【ラストシーン】
王都遠景。
朝の光が、石造りの街並みをやわらかく包んでいる。
かつて炎が揺らめいた大広場も、今はただの広場だ。
王城・執務室。
若き宰相カイは机に向かっている。
山積みの資料。
予算案。
教育改革の進捗報告。
若者議会の提案書。
彼の指先は紙をめくる。
演出台本ではない。
政策の数字だ。
かつて舞台を設計した男は、
今は制度の細部を設計している。
彼は小さく呟く。
「物語は、後からついてくればいい」
ペン先が走る。
熱ではなく、思考の音。
市民会館の討論室。
レイアが立っている。
特別席はない。
拍手もない。
ただ円卓。
「教育予算は、象徴を作るためではなく」
「選択肢を増やすために使うべきです」
穏やかな声。
誰も跪かない。
誰も讃えない。
だが誰も彼女を“役”に押し込めない。
質問が飛ぶ。
反論が出る。
議論が続く。
彼女は頷き、考え、答える。
生きているから発言する。
それだけだ。
広場の片隅。
若者たちが輪になっている。
「税制の段階緩和はどうだ?」
「いや、まず雇用制度だろ」
「データは?」
怒号はない。
コールもない。
熱はある。
だが燃えてはいない。
王城の窓辺。
王子アルベルトが街を見下ろしている。
遠くに見えるのは市場の賑わい。
討論の集まり。
静かな往来。
彼は微笑む。
「炎は消えたか?」
自問する。
すぐに首を振る。
「違うな」
「形を変えただけだ」
そして。
空になった大広場。
舞台はない。
装置もない。
投影塔もない。
ただ石畳。
風が吹き抜ける。
子どもが走り抜ける。
商人が荷を運ぶ。
老夫婦が腰を下ろす。
広場は、広場に戻った。
特別な場所ではなく、
日常の中心へ。
遠くで鐘が鳴る。
澄んだ音。
余韻が空に溶ける。
デルガの声が、重なる。
「断罪は、国家の鏡だった」
「鏡を壊したのではない」
「もう、自分の顔を見られるようになったのだ」
風が石畳を撫でる。
王都は静かだ。
だが止まってはいない。
物語は終わる。
だが国家は続く。
問いながら。
選びながら。
――完。




