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今日も魔王城は飯がうまい  作者: 昼の月
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町の息づかい

町の門をくぐった瞬間、

一行ははっきりとした“差”を感じた。


音はある。

人の声も、足音も、

鍛冶場の金属音も聞こえる。


だが、

それらがどこか噛み合っていない。


ミナが小さく首を傾げる。


「……静かやないのに、

 落ち着かへんな……」


ソラも周囲を見回す。


「人は動いとる。

 けど、

 間が悪い」


ルナは立ち止まり、

町全体を感じ取るように目を閉じた。


「……風……

 ここ……

 急がされてる……」


風の光は、

町の上を低く漂っている。


強く吹かない。

だが、

どこにも留まれず、

落ち着きどころを探しているようだった。


アリアは内心で頷く。


(……暮らしが、

 風に追いつけていない)



◆声にならない困りごと


通り沿いの露店。

品物は並んでいるが、

客の足は鈍い。


年配の店主が、

籠を整えながらぼやく。


「……売れんわけやないんやがな……

 なんやこう……

 調子が出ん」


ミナが自然に声をかける。


「最近、

 何か変わりました?」


店主は少し考え、

首を振る。


「変わった言うほどやない。

 ただ……

 昼の火が安定せん。


 煮込みが、

 毎日同じにならんのや」


ソラが眉を上げる。


「火ぃが?」


「強すぎたり、

 弱すぎたり……

 風の抜けが悪いんやろな」


それ以上、

店主は文句を言わなかった。


困ってはいる。

だが、

誰かを責めるほど

はっきりした不満でもない。


アリアは礼を言って離れた。


「……典型的だね。

 “生活が微妙に噛み合わない”状態」



◆まず見る場所


町を少し歩いて、

ソラが足を止める。


「……なあ。

 まず、

 どこ行く?」


ミナは即答した。


「台所と井戸」


ルナも小さく頷く。


「……風……

 そこ……

 通ってない……」


町の中央近くにある共同井戸は、

人の出入りはあるが、

どこかよそよそしい。


水は澄んでいる。

だが、

汲み上げるたびに、

空気が重くなる。


カール(蒼術)が桶を覗き込む。


「水質に問題はない。

 だが……

 汲み上げる動作そのものが

 負担になっている」


ミナが腕を組む。


「……息止める癖、

 ついてるな」


ルナが囁く。


「……風……

 ここ……

 待たされてる……」


風の光は、

井戸の周囲を避けるように、

わずかに外側を回っていた。


アリアは静かに言う。


「……風が、

 “使われる場所”を

 嫌がってる」



◆台所の様子


近くの共同炊事場。

火は入っているが、

鍋の数は少ない。


若い女性が、

鍋をかき混ぜながら呟く。


「……なんか、

 気持ち悪くて……

 今日は少なめにしとこ思て……」


ミナが声をかける。


「火、

 使いづらい?」


女性は驚いた顔で頷く。


「ええ……

 煙が戻ってきたり、

 抜けたり……


 危ないほどやないけど、

 気ぃ使うんです」


ソラが低く言う。


「……だから、

 皆、

 料理の回数減らしとるんやな」


ルナが風を見る。


「……風……

 ここ……

 責められてると思ってる……」


風の光が、

わずかに揺れた。


それは、

否定でも怒りでもない。


“距離を取っている”揺れだった。



◆まかない部の判断


アリアは、

一行を見渡した。


「……今日は、

 直さない」


ミナが即座に理解する。


「うん。

 下手に触ったら、

 余計、

 意識させる」


ソラが続ける。


「まずは、

 “いつも通り”を

 取り戻させる」


ルナは小さく微笑んだ。


「……ごはん……

 作ろ……」


風は、

その言葉に、

少しだけ近づいた。


押しつけない距離で。


アリアは町の人へ向けて、

穏やかに言った。


「……私たち、

 少しだけ

 台所、

 借りますね」


誰も反対しない。


それは、

信頼というより、

「任せてみるか」という

静かな合意だった。



◆火を囲む準備


薪を整え、

鍋を洗い、

火を起こす。


派手な料理はしない。

匂いも強くしない。


ただ、

風が通りやすい形で

火を扱う。


ミナが低く言う。


「……これ、

 うちらの得意分野やな」


ソラが頷く。


「制御も説教もなし。

 手ぇ動かすだけ」


ルナは風に囁く。


「……一緒に……

 待とう……」


風は、

炊事場の上を、

そっと巡り始めた。


それは――

町が“息の仕方”を

思い出す前触れのようだった。


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