26話・氷の都⑥
「不審人物を発見した!!」
「お待ちください皇女様!」
かなり走ったつもりだが、やはり子供の体はとても不便なものだった。足も短い為、走れる距離も予め決まっている。
魔法を使って万が一にでも暴走させたら、邸が、いや、邸だけじゃなく周囲の建物諸共破壊しかねない。
走り疲れて足が動かなくなりそう。ぜーはーぜーはー。もうちょっと筋トレしておけばよかった……
「あえて捕まって事情を話せば、わかっては貰えるんじゃないのか」
「ハア、ハア。そ、それは難しいと思う。この国の人達は王族至上主義だから、王族の言うことは絶対なの。それにもしも事情を話してわかって貰えなかったら……」
「不法侵入者ってことで罰せられるのが俺だけなら、やっぱ捕まった方が──
「それはダメっ、ノアを犠牲にする選択肢なんて無い。それだけは絶対に許さない。これは主人としての命令よ!」
食い気味に強く否定され呆気にとられていたのもほんの一瞬のこと。
直ぐに「そうか、俺を犠牲にするのは嫌なのか、ふふ」となんだかニヤニヤし始めた。……おじさんみたいよ、ノア。
「仕方ねーな。よっ……と」
フワッと体が浮いたと思ったら、脇に抱えられた状態でガッツリ固定。
あら、思ったよりも安定感あるわね。
「って、そうじゃないっ……!」
「あっ、おい!あんま暴れると落ちるから、大人しくしとけ」
「そこは普通お姫様抱っこでしょ。女の子は一度はそれに憧れを抱くもんよ? 例えお姫様抱っこじゃなくても………これは無いわ」
「なんで俺はダメ出しされているんだ?」
乙女心をもう少し理解してから出直して欲しい。
そんなわがままを素直に聞き入れる時間があるほど私たちに余裕は無い。
直ぐに状況を把握し順応し、担ぎあげられたまま「そこ右!」「今度は階段登って左へ直進」と自室へたどり着くための指示を出す。
ノアよりも少し軽いとはいえ、ほとんど同じ体重の人間を子供が運ぶのはかなり労力がいるところ。
つまり、なんで軽々と運べているのかって言うと、ノアが<重力魔法>と<筋力増加魔法>などなど、多重魔法を駆使しているからってことだ。
なんだか、使っている魔法からして、間接的に痩せろって言われている気がするのだけど。
「こ、この子供、小さいくせにめちゃくちゃ足が速いぞ!!?」
「どうなってんだ!なんで追いつけないんだ!」
「だが人数的にはこちらの方が有利だ!早く捕まえて、皇女様をお救いしろーーー!!」
「「「おおおおおーーーー!!!」」」
血気盛んな衛兵はそれでもしつこく追ってくる。
一か八か、呼びかけて見ればわかってくれるかもしれない。
そんな淡い希望を抱いて声を張る。
「あのーーーっ!私は大丈夫ですので!安心してくださーーーいっ!」
「皇女様………!そんな不届き者を庇うなんて………なんてお優しい………!」
「きっと脅されているんだ!急いで人員の追加を!!」
「はっ!」
話が通じない。その上、「皇女様ーーー!」「今お助けします!」と衛兵の人数が増えた。
どうしてここの衛兵はこんなに熱苦しい人が多いのかしら。
「まさか、こんなにも早くこれを使う時が来るとはな……」
ふと、ノアが私を抱えていない左手側のポケットから、丸い球を取り出した。
球のてっぺんには一本だけ太い縄性の紐が生えていて、
「ノア、それって……」
「俺特製、手持ち爆弾」
そう簡潔に答えるとボッと紐の先端に火が灯る。
慌てず落ち着いて、意図も簡単に、なんの躊躇いもなく後ろにポーイと球を投げ捨てる。
流石の衛兵たちも怪しい人物に急に投げられたものに警戒しないほど馬鹿ではない。
先頭から順に止まって、ざわざわ混乱し始める。
「お、おい。なんだこれは」
「火が着いているぞ?」
「クンクン。焦げ臭いな……ん?この形状……」
「これって……」
「まさか……」
気がついた時にはもう遅かった。
紐はどんどん燃やされ短くなり、いよいよ球本体へと着火。
瞬間、ピカッと物凄いフラッシュが衛兵たちを襲い、
「「「ぎいいぃぃイイイやああぁぁアアアっっっ!!」」」
ドゴォォオオオン!と爆破。
盛大な悲鳴がその場に轟いた。
これにはさすがにお気の毒様としか言えないわね。
しかしこれで終わりではない。
あくまで爆破されて空の彼方へと吹き飛んで行ったのは先頭を走る数名の衛兵だ。
それより後ろにはまだまだ多くの衛兵が残っている。
ノアは再び左ポケットから球を一つ二つとどんどん取り出し、順に炎を灯して後ろへ投げ捨てる。
ノアの左ポケットはどこぞの異次元ポケットかしら。
広い邸の通路には爆弾の爆破音と衛兵の悲鳴が入り交じった地獄絵図が完成していた。
顔色ひとつ変えずに爆弾を製造して投下するノアは魔王よりも恐ろしく感じた。
気がつけばあのうるさい足音が全く聞こえなくなっていた。
後ろを振り向いても誰一人追ってきてはいない。
まあ、あそこまで悲惨な目にあったらね……
あの小規模の爆弾被害を思い出すと、衛兵たちにも同情するわ。
「追っ手は?」
「来てない。声も聞こえなくなったし、たぶん見失ったんだと思う」
「てことは、とりあえず一安心ってことか」
「うん。あ、そこの手前の部屋に入って」
はいはい、とやる気のない返事に続いて部屋の中へ避難。
衛兵達がいなくなったことで余裕ができたからか、さっきまでの切羽詰まったノアの表情がいつもの無気力な顔へ戻っていた。
別に貶しているわけでは無いのよ?だって本当のことだもん。
部屋の中に入ると、脇で抱えていた私を丁寧に下ろして「今日は厄日だ……」とへたり込む。
朝からロゼッタにこき使われて、こっちに休憩がてら来たと思ったら直ぐに追い返され、懲りずにまた遊びに来たと思ったらこんな事になり。
これは相当ハードな一日だったわね。
私がテオ王子になにかされそうになった時も、手を出さずに見なかったふりだってできたのに、ちゃんと助けに来てくれる。
「無愛想で意地っ張りな所もあるけど、やっぱりノアはノアなのねぇ」
「聞こえているからな。無愛想ってなんだ。意地っ張りってなんだ。どういう意味か説明しろラヴィニア」
「あら、意外と元気。まだ体力残ってるならそんな扉の前で座ってないで、奥の方にソファがあるから、そっちで休んだら?」
ゴニョニョ言ってるけど立ち上がって言う通りにのそっと動き出すノア。
壊れた機械みたいな動きでソファまで歩み寄り、顔面からボフッとダイブ。
ソファは天然羊毛使用だからふわっふわ。
私はというと、一日に何度も魔法をかけられて体がずっしり重い。
ベッドまで移動して豪快にダイブするものの、ドレスがかさばって寝苦しいので、シュル、スルル、とドレスを脱いでいく。
借り物だから後で丁寧にかけておかなきゃ。
そんな私の着替え途中の姿をじとっとした目で見つめる男が一人。
「……ここで脱ぐのか?」
「ええ。あっ、もしかして照れちゃった? 女の子の着替え姿を見て照れるなんて、ノアも子供ねえ~」
「幼児体型の女の下着姿をみて何をどう感じろと?」
「これから成長期なの。あと何年後かにはボンキュッボンになるんだから」
「幼児体型のやつは大抵そうやって言い訳をする」
「実際、現在進行形で幼児でしょうが。あと数年後には驚くくらいスタイル抜群の絶世の美女になっているんだから、今に見ていなさい!」
ふふんっと自慢げに鼻を高く見せるものの、「あっそ」と素っ気ないをしてソファとイチャイチャ。
自分から色々言っておいて人の話を無視するなんて……後でロゼッタにチクって掃除の量を増やしてもらおうかしら。
小悪魔めいた表情でニヤリと笑いベッドから不気味な笑い声を飛ばす。
「うおぉっ……な、なんだか寒気が……」
ノアはブルルッと体をざわつかせ、背筋をピンと張った。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
俺は今、非常に気分が悪い。
サミュエルには面倒臭いパーティへの参加を強制され、直ぐに自室へ戻り帝国の書類整理にあたろうと思っていたところへ、宰相から魔法便が届いた。
内容はとある貴族の本家で火災が起きたというものだった。
幸い、周りの木々に炎が燃え移ることはなく直ぐに消化されたが中にいた夫妻と何名かの逃げ遅れた使用人たちが犠牲になったらしい。
問題は火災の起きた貴族の爵位とその死因だ。
まず、今回犠牲になったという貴族は伯爵家。それも他国との外交関係に深く関わっていた名家だ。
近頃その権威は衰え、跡取りができず衰弱の一途を辿っていたと聞く。
(だが、なぜ逃げ遅れた。夫妻がいたのは寝室だったという。火事が起きれば直ぐに使用人たちによって避難誘導が始まるはずだ)
使用人たちも灰まみれとなり、何名かは重度の火傷を負っていた、と手紙とは名ばかりの報告書に記してある。
「誰かが意図的に火災を起こし、伯爵と婦人を殺した、というのか」
確かにあそこの伯爵家はあまりいい噂がない。
密売、誘拐、裏オークションへの参加。
どこからか噂が流れては必ず調査に入ったが、特に何も怪しいところはなかったと報告がある。
(殺人、か………少し嫌なことを思い出すな)
脳裏には妻であるアザレアのあどけない笑顔が過ぎる。
それと同時に、彼女と同じ顔で笑うラヴィニアの姿が思い浮かんだ。
その笑顔は自分へ向けられたものでは無く、湖の上ではしゃぐ姿がたまたま邸から目に入り、記憶に残ってしまっただけの話。
(あの娘が自分から私へ笑いかけることはないだろう。そうなるよう、接してきた)
その時、「皇帝陛下!」と扉の前から騒がしい男の声が聞こえる。
「入れ」と一言告げると、扉は鈍い音を立てて開き数名の衛兵が跪いた。
「ただいま、見回りの者が不法侵入者を発見し捕縛を試みたところ逃走したという情報が寄せられました」
「………不法侵入者をまんまと逃がしたわけか」
「ひっ──!」
軽く睨んでやると後ろで跪いている衛兵が恐怖で息を飲む。
この程度でこの脅えようとは、ここの衛兵は無能の集まりか。
「俺への報告はそれだけか。逃げたなら捕まえればいい」
「そ、それが……」
「うじうじした奴は好かない。言うなら言え。言わないのならさっさと出ていけ」
「………ふ、不法侵入者は皇女様と同じほどの背丈の子供で、特徴は黒髪に赤目、更に爆弾をいくつか所持しており………」
(チッ、あれだけ睨みをきかせたというのに)
はっきりしない物言いをする衛兵に怒りがわいてきたところへ、ドタドタと慌ただしい足音が部屋へと近づいてくる。
「皇帝陛下!皇女様が!!」
そう言ったのは髪が焦げたようにチリチリとしていて、肌は少し焼けた濃い色をした衛兵だった。
「皇女様が不法侵入者によって連れ去られました!!」
それを聞いてまず初めに思ったことは、また面倒な事に巻き込まれたのかあの娘は、ということだった。
(……黒髪に赤目でラヴィニアと同じほどの背丈の不法侵入者。まさか……)
予感が当たればラヴィニアの安全は確実なものだろう。
万が一外れれば今頃どこかへと消え去られ、生存確認すらとることは不可能だ。
「その不法侵入者を最後に見失った場所はどこだ」
「て、邸内です!」
これはもう確定ではないだろうか。
逃げようと思えばいくらでも邸の外へ逃げることが出来るはずだ。
それをあえてやらないということは、
「はあ………」
重いため息が空気となって消えていく。
(確定、だな)
──つまらないこと、暇なこと、どれも嫌いだ。
過去にそう話した相手がいる。
しかし、
(面倒事をよこせとは一言も言っていない)
冷徹の皇帝は冷ややかな瞳をして衛兵を連れ、自身の娘の部屋へと向かった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「そういえば、テオ王子になんて言われたの?」
「……別に何も」
「あからさまに目を逸らしておいて、よく嘘をつこうと思ったわね」
「チッ」
「あっ、また舌打ちした。あんまり舌打ちしてるとダメな大人になって一生独身の孤独死で終わるわよ」
「妙にリアリティのあるツッコミだな。しかもかなりのダメおやじな未来……」
昔書庫を漁っていたら、"絶対になりたくない女TOP10"ってタイトルの雑誌の記事がクシャッとなって本と本の間にねじ込まれていたのを見つけた。
読んだ後リディに見せると「あっ、それはっ!」と思い当たる節があるようで、恥ずかしがりながら回収されたのを覚えている。
質問に関してはずっと黙りで必死に話をそらそうとするから余程言いたくないことなのだろう。だったらこのまま質問を続けても答えてくれはしない。
「危ない事には関わっちゃダメだからね」
「お前がそれを言うのか」
「うっ……確かに……」
ぐうの音も出ないほどの正論に言葉が詰まる。
自分から厄介事に首を突っ込みに行っているつもりは無いんだけど、いつの間にか突っ込んでいるというか、巻き込まれているというか。
「世話が焼けるのはお前のアイデンティティみたいなものだと思っているから気にするな」
「それ、褒められてるの?貶されてるの?」
「褒めてる褒めてる」
「棒読みで言ったって説得力の欠けらも無いんですけど」
「はいはい」
「感情込めて!」
「十分込めてるだろう」
こんな何気ない会話も楽しくて、調子にのってソファで仰向けになって笑っているノアの上にドーンと飛び込む。
うっ、と呻き声をあげつつも、私の体がどこかに打ったりしないようしっかり受け止めてくれる。
「………重くない?」
「重い」
「そんなこと言って、ちゃんと受け止めてくれたじゃない。ノアだったら今の避けようと思えば避けられたでしょう?」
「俺が避けたらお前、足の小指とか肘とかどこかにぶつけるかもしれないだろうが」
「無いとも言えない可能性ね。でもノアが私のせいであんな呻き声をあげる姿は見たくないから、痩せるわ」
そこはお世辞でも軽いって言って欲しかったところだけど、半年近く一緒にいて言われ慣れているし冗談半分なのもわかっている。
拗ねてはいないけど、私の女心を考えると何となくムッとしてポスっとノアの胸板に耳をつける。
ドクンドクンとゆったりした鼓動が聞こえるけれど、それが私のものなのかノアのものなのか。
「うーん。私、ノアの匂い好き」
「なんだ突然」
「思ったから言っただけ」
ニマ~と笑いかけるたら片手を顔に当てて上を向き、「はあーーー」と思い切りため息。
「それ、他の奴に絶対やるなよ」
「え?どれ?」
「匂いとか、その変な顔とか。特にあの居候の前では」
「でも普通に」
「『はい』しか聞かないからな」
「そんな横暴な……まあ、いいけど」
乙女心は複雑だけど、男心も複雑らしい。
時々ノアだけじゃなくてユーリもよく分からないことで喜んだり悩んだり。
シェリーがいてくれて助かったわ。
この二人の会話についていけるようになったら女に戻れない気がするもの。
思い出すと邸の賑やかさが恋しくなる。
ここにいると、やっぱり私の家は、家族はあの邸の人達なんだって再確認させてくれる。
(家族、か……)
そういえばテオ王子はあんまり上手くいっていないみたいだった。
なにか手助けしてあげたいな。
(そういえばテオ王子、サミュエル陛下が私とテオ王子を婚約させたいって言ってたわよね。私と婚約させるよりは関係の薄い他国の姫を嫁がせた方が和平交渉にもなるし国の利益にも繋がるはず。陛下はテオ王子を信用のおける人と結婚させて家族を作ってあげようとしたとか。考えすぎかしら)
顎に手を当てて「うーん」と唸り声をあげる。
眉根を寄せて天井を向いたり首をひねったり、行動が忙しい。
「ん? 婚約? テオ王子と………隣国の王太子のテオ王子と………婚約ですってっ!?」
「うおっ、急に大声を出してどうした。驚くだろう」
その場で小さく飛び跳ね、目を丸くして驚くノア。
しかし私はそれどころではなかった。
次々と嫌な考えばかりが頭の中を巡り、顔を真っ青にして頭を抱え込む。
『隣国の王太子に対する数々の無礼』
脳裏に過ぎるのは処刑直前の言葉。
読み上げられた罪状の最初の方に確かに聞いた記憶がある。
予感はあったのだ。それこそ名前を聞いたその瞬間から。十九歳の私はそれまで表舞台に立つことは滅多になかった。数少ない外界の人との接触を完璧にこなしていたからこそ、皇女として成功を収めていた。
その数少ない外交で唯一他国の者と接触したことがある。
(どうして忘れていたのよ私………これじゃあもう、手遅れじゃない!)
無礼な振る舞いに説教程度で済まされれば良いが、父との溝は未だ深いまま。
つまり、処刑オンリーウェイ!!
雷が落ちたような衝撃を受けノアに跨ったまま天井に両手を掲げ「あ"あ"あ"あ"っ!!」と何時ぞやのモンスターの如く雄叫びをあげる。
するともれなくノアから「うるさい」とお怒りの言葉が。すみませんでした。
(いえ、待って、まだ挽回できるはずよ!………あの親子二人の仲を取り持てば、今日の事なんて忘れるわよ、きっと………!)
新たな希望の芽生えと無謀な作戦の始まりであった。
目を爛々と輝かせ胸元の高さにある拳をグッと握り込む。背景には大海原の映像がペタリと貼られているよう。
(そのためにはまず二人のすれ違いから元に戻さないとなんだけど………)
まずどうやって仲を深めようか、魔法を使うにしても限度がある。そもそもサミュエルとテオドロスを同時に連れていくなんて可能なのだろうか。
不安要素は減るどころか増える一方。
輝いていた目からハイライトが消えた。
私が考え抜いた案の中で最も有効だと思う意見を取り入れるべく、早速行動に移してみた。
結果は良くも悪くも早く出た。
「はあ!? 朝一で湖の氷全部とかして魚型の立体幻術を作れだと!? 無理だ。嫌だ。やりたくない」
「お~ね~が~い~っ!」
「子供かっ!」
「そうよ。子供だけど悪い?」
「…………」
「お~ね~が~い~っ!」
断られるのは覚悟で言ったけど、実際に断られるとショックが大きいわね。
疲れているところを更に疲れさせるという鬼畜なことをしているのはわかっているのよ。
私は魔法訓練と称してそれを毎日のようにやらされてますけどね。
めげずに一生懸命ノアの背中に腕を回して胸板に顔をグリグリグリ。
「しつこい!」とか「いい加減離せ!」とか口では色々言うけど、行動に移す事はなく複雑な顔。
どんな顔かって言うと、怒っている顔だけど赤くなってて照れてるって感じ。
「………仕方ないわね。かくなる上は、屍になる覚悟で私が朝一で頑張って………」
「わかった。やる。やればいいんだろ、やれば!」
投げやりな感じはあるけど、「やったー!」と素直に喜ぶ。
私が怪我することをとことん嫌がるノアは、魔力切れが起きることによってどこかで怪我して傷つくことを心配していたみたいだ。
(ノアの良心につけ込むようで多少なりとも罪悪感があるけど、きっと許してくれるよね)
ふわぁ~あ、と大きな欠伸。
言いたいことも全部言いきって懸念事項がひとつも無くなったからか、猛烈な眠気に襲われる。
今日一日を振り返れば眠気に襲われたって納得できる。
うつらうつら船を漕ぎ始めてから数分後、ノアを抱きしめながら眠りについた。
次回投稿は16日です




