壁ドン
サラサラの髪。
整った顔。
澄んだ瞳。
たくましい腕。
自分が女性に生まれていたならば恋に落ちてしまいそうなシチュエーションだった。しかし残念ながら、自分は男だし、相手はどちらかというと恋敵である。
相手の目を見ると、真剣にこちらを覗きこんでくる。
「お前、日曜の試合。冬子様の応援にくるんだろうな」
「えっ?」
「えっ?じゃない。来い!!!」
祐貴は叫ぶ。
「な、なんで」
僕は困惑する。
「そうじゃないと困るからだ」
祐貴は、力説する。
そして、再びの壁ドン。
そして、遠くで起こる女子達の黄色い歓声。
「その日は予定があるから……」
僕は目をそらす。
嘘である。
僕はこっそり人混みに紛れて応援にいくつもりだ。
でも、彼氏である祐貴くんにそれがばれたら恥ずかしいので言わないのだ。乙女か僕は、と思いながら心の中でやっぱり言わないと誓った。
「もし、冬子が負ければ俺は旭菱楓と付き合うことになるんだぞ!!!!」
祐貴は、壁をドンと叩く。
「えっ?なんで??」
「俺にも事情があるんだ」
祐貴は遠い目で、昨日のことを思い出す。
旭が去ったあと、勢いよく祐貴は冬子に胸倉を掴まれる。
「また、お前か」
「ギ、ぎぶです。冬子様。俺はなにもしてないです」
後ろから足音が聞こえる。
「冬子様、人目もありますのでそのへんで」
相馬の声だった。
「おおかた、お前に惚れた女の一人だろう。それで、冬子様が目の敵にされているのんだろう」
もう一人。
神室も後ろからやってきた。
「しかし、旭菱楓は日本で五本の指にはいる令嬢。将来的なコネクションとして、付き合ってもよいのではないか。結婚ということになれば、金銭的な問題は解決するが」
「お前、何言ってんの」
祐貴は冬子の手を振り払って抗議した。
「冬子様は上手く負けることは決まっているので、それはいい考えかもな。今後の私達の利益になる」
相馬は淡々と意見を述べた。
「お前も、何言ってるの」
「ふ、冬子様?」
冬子は祐貴を見ながら、にっこり笑う。
「すまない、祐貴。でも、これで丸く収まる。よかったな」
その笑顔はひどく美しく、残酷だった。
「ああああああああああああああああああああ、なんでだよ!!!!!!!!」
祐貴が壁をドンドンする。
「なにがだよ。壁壊れちゃうからやめなよ」
キッと涙目で、僕は睨みつけられた。
「絶対に応援に来いよ!!!!!俺は知らん女と結婚させられるなんて嫌だからな!!」
「えっ、結婚するの???」
「するわけないだろ!!!!俺はまだ、12だぞ!!!!」
「そんなわけないだろ?」
ハルは困惑する。
それだと、うちの妹と同じ年だからな。
エリート特有のジョークか。
「とにかく、絶対に応援して冬子に勝ってもらうんだ。来いよ、絶対だぞ!!!!!!!!」
そう叫びながら、勢いよく祐貴は去っていった。
神崎さんはかわってるけど、神崎さんの彼氏も変だ。
「壁、べこべこじゃないか」
なんて、握力なのだ。
「負けたら、神崎さんと別れるのか」
思わずぽつりとこぼしてしまった。
たとえ彼と別れても、手に入らないのに。
別れればいい。
そんなことを考える僕はきっと嫌な奴なのだろう。




