の話ではない)



◆崩れかけた休憩所


休憩所の柱の一本が、

根元から

ひび割れている。


木の腐りではない。

虫害でもない。


地面が、

支えきれていない。


ソラが

低く言う。


「……このままやと、

 次の雨で

 潰れる」


ミナが周囲を見る。


「旅人、

 巻き込まれたら

 終わりやな」



◆対応の選択


アリアは

即座に判断した。


「……直す」


ミナがうなずく。


「管理でも、

 説得でもない。

 補修やな」


ソラが

材料を確認する。


「石、

 まだ使える」


カールが

地脈の流れを測る。


「……完全回復は無理だ。

 だが、

 逃がすことはできる」


その言葉に、

全員が理解した。



◆地面に逃げ場を作る


作業は静かだった。


地面を掘り、

水の通り道を

少しだけ変える。


柱の下に、

力を分散させる

石を組む。


ミナが

汗を拭いながら言う。


「……風だけやないな。

 逃げ場、

 必要なんは」


ソラが

短く笑う。


「せや。

 世界、

 だいたい同じや」


ルナは、

地面に手を当て、

小さく呟く。


「……だいじょうぶ……

 今……

 踏ん張れる……」


それは、

地面に向けた言葉だった。



◆風の立場


作業が終わる頃、

風が一瞬、

低く降りてきた。


地面の上、

人の高さ。


ルナが

驚いて言う。


「……風……

 今……

 “見に来た”……」


風は、

関与しない。


だが、

理解しようとしている。


アリアは

その様子を見て思う。


(……次の報告は、

 風の話だけでは

 足りない)



◆報告の重さ


夕方、

休憩所を離れる。


見た目は

大きく変わらない。


だが、

潰れる未来は

遠のいた。


ミナが

ぽつりと言う。


「……魔王様に、

 何て言う?」


ソラが

少し考えて答える。


「風は、

 落ち着いた。


 でも、

 地面のほうが先に

 悲鳴上げとるって」


アリアは

はっきり言った。


「……それを、

 そのまま伝える」



◆魔王城への道


山を下る道、

遠くに

魔王城の影が見え始める。


風は、

一行の横を

静かに進む。


問題は、

一つ解決した。


だが、

世界の歪みは

 一つではない。


アリアは

歩きながら考える。


(……魔王への報告は、

 成果ではなく、

 兆候になる)


それは、

今後の判断を

左右する話だ。



風は吹いている。

だが、

それだけでは

足りない世界が、

すでに始まっていた。


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