↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
猫師ノ工舎物語 テオとモルン 子猫の魔術師は火弾の大爆発が大好きです!  作者: ヘアズイヤー
辺境伯領

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
66/73

黒い煙


 角ウザギを五匹仕留めたところで魔力が乏しくなり、街に戻ることにした。

 森沿いを歩きながらあたりを見まわして、僕らは不思議そうに顔を見合わせた。


「テオ、なんか静かすぎない?」

「うん。森から鳥の声がしないかな」



 少し離れた森に分け入るけもの道、その奥から悲鳴が聞こえてきた。

 森から冒険者たちが走りでてくる。


「おわっ!」

「きゃー!」


 子どもの声とともにベッラたちが駆けでてきた。モルンと僕を見つけると声をあげる。


「モルン! 逃げて! 煙! 煙の魔物よっ!」


 長い髪を束ねた女性。胸元に銀証がゆれる冒険者が、子どもたちを守るように走ってきて僕に叫んだ。


「街まで逃げろ! 銀証でも勝てそうにない! 逃げるんだ!」

「もう子どもたちは残ってないか!」

「逃げた!」


 ベッラや子どもたちも一緒になり、街に向かって走っていく。


「ウワッー!」

「がはぁー!」


 最後は、訓練場で子どもたちを追い払った冒険者たち。倒(こ)けつ転(まろ)びつ、後ろを振り返りつつ、青い顔ででてきた。

 男たちの殿(しんがり)は大きな荷物を背負った小柄な少年。重くて走れず荷を降ろそうとする。


「このっ! 荷物を捨てるなっ!」


 少年の前を走るキツネ顔が、振り向いて甲高い声をあげた。彼らの後ろから、細く黒い煙が追いかけるように伸びてきた。


「瘴気!」


 僕とモルンが同時に声をあげ、少年に向かって駆けだした。瘴気が少年の頭越しにキツネ顔に追いつきそうになる。


「くっ!」


 キツネ顔はくるりと体を回して少年を蹴り飛ばし、また走りだした。


「あっ!」


 ころんだ少年が瘴気に追いつかれ取り込まれる。


 冒険者たちは足を止めることなく、僕とモルンの横をすり抜けていく。キツネ顔もこちらをチラリとみて走り抜けていった。

 短杖を抜いて氷の魔法を放つが、直ぐに氷は取り込まれてしまう。ガエタノのように全てを凍らせることができない。


「テオ! 無理! 囲まれる!」


 モルンの叫びとともに、急停止する。


 四方に瘴気の触手を伸ばした大きな塊が、けもの道からでてきた。


 アントン村で遭遇した瘴気、あの時はよく観察する時間はなかった。

 あらためて見るとただの煙ではなく、ヌメヌメと光沢があるようにも見える。

 一部は硬質な感じの部分もあるが、うねうねと動くさまはおぞましく、見ているだけで吐き気がこみあげてきた。


 瘴気は触手を僕らに集中させる。モルンは素早く避け、僕は剣を抜いて切り防ごうとした。剣は瘴気を切り散らすが、散った瘴気は合体して、もとに戻っていく。


「危ない!」


 僕の背後から襲おうとした触手を、モルンが凍らせる。


 ガチンッ!


 氷の塊が僕の背中に当たり体勢が崩された。肩に飛びあがり、背中合わせになろうとしたモルンを、一本の触手が襲う。


「ギャンッ!」


 モルンの後ろ足を触手がつらぬく。


「モルン!」


 振り返った僕は、触手に持ちあげられたモルンを助けようと切りつけた。

 今度は剣が瘴気をすり抜ける。

 短杖を突きつけ一部を凍らせる。

 その時、瘴気が僕の胸を貫いて飛び出した。


 げぼっ!


 口から血が溢れた。背後から攻撃されていた。


「ぐぁっ!」


 冷たい! 熱い! 痛い! 寒い! 寒い!


 痛みに剣と短杖を取り落とし、胸にでている瘴気をつかもうとする。両手は虚しく空をきるだけだった。

 さらに右太ももを瘴気に貫かれる。

 グッと力がかかり、僕の体が瘴気本体の方に引き寄せられる。

 モルンも、細い瘴気が数カ所刺さり、血を吹き出しながら取り込まれようとしていた。

 苦痛の中、何かが吸い取られる感覚もある。


 「ごぼっ! 剣も、魔法も、ダメだ! 打つ手がない! ごぼっ! モルンだけでもっ! モルンだけでも助けないとっ! ごぼっ! ごぼっ!」


 アントン村で見た木材のように干からびた子ども。その苦悶の顔が脳裏に浮かんだ。


 やみくもに振り回す僕の両手。

 モルンがつけた傷。十条の傷が光りだす。

 光は両腕全体を包みこみ、スウッと消える。


 前腕から指先にかけて形がかわった。大きな真っ白い猫の前足になる。

 にゅうっと長い爪がサヤから伸びでた。

 もがき続けるモルンの前足も呼応するように光り、大きくなる。体毛のキジ白が眩く光る毛づや、もとの何倍もある前足が現れた。


 僕とモルンの前足と爪は、瘴気をひき裂いた。

 裂かれた端(はし)は空中に消えてゆく。


 眼前に迫る瘴気の本体から太い枝が伸び、僕に向かって振り下ろされる。それを前足で切り防ぐと瘴気の陰に肉体が覗く。

 切り裂かれ、振り払われた瘴気の間から、頭がでてくる。


 長い鼻先、ぬめるような黒い光を発する眼、大きく長い牙。

 焦げ茶色の狂熊だった。


 僕らは巨大な前足を振り回し、長い爪は狂熊を裂いて血を流させた。

 狂熊の大きく開いた口に引き寄せられる。泡と粘液がまとわりつく白い牙が届きそうになったとき、僕の前足が一閃。

 狂熊の頭は肉片と脳、脳漿(のうしょう)と血を撒き散らしてズタズタになった。下顎が残る頭部から、血が高く吹きあがった。


「がはぁっ!」


 瘴気は霧散し、モルンと僕が地面に叩きつけられる。


 ドウッと地響きをあげて、狂熊が倒れた。


お読みいただき、ありがとうございます。


客観的に見れていない部分もあり、ご感想、ご意見などお送りいただけると感謝感激です。

誤字脱字もお知らせいただければ、さらに感謝です。

★★★★★評価、ブックマーク、よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。