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木漏れ日の下で婚約破棄を希う  作者: 天満月 六花


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ディオンへの想い


 驚愕と悲哀と歓喜が混じった表情の『彼』に、私は柔らかく微笑んだ。


 ブルーグレーの髪はいつもとは違ってしっかりセットされている。私の大好きな空色の瞳が複雑な気持ちに染まっているのが見て取れた。けれどその中に、一筋の喜びが映っていることが嬉しい。


 私がここに来たのは間違っていなかったと確信できたから。


 『彼』に微笑んだあと、私はしっかりと背を伸ばし壇上にいる方を見据える。

 静謐《せいひつ》な白金の髪と温度が感じられない銀の瞳。この方がオズウェル第二王子殿下。


 ひっそりと深呼吸する。緊張はある。けれど『彼』……私の愛しい人。


 ――私はディーの為なら、どんなことだってできるの。


 例え、それが私の命を削ることでも。


 ***


 数日前。彼が私に微笑まなかった日。


 あんな絶望したような顔のディオンは見たことがなかった。きっと深刻な事が起きている。


 ディオンは私をいつも優先してくれた。ずっと私を守ってくれて、助けてくれた。

 だから今度は。


 ――私がディーを、助けるの。


 いつの間にか伏せていた目を開く。決意を秘めた目をマリーに向けた。


「マリー、私は少し休むわ。暫く一人にしてくれる?」


 マリーは少し躊躇《ためら》ったが、すぐに頷いてくれた。

 飲み終わった紅茶のカップ等を手早く片付け、一つこちらに礼をしてからマリーは部屋を出た。


 マリーの気遣いに感謝をしてから深呼吸する。


 集中力を高めるため、椅子に深く腰掛け目を瞑《つむ》り自身の魔力を感じる。


 自分が放出した魔力は部屋中に満ちている。そしてそれはこの部屋だけではなく、私がいつも過ごしている屋敷の部屋全てに私の魔力は満ち渡っている。


 その満ちた自身の魔力の中で他の魔力を探す。父よりもよく知っている、私の大好きな魔力。いつも私の体に入ってくる、温かい魔力。

 魔力だけを感じていると宙に浮くような感覚がある。自身が宙を漂《ただよ》うように、ディオンの魔力を探していく。


 柔らかい感覚がした。

 自分の魔力の中に漂う別の魔力。私をいつも心配してくれる二人の魔力。


 ――お父様とディーの魔力だわ。


 その二人の魔力の魔力がある場所を自分の記憶と照らし合わせた。


 ――お父様の執務室にいるのね……。


 執務室の中を脳内に思い浮かべながら、漂っている魔力で椅子や机、本棚の位置などを確認する。 


 そうして椅子の下で、漂う私の魔力で術式を構成していく。自分の魔力で術式を描くなどお手の物だ。

 ただ万が一にも二人に気づかれないよう、魔力の痕跡《こんせき》や残滓《ざんし》がな(・)い(・)ように調節していく。

 漂う私の魔力に意識を流して掌握《しょうあく》し、魔力残渣(ざんさ)が出ないように改造した魔術式を描いて発動させた。


 発動させた魔法は、集音魔法。周囲の音を集めて耳元で聞く魔法だ。


『全てを擲《なげう》ってでも!一番大切なものを手放しても!!俺は……フィーリアに……生きていてほしいんです……!!』


 聞こえたディオンの悲痛な叫びが私の心を突き刺した。

 『生きて欲しい』というディオンの渇望《かつぼう》が、私の決断を掻き乱す。


 けれど。


 ――ディーの、幸せは……?


 私のことを考えて、自分のことなど考えていないディオンに心が苦しくなる。


 『傷つけてしまった』私とは、例え婚約破棄が棄却《ききゃく》されたとしても婚約を続けようとは考えていない。

 ディオンは私を守る為にいつも必死で足掻《あが》いてくれた。私の病を治すことを決して諦めなかった。

 だからかディオンは私を『傷つける』ことを必要以上に恐れていると思う。


 そんなディオンだから、私を傷つけたのならもう一緒にいない方がいいと考えてしまうのだろう。


 ディオンの言葉も態度も雄弁だ。私との婚約がディオンの幸せだと、いつも教えてくれる。


 そして私の幸せも、ディオンと一緒にいることだ。ディオンの傍にいられなければ、私は幸せだとは言えない。


 ――だから……私は、ディーと私の為に行動するの。


 ゆっくりと目を開いて魔法を終わらせる。


 ディオンは父の執務室から退出した後、そのまま玄関の方へと向かっていった。


 ――ディー……。


 ディオンが私に会いに来てくれない事実が、胸に大きな穴を空ける。


 家に来た日はいつも会いに来てくれていた。連絡もなく会いに来てくれないことなんてなかった。


 『フィア』と嬉しそうに私の名を呼び、笑顔で駆け寄ってきてくれるディオン。そんなディオンは私の心にいつも優しくて温かい光を灯《とも》してくれた。

 ディオンはいつだって私にとって眩《まばゆ》い、大好きで愛しい人。


 婚約を破棄すれば、ディオンに会えないことが日常になる。話すことすらもできなくなる。


 そんな未来を少し考えただけで、先が見えなくなりそうだった。

 私にはディオンが誰よりも何よりも必要なのに。


 自分の……命よりも。


 ――だから。


 考えてしまった最悪の未来を振り払う。潤《うる》んでしまった目で窓の外を見据えた。

 激しく降っていた雨は少しずつ弱まっていく。


 ――次は、私がディーに会いに行くわ。


 そうしていつもディオンがそうしてくれたように、ディオンを救ってみせる。


 それが、私の最後の我儘《わがまま》。



読んでいただきありがとうございます。

続きを長い間お待たせしてごめんなさい。

今日から物語の最後まで毎日23時に投稿します。

よろしくお願いします!


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