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9話「大竜殺し」

夜。食料をカバンに詰め、これからの準備をする。


「ちょっと行ってくるよ」

「どうしても行くんですね……」


 ナギサは心配そう口調でそう言う。だが、これは俺にしか出来ない仕事だ。


「心配するな」

「絶対に無事に帰ってきてくださいね!」

「もちろん」


 少しでもナギサの不安が和らぐよう俺は精一杯の笑顔でそう応えた。そして、村を出る。


 これから竜を討つ。大竜。俺だって今まで見たことがない。本来、魔道士100人がかりで相手をするそうだが、集まるのを待つ余裕はない。俺1人でやる。


 正直な所、気分は高揚していた。俺の力でどこまでやれるのか、試してみたい。確証があるわけではないが、死ぬことはないだろうというと楽観視していた。

 それに、いざとなれば――


 そんなことを考えていると、山の茂みの奥から物音がする。何かが猛スピードでこちらに迫ってきているようだ。人ではないだろう。それを察知した俺は迎撃体制に入る。


「【風よ、万物を断て】」


 静かに詠唱する。これでいつでも『不可視の刃』が放てる。あとはタイミング。暗い中、敵の正確な位置はわからない。万が一外したらまともに相手からの攻撃を受けること危険性がある。

魔力こそ女神の加護をもらっているが、体はそのまま。一発でも貰えば致命傷になりかねない。下手すれば死ぬ。

 だからギリギリまで引きつけて、確実に当たる距離で一撃でしとめる。それがベスト。


 ガサッ!

 正面の木の陰から、敵が飛び出してくる。俺の腰ほどの高さしかない。これなら問題なく殺れる。


「『不可視の刃(ヒドゥン・ブレード)』!」


 風の刃が敵を引き裂いた。

 やっぱり竜か。見たこともない姿だが、いや見たこともない姿だからこそ。それが竜であると確信した。この世界でも動植物は元の世界と大きく変わらない。竜以外は。

 さて、大きさから見て中竜と予想されるこの竜は俺の方に向かってきた。まるで何かから逃げているように。

 ああ、間違いなく大竜だ。思い返してみれば、村に来たあの竜も大竜から逃げて村へと迷い込んでしまったんだろう。竜にだって縄張りがある。なら、そこから出てくるなんてより強い外敵に追い出されたに決まっている。


 俺は山を歩き続けた。途中で何度か竜に遭遇した。中には、10メートルを軽く越えているであろう奴もいた。ティラノサウスもこのくらいの大きさだったのだろうか。まあ、問題なく倒したが。


 一つの山の山頂にたどり着いた。ここで休憩にしよう。腰を落ち着けて連なる山々を見渡す。


 ん?


 見間違いだろうか。今、向こうに見える山が動いたような気がする。


 ……


 いや、確かに動いてる。

 山のような大きさ――それは比喩でも何でもない。

 緑の木々に覆われた動く山。それが大竜だ!


 まさか、ここまでとは思わなかった。山ひとつ、そのものが竜。スケ―ルが大きすぎて大きさすらわからない。

 正直、帰りたくなってきた。前までの俺なら一目散に逃げ出していただろう。でも今は違う。俺には力がある。

 

 邪魔なカバンをその辺に放り投げ、全力で駆け出した。

 先手必勝だ。一撃で決める。今の俺の最大の魔法で。


 そろそろ良いだろうか。側面をとった。山の如き相手に正確な距離感がつかめない。

 が、そんなことは関係ない。当たり一面消し去れば何の問題もないからだ。


「【大いなる風よ!猛り狂い、全てを飲み込め!】」

「『暴食の竜巻タイラント・トルネード』!!」


 嵐が吹き荒れる。天上へと巻き上がる空気の渦。決して消えることはない。全てを喰らい尽くすまでは。


 竜巻が大竜にめがけて進行する。木々を、地面を、吸い込みながら。

 竜が竜巻に気付き、こちらに向こうとする。だがもう遅い。その鈍重な巨躯でこいつは避けられない。


 竜巻が直撃する。竜の肌をえぐる。鮮血が吹き出す。さすがに、山のような巨体を持つだけあってタフだ。うめき声をあげているものの、致命打には至っていない。

 だが、竜巻は消えることなく攻撃を続けている。血は出ているんだ。これならいつかは殺せるはずだ。


 本音を言えば、攻撃が通用して安堵している。前に一度『暴食の竜巻』を発動させたときは、あまりの衝撃で腰を抜かしたほどだ。だが、竜、それも大竜相手にその威力を試したことはなかった。

 しかし、これで確信に変わった。大竜は倒せると。


 俺の心に幾許か余裕が生まれたのを察してか、大竜がこちらに向かって大きく口を開けた。


 なんだ、なにをするつもりだ?


 大竜の口の前が赤く光を帯びていく。その光はどんどん強くなる。


 まさか。本能的に察する。これはやばい、と。


「【風よ!爆ぜろ!】」

「『風撃(エアロ・バースト)』!」


 地面に風を叩きつけ俺は大きく跳躍した。


 そして、


 大竜の口から赤い光線が放たれる。その光線は地面に当たると轟音とともに激しい衝撃が伝わってくる。

 山が半分えぐられていた。


 あれをまともに食らっていたらと思うと、寒気がする。


 『風撃(エアロ・バースト)』は一度の詠唱で5回まで魔法を発動できる。空中で3発使い体勢を整え、最後の1発を着地の衝撃を和らげるために使った。


 さて、どうしたものか。

 魔法を同時に発動させることは出来ない。だから『風撃(エアロ・バースト)』を発動させたことにより、『暴食の竜巻タイラント・トルネード』は消えてしまった。

 自然に消えることはないのだが、術者が消すことは可能だ。というか、そうじゃないと永遠に残り続ける。


 とりあえず、俺の魔法でダメージを与えられることはわかった。これは大きな収穫だ。しかし、独学では、やはり限界があるか……。

 またさっきと同じように『暴食の竜巻タイラント・トルネード』でちまちまけずって、敵の攻撃を『風撃(エアロ・バースト)』で避けることは出来るが、如何せん効率が悪すぎる。


 そうこう考えているうちに、再び竜の口の前に赤い光輝き始める。


「悩んでる場合じゃなさそうだな」


 切り札――


「来てくれ!ブラスト!!」


 天に向かって叫びかける。

 その声に応えるように、遥か上空から落下してきて俺と竜の間に割って入る。


 大竜の口から光線が放たれた。

 だが、俺は避けない。いや避ける必要がない。



 向かってくる光線をかき消す、漆黒の騎士。

 俺が契約した竜――ブラスト。


 ブラストは右腕を垂直に上げ、振り下ろす。


 たったそれだけの動作から放たれる空気の刃は、俺のどの魔法よりも強力で、 

 大竜は真っ二つになった。

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