幕はあがる
時間の流れは等しく皆に訪れる。
戦いの幕もついにはあがる。
望んでも望まなくても、その時はやって来る。
その日曜日はやって来た。
結局、僕は彼女に応援に行くことを黙っていた。
旭稜楓の腕は、世界に通用するものだ。勿論、神崎さんだって、運動神経は抜群だ。でも、フェンシングは授業で少しかじったぐらいだろう。
神崎さんは健闘はしても負けるだろう。
どうせ負けるなら、応援は余計なお世話かもしれない。
なんて。
心のどこかで、神崎さんが恋人と別れればいいと思ってる。
ハルは人混みに紛れながら、透明な水色の髪の少女を遠くから見上げていた。
その凛とした姿は美しい。
黒い艶やかな髪をかきあげ、稜楓は強い翡翠の目を向ける。
すらりとした体だが、適度に筋肉はついている。手に持つサーベルを振り下ろす。空気を切り裂き、ヒュッと音がする。
そのたたずまいは、まごうことなき強者である。
「あら、なかなかの度胸ですわね。逃げずに来るなんて、私はもしかしたら不戦敗かしらと心配していたのよ。ねぇ、神崎さん」
話しかけられ、冬子は顔を上げる。
風に長い髪が揺れている。
「ここまで、お膳立てされては逃げることもできないわ」
透明な深い青い瞳は何の感情も映さない。
こんなに観客が集まってしまっては、いまさら止めたいなどと言い出せない。
「あら、ごめんなさい。ギャラリーが多いほうが楽しい思いましたの。そして、皆さまに教えて差し上げたいのよ」
「何を………」
空気を切り裂く音がする。
「あら、いまのよけたのね」
目は笑っていなかった。
「まだ、試合は始まってないわよ」
たった一本、水色の髪の毛はフィールドに落ちた。
剣先は冬子の頬スレスレを掠めた。
「あら、ご挨拶ですわ」
「そう……」
冬子は動かない。
白い衣装に身を包んだ二人の周りに歓声が巻き起こる。
静かに冬子は、まわりを軽く見た。
あいにくと碧ハルの姿は見つけられなかった。




