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危険分子




 ある日の放課後、相馬ジュリは夕赤く染まる焼けを見ながら歩いていた。


 綺麗だなと素直に思う。こんなに汚染された世界でも、太陽があり、雲があり、恵まれた星だと思った。何処かで間違えなければ、私達と星と同じように美しい緑あふれる環境になっていただろうに。


「えっ?ごめんなさい。聞いてなったわ」

 同じクラスの神室に話しかけられことに遅れて顔を上げる。


 誰もいなくなった通学路を寮に向かって二人で歩く。




 神室は眉間に皺を寄せて、再び口を開く。


「だから、碧ハルは危険だと言ったのだ」

 その言葉に、相馬の方が眉間に皺を寄せる。

「危険ではないわ。なにより冬子様のクラスメイト。良い関係を築いていると私は思うのだか?」

「俺は良くない傾向だと考える。蒼ハルに近づきすぎることで我々の正体がばれることを心配しているのだ」

「そんなことは杞憂ではないか?ばれたとして、彼は口外などしないと思うが」

「それだけではない。祐希のこともだ。最近は餌当番も、俺達には行かせないようにしているような節があるのだが?」

「まぁ、それは、な」

 相馬は僅かに言葉に詰まる。


「冬子様の指示であることは、碧ハルもわかっているようだし。それに我々の仕事は他にある」

 神室はメガネをかけなおす。

「甘い。そういう心の緩みから危険につながるんだ」

「神室の言いたいこともわかるが、どうすることもできないぞ?」

「いや、俺は冬子様に進言する」

「だが、それは……」 

 いつもと変わらない淡々とした表情をしながら、相馬は内心困っていた。


「これを見ろ」

「これは?」

 

 祐希がいつも持っているキャットフードだった。


「キャットフード?」

「そうだ。キャトフードだ。祐希から取り上げてきた」

「それをどうするのだ?」

「存外、お前も鈍いな。つまり、碧ハルの家に俺が行って危険性を調べてくる」

「なに?」

「もちろん、危険と判断した場合は抹殺することになるが」

「馬鹿言え。冬子様の許可なく、彼を傷つけることは許さないぞ」

「相馬は甘すぎる」

「調べるのは、構わん。でも、それ以上は冬子様の側近である私が許さない。蒼ハルには指一本触れるな」


 しばらくの睨み合いの末、神室が観念した。

「わかった。調べるだけにしておくさ」

「そうか。ならば、今日の係は私が碧ハルの代行をしよう。あと、祐希も私の目の届く範囲に置いておこう。くれぐれも乱暴なことはするな」

「ああ、わかってる」

 そう言って神室は寮に帰って行った。







 後日、神室は碧ハルの帰宅時間に合わせてマンションに向かった。気付かれないように足音を消しながら。


「もう、家に帰っている頃合いか」

 玄関の横に餌を置き考える。

 インターホンを押すべきか?


 だが、俺は蒼ハルと面識がない。祐希ではなく俺がきたら、勿論警戒するのであろう。家に入れてくれないのではないだろうか?

 それでは、本人を調べる前に終わってしまう。


 不意打ちで入って、調べさせて貰うか?

 蒼ハルには悪いが、力を行使させてもらう。


 神室は、溜息を吐いた。

 危険分子なら早々に消してしまいたい。

 だが、冬子様の出前大義名分がなければそんなことできるはずがない。とにかく彼が危険だという証拠が欲しい。



「スレイブ!!!!!!」

 神室は玄関前に、スレイブを出現さる。


 そして、情報を解析。


 カチッ!!!!


 ロックを解除させた。

 よもや、こんな芸当は自分にしか出来ないことだ。

 一般人にはここまでの応用は思いつかない。思いついたとして、演算することは難しい。シリウス撤退時にスキルを失った神室は、このスレイブに無限の可能性を感じていた。そして、自分こそがこのスレイブをもっとも的確そして優秀に使いこなせると自負していた。


 学生という立場ではあるが、故郷では博士号を最年少で取得したことで広く名を知られていたからだ。叶うことなら正当な評価をいつか取り戻したい。そんな風に考えていた。


「よし」

 神室はドアノブを回す。

 まぁ、碧ハルには悪いが「スレイブ」で攻撃。そのあとDNAデーターを採収。記憶の閲覧。安全ならば、軽い記憶操作にとどめておく。



 危険分子だった場合は、まぁ事後報告にしてしまおう。


 ゆっくりと家に入っていく。

 靴はどうする?

 日本だし、とりあえず脱ぐか。

 いそいそと神室は靴を脱いだあと廊下を歩く。


 部屋の奥で、複数の機械音が聞こえる。

「なんだ?」

 掃除機?レンジ?洗濯機?

 風呂場の湯の音や、乾燥機の音も聞こえる?


 神室は不審に思い耳を澄ます。

「あ~もう、友達と遊んでたら帰るの遅くなっちゃった。早くしないとハルちゃん帰って来ちゃうよ。オリオン、掃除機の上に乗っちゃ駄目だってば」

 それは、幼い女の子の声だった。


 たしか碧ハルには妹がいたなとぼんやり思いながら、神室は部屋に足を踏み入てこっそりと覗く。

「はっ?」

 そこには異様な光景があった。


 空中には、約五枚のスレイブが展開していたからだ。

 しかも、そのうちの二枚は遠隔操作を行っていた。



 女の子がこちらに気付いた瞬間にスレイブは消え、動いていた掃除機や家電はピタリと止まる。

 神室に視線をを向けて、警戒心をあらわにした。

「誰?」

「いや。今、お前。スレイブを使っていただろう?何をした?」


 神室は思わず問いかけた。


「そんなこと、どうでもいいでしょ。それより誰なのよ?」


 

 淡い亜麻色の髪のツインテールの、蒼ハルの妹と思われるその女の子は険しい表情で神室を睨み付けた。


 

 









 


 








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