彼の正体について考えました
「さて、見回りは増やすとして……君に少し訊きたいことがあるが、いいだろうか?」
どうやらヴィルディエール様はもう少し時間があるらしい。
質問に答えるのは別にいいのだけれど、その前に心配事がある。
彼は部下達と森の見回りをしている最中、強制お空の旅をさせられていた私を見つけ、救助と共にその後のケアをするからと見回りを一人抜けてきたらしい。部下を一人もつけずに。お付きの人が一人もいないのは絶対におかしいと思うのだけれど、どこにも見当たらないし……。
すでにとっぷりと夜になってしまっている。
部下の立場の人達が心配したり、しないんだろうか?
「あの、その前に。ヴィルディエール様は帰らなくて、よろしいのでしょうか? 日も暮れて……その、察するに立場が上のかただとお見受けしたのですが、貴方が帰らないと心配をする者がいるのでは?」
「なるほど! 俺の身を案じてくれているわけだな! それなら君が心配する必要はないな! 俺が強いからだ!」
いやいや、強いからって言っても上の立場の人が単身、得体の知れない魔女の家にいるのはどう考えてもおかしい……と思ったが、ヴィルディエール様はどうやらその辺りのことに触れてほしくなさそうな様子である。
文字通り、私は気にしないほうがいいのだと思う。
「……ええと、分かり、ました」
「分かってもらえてなによりだ」
彼は視線をついっと上にあげた。一瞬のことだったので、それがどう言う意味かは分からない。そのあとすぐに私の頭を押さえつけてきたので本当に気にしてほしくないのだろう。
「身長が縮んでしまいますわ」
「元より小さいだろう、気にするな!」
「き、気にします! とても気にします! せめてもう少し優しく撫でてくださいな!!」
「ほう、撫でられるのは良いのだな? なら遠慮なく」
「っ! そ、そうではなくてですね……!」
なんとなく揶揄われている気がする。
からからと笑う彼に随分と調子を狂わされている気がするな。それだけ、私自身が気を許しているのかもしれない。
彼の立場になって考えると、私は相当怪しい女のはずだ。なのにこうまで優しくされてしまうだなんて。果たしてこの人に危機感はあるのか?
ただ、今回のことで彼の謎に少しだけ迫れた気がする。
少なくともちゃんと部下がいる立場のお人なのが分かった。料理を振る舞うのはお家の者への日頃の感謝が……と言っていたこともあるし、確実にどこかいいところの嫡男かなにかなのだろう。あと、確か私を助けてくれたときにドラゴンに乗って飛んでいたような……?
ドラゴンって調教が難しいから軍事でも相当実力のある人しか扱えないって話を聞いたことがあるのだけれど、それは私の国の話だったし、魔人族の軍事関係のことは分からない。
もしかしたら、軍事関係はかなり進んでいるのかも? 魔人は長生きだし、その分強くなるはずだものね。動物達や幻獣の調教技術がすごくてもおかしくはない。
今のところヴィルディエール様のことで分かるのは、家柄がとても良さそうなのと、強いだろうことと、ドラゴンを乗りこなせる技術があること、そして自分から有名だと言っていることに、部下がいる立場だということ……。
ということは、やっぱり軍の人かもしれないのは合っている……はず! 有名で強くて部下がいる! 軍人さんなら、その条件に合うわ! きっとそうよ!
あれ、それだとなおさら私に優しくしてくださる理由が分からない……軍人様なら、不穏分子は放っておかないと思うのだけれど。やっぱり私は監視されているのだろうか? それにしては……親切すぎるんだよね。
「さて、では質問に答えてくれるだろうか? 二、三、訊きたいことがあるわけだが」
「ええ、構いません。私に答えられる範囲のものなら、いくらでも」
「なに、そこまで緊張することではないな。君のいうところの『お勉強』の範囲だ。言っただろう、人と魔人では認識や常識にズレがある。常識のすり合わせを行いたいのと……その過程で君が知りたいことがあればこちらの知識を提供するという話だ」
なるほど。私に質問をしていくことでヴィルディエール様がこちらの常識がどのようなものか測るというわけか。確かに、闇雲に私が疑問に思ったことを逐一質問していくだけでは効率が悪いだろう。
つまり、それだけちゃんと知識を授けてくださる意思があるということだ。喜ばしい限りである。
「次に会ったとき、資料を提供することもできる。知識欲というものは、案外大事だからな」
「はい、痛感しております」
嫌というほどに。
「それでは、まず、君の魔物についての知識からだな。君は魔物がどこから生まれて、なぜ聖なる力で消え去るのか分かるか?」
こうして、私の第一回お勉強タイムが始まったのだ。




