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悪役令嬢断罪請負人デルガ  作者: 南蛇井


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エピローグ

夜。


広場は空だった。


昼間あれほど人で埋め尽くされていた石畳は、

いまは月光を静かに受けている。


舞台は解体されず、残っている。

だが照明は落ち、装置は沈黙している。


国家が自らを裁いた場所は、

ただの空間に戻っていた。



カイはその中央に立っていた。


冷たい風がマントを揺らす。


デルガが隣に並ぶ。


しばらく、何も言わない。


やがてカイが口を開く。


「物語は消えませんよ」


断定だった。


怒りはない。

悔しさもない。


ただ、確信。


「人は物語で世界を理解します」


「英雄も、敵も、象徴も――形を変えて必ず戻る」


デルガは微笑む。


「消さない」


短く答える。


「だが、独占しない」


カイがわずかに視線を向ける。


デルガは続ける。


「国家が物語を独占したとき、

それは支配になる」


「だが物語そのものは、

人間の呼吸だ」


二人の間に、敵意はない。


あるのは、

異なる役割への理解だけだった。



遠くで声がする。


若者たちだ。


広場の端、石段に腰かけて議論している。


善悪ではない。


誰が悪かでもない。


政策の優先順位。


税制の再設計。


地方自治の裁量。


声は高いが、怒号ではない。


熱はあるが、敵意はない。


物語ではなく、意見が飛び交っている。


デルガはそれを見つめる。


これは静かだ。


だが死んではいない。



レイアは街を歩いていた。


夜の市場通り。


パン屋の灯り。


酒場の笑い声。


誰も跪かない。


誰も讃えない。


振り返る者も少ない。


だが。


誰も彼女に役を押しつけない。


悪役とも、聖女とも呼ばれない。


ただの市民。


ただの一人。


彼女は立ち止まり、夜空を見上げる。


軽く、息を吐く。


それは解放でも、喪失でもない。


選択の始まりだった。



デルガは独白する。


断罪は終わらない。


社会に衝突がある限り、

検証は必要だ。


だが。


物語の乱用は終わる。


人を役に押し込み、

善悪を固定し、

熱を燃料にする時代は終わる。


――だが。


物語を奪えば、静寂が来る。


静寂は美しい。


しかし、永遠ではない。


人は意味を求める。


意味は物語を呼ぶ。


やがて誰かが、

新しい物語を語り始めるだろう。


地下で。


過激に。


あるいは理想を掲げて。


カイは再び舞台を求めるかもしれない。


レイアは自ら政治に立つかもしれない。


国家は選ばなければならない。


物語を持つべきか。


それとも持たぬべきか。


いや。


持つならば――


どう扱うのか。


夜風が吹く。


広場は静かだ。


だがその静寂の奥で、


次の物語は、もう芽吹いている。

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