ほんとに不思議
「これで五匹目。テオの素早く何度も刺すっていうの効果あるよ。みんなで攻撃するってのもね。いつもはひとりで一匹を相手にしてたおす。でもすぐ他のが来て、怪我する事が多かったけど」
「そう、役に立ってよかった」
小声のベッラに、僕が答えてうなずいた。
「じゃあテオ、ボクらも狩りをしようか」
「だね。もっと東の方でやるよ、ベッラ。またね」
「うん。がんばってね」
三人から離れて森のきわを東に歩いてきた僕とモルンは、角ウザギを見つけてしのび寄る。
立ちあがって辺りを警戒していた角ウザギに短杖を合わせて氷刃を放つ。うまく仕留めた。
異変に気がついた別の角ウザギが向かってきたが、移動する獲物にはうまく当てられない。外した角ウザギが近づくのを待って、飛びかかってきたところを僕が剣で攻撃した。
「ふう、動いているに当てるのは難しいね。氷刃は誘導してたんだよね?」
「前は上手くいってたんだけどねぇ」
「うん。モルンの、前足にぎにぎ魔法も弱まってるんだなぁ」
「誘導は得意だったのに。ほんとにもう! どうしよう!」
昼前には魔力が無くなりそうになった。
四匹目を仕留めたところで、狩りを終わりにして宿にもどる。
宿の裏庭で角ウザギを解体し、冒険者ノ工舎の買取場に持ちこんだ。幸運なことに、極小だが赤珠三個が採れ、宿代の足しにできた。
訓練場で、やってきた子どもたちと猫たちを交えて体を動かす。
昨日の冒険者たちもいたが、こちらの様子をうかがうばかりで声はかけてこない。
僕とモルンは、子どもたちが休憩している間に魔法の練習もした。キツネ顔の不潔な冒険者が、強い視線でモルンをジッと見ていた。
「できた! でも、なんか変!」
モルンは、夕飯後の魔力充填と吸収の練習中に素っ頓狂な声をあげた。
クローパニの街に着くまでと同じ、子猫の大きさになっていた。
「え? 変? ちゃんと子猫だよ」
「うん、でもね、なんだろ。ちょっとお試し」
モルンが何度か子猫と若猫になってみる。
「あれ? なんか変だね。もう一回やってみて」
僕の言葉に合わせて若猫から子猫になる。
若猫の大きさで背負っている、フクちゃんこと背負袋。子猫になってみると、背負袋が消えてしまった。
「え? フクちゃんが、消えた?」
「ん? ちゃんと背負っているよ」
「見えないよ」
「あるけどなぁ」
僕が手を伸ばしてモルンの背中をさわる。見えないが背負袋が若猫の背中にあることがわかる。子猫の体もなでることができる。
「背負袋も触れるし、体もわかる。でも、でも、二重になっているみたいだ。子猫と若猫の両方にさわれる……」
「二重? うーん、これなら?」
「あ! 透明な子猫と若猫が重なっている! 見えるよ!」
モルンが意識を集中すれば、どちらか一方の姿が見える状態から、薄っすらと重なって見える状態へと変化させることができた。
「もっと、大きくなれる? 親方くらいの大きさに」
「やってみる!」
モルンは、フクちゃんを背負ったままで、子猫から成猫まで自由に姿を変えられることがわかった。
「えーと……魔力はほとんど使ってない!」
「よくわからないけど、新しい力? 魔法なのかな」
「うん!」
僕とモルンは、翌朝も夜明け前から起きだし、森まで出かけて狩りをした。ベッラたちは、今朝は年長の子たちと一緒だった。
「おはよう、みんな」
「おはよう。モルン?」
「あれ? 子猫? モルンはいないの?」
「モルンだよー。ボクはねー、子猫にも大人にもなれるんだよ。テオが重いって言うから今朝は子猫」
「……大きさが変わるって。ほんとモルンは不思議な猫なんだね」
「まあ、モルンだからねぇ」
「テオ。それってどういう意味?」
「い、いや、ほめてるよ」
「……そうは聞こえないんだけど」
狩り場が重ならないようにみんなと話し合った。
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