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8話「戦いの兆し」

 ナギサは迷っていた。

 自分の腕の中で眠っているエイトをどうすべきか。

 どうやら完全に眠ってしまっているようだ。


「眠っちゃった……。今日一日私に付き合ってくれて疲れたよね。そういえばさっき昔を思い出したって言ってたけど……」


 エイトは村人に自分のことを詳しく話してはいない。異世界から来たなんて到底信じてもらえないだろうと考え、親に見捨てられて行く宛がないとだけ伝えた。親に見捨てられた……それは本当のことだ。

 それ以上は誰も追求しなかった。


「親に捨てられて、この村にくるまでずっと一人だったみたいだし、どんなに力があってもやっぱり寂しかったんだよね。私でその寂しさを少しでも埋められたのなら……」


 ナギサは、病で母を早くに亡くしている。

 父は溺愛してくれたが、村長業が忙しくどうしてもずっとナギサの相手をしているわけにはいかない。また、周りは母親がいるのになぜ自分だけと思うこともあった。

 事情は違えども親から十分な愛を与えられない辛さは知っているつもりだ。

 エイトを抱きしめたのは、同情でなく、共感ゆえでもあった。


 さて、いつまでもこうしているわけにはいかないので、ベッドまで連れて行くことにした。

 当然、抱えることなんて出来ず、両脇を抱えて引きずりながらではあるが。


 エイトをベッドに寝かし、優しく布団を掛ける。


「あんなに強い魔道士様でも、寝てる時は隙だらけなんですね」


 むにむにとエイトの頬をいじる

 ……


「これはお礼。お礼ですから」


 誰かに言い訳しながら、ナギサが唇を近づける。

 あと1ミリで互いの唇が触れそうになる。


「うーん」


 エイトが寝返りを打った。


(って! 私はまた何をしようとしてるの!? いくらなんでも寝てて気づかれないからってダメでしょ!?)


 冷静になり、とんでもないことをしでかしそうになったこと自覚する。

 少しでも恥ずかしさを取り払うために咳払いをした。


「今日はありがとうございました。これからもよろしくおねがいしますね」

「どうかずっと一緒に」


 そう言い残して自分の家へ帰っていった。



 ナギサに魔法を教え始めてから1週間が経過した。

 教えている魔法は『風撃(エアロ・バースト)』だけだが、順調に進んでいる。失敗が少なくなってきたし、少しずつではあるが威力も上がっている。

 この調子で行けばそう遠くないうちに竜にも通用するようになるだろう。


 太陽が真上に来て、そろそろ人休憩入れようと放していた頃、それは突然やってきた。

 剣を腰にさげた数人の魔道士。彼らは、〈竜の剣(ドラゴン・セイバー)〉のメンバーだった。

 どうやら彼らはしばらくこの村に駐在することになったらしい。

 何という偶然だろう。報告に行く手間が省けた。早速竜を消滅させてもらおう。


 俺が竜を殺した場所に移動する。そして、地面に腰から下げていた剣を突き刺した。

 これで処置は終わり。もうあの竜は転生できない。処置を終わらせた〈竜の剣〉は、竜の遺骨を回収するため、遺骨が保管されている倉庫に入っていった。


 明くる日、外の騒がしさに俺は目を覚ました。なんだろうか。まさか竜の襲撃ではないはずだ。

 〈竜の剣(ドラゴン・セイバー)〉がいるのだからもう心配はない。

 外に出て村人に話を聞く。


「何かあったのか?」

「何かなんてもんじゃない! この村を出て行けだとさ!」

「どういうことだ!? なぜそんなこと!?」

「どうもこうもねえよ。この村が大竜の通り道になっているらしい。〈竜の剣(ドラゴン・セイバー)〉の偵察員が確認したんだと」


 そういうことか。わざわざこんな辺境の村に〈竜の剣(ドラゴン・セイバー)〉が来る意味。

 そんなもの竜の脅威が近くにあるから決まっている。

 それに大竜……。

 中竜なら今まで何匹も狩ってきた、だが大竜は見たことすらない。山のような大きさ、そんな噂話を聞いたことがあるだけだ。


 俺はそこらにいた〈竜の剣(ドラゴン・セイバー)〉のメンバーに声を掛けた。


「大竜がここに向かってきているっていうのは本当か?」

「ああ、正確な到着時刻まではわからないがおそらく1週間程度でここを通過するはずだ。大竜が通った後は草も残らない。2日以内に避難しろ」

「1週間!? もうすぐ側にまでやってきてるじゃないか。なぜ、今まで何も手を打たなかったんだ!」


 あまりにも唐突すぎる宣言に自然と声を荒げてしまう。


「出来ることならやっていた! だが、奴は何の前触れもなく突然姿を表したんだ。おそらく、かつてそこで死んだ竜が転生したのだろう」


 転生。どんなに強大な竜であろうと、死後その亡骸が朽ちてしまえば、何の痕跡も残らない。されど、そこで命が尽きたという事実だけは確かに残る。そして、いずれその場で転生する。

 もし仮に、過去に竜が死んだ場所でそのことを知らない人々が集落でも作ってしまったら?

 いつの日か、その竜は集落のど真ん中で転生することになるだろう。

 この世界には、竜の転生という地雷があちこちに存在していた。


 大竜が転生した場所が村から少し離れた山の中であったのは不幸中の幸いだ。

 だが、だからといってそう簡単に村を放棄できない。


「あんた〈竜の剣(ドラゴン・セイバー)〉なんだろ? なら倒してくれよ。この村が壊される前に」

「今、王都では討伐隊に招集をかけている。だが、相手は大竜。100人規模の魔道士が必要になる。1週間やそこらでこの数を集めここまで派遣するのは無理だ」


 ああそうか。そうだよな。避難命令を出すくらいなんだから間に合わないのはわかっているさ。なら、俺がやるべきことはただ一つ――


「教えてくれ、大竜はどこから来る?」

「東からだ。奴がどう動くかわからん以上、逃げるべき方角の指示はできん。逃げろ、出来るまで遠くまで」

 この村は良い村だ。こんな俺を何の抵抗もなく受け入れてくれた。

 だからこの村の人たちを、何よりナギサを、悲しませるわけにはいかない。


 さあ行こうか、狩りに。

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