神崎さんの彼氏
とっぷりと日が暮れた頃、ハルは家にたどり着く。
彼女とのお喋りが楽しくて、ついつい遅くなってしまった。
「ただいま」
「ハルちゃんお帰り。でも、いつもより遅い」
「ごめん、ごめん」
「ニャー!!!!!」
可愛い妹とオリオンが出迎えてくれる。
「早く、ごはん食べよう。さぁ、ハルちゃん手を洗って来てね」
「うん、わかった」
僕は身支度を済ませて、我が家の食卓に座る。
いつも通りの日常風景なのだが?
「何かおかしくないか?妹よ」
「なにが?」
「いや、おかしいだろう?」
「うーん。レーションの味?いつものレトルトの味だよ。だって温めただけだもの。それともオリオンのこと?トイレも覚えたみたい」
「いや、そうじゃなくてね」
僕は、フォークを握りしめたまま戸惑う。
「テストとか?小学校の勉強はばっちりだよ。心配しないで」
「りこ、非常に言いにくいんだが……」一人多くないか?」
「なに?」
「一人多くないかな………」
「んっ?私、ハルちゃん、オリオン。お兄ちゃんの友達でしょ?多くないよ」
「友達ではない」
我が家の食卓で、平然とレーションを食べてる相手に声を掛ける。
「祐希くん?なぜここにいるですか?」
そこには、美少年こと。神崎冬子の彼氏が座っていた。
「ごはんでもどうかと誘われたんだ」
いや、そうゆうことじゃなくてね。うん。
「えっ?ハルちゃんの友達じゃなかったの?でも、同じ学校だよね?」
あっけらかんと妹が言う。
「友達というか。僕のクラスメイトの神崎さんの彼氏さんだ。しかも、違うクラスだ」
説明がややこしいわ。
「そっか。こんなにかっこよかったら、お手上げだよね。ハルちゃん、元気だしてね。それより、早く食べなよ片付かないからね」
妹が哀れみの表情を向けてくるので、しかたなく僕はれーしょんを食べ始めた。そして、目の前の彼を見る。
「祐希くん、何しにきたの?」
いや、本当に。
マジで。
祐希くんはキリッとした美しい目で、僕を見てくる。これは、女子はイチコロのやつだわ。
「別に。たまたま近くを歩いていただけだ」
そんなわけないだろうが!!!!!
「訳もなく、来ないよね。祐希くん寮だったよね?」
痛いとこをついたのか。祐希くんは黙った。
「お前、さ……」
「お前じゃない。碧ハルだ」
「碧ハルは、その。こないだの件。キャットフードのやつ。冬子に言ったりしたか?」
ああ、気になるのはそれだったのか。
「言ってない。僕は誰にも言わないよ」
「本当か?」
「うん。だからもう帰って欲しい。あと、できたらキャットフードそんなにいらない」
「お前、ちょっといい奴だったんだな」
「碧ハルだよ」
話が終わったところで、妹がお茶を運んできた。
「はい、かなちゃん」
「有難う。りこちゃん」
ブー!!!!!!!!!!
僕は、綺麗にお茶を噴出した。
「おい、汚いぞ。碧ハル」
「何故、うちの妹をりこちゃんと呼ぶ?」
「なんだ。碧りこという名前だろ?」
そうなんだけども。
「妹よ。何故、かなちゃんと呼ぶ?」
「祐希要くんなんでしょう?かなちゃんでいいって、祐希くん言ってたよ」
そうじゃない。
そうじゃないんだ。
なんで、仲良くなってるんだよ。
僕の可愛い妹だぞ。
「もうこんな時間か。俺は帰る、碧ハル」
「それは良かった。もう来なくていいからね」
おや?
なんかムスッとしたぞ。
「はは、もう。ハルちゃんたら冗談ばっかり。かなちゃん、また来てもいいからね」
「うん、そうする」
お前、りこには素直だな。おい。
そして、祐希くんは妹に笑顔で手を振りながら帰って行った。
玄関のドアがパタンと閉まる。
「妹よ。何もされなかったか?」
「されないよ。お兄ちゃんのクラスメイトの神崎さんの彼氏でしょ?」
「それは、そうなんだが」
妹は僕にビニール傘を差し出した。
「傘を返しに来たんだよ」
僕はそれを受け取る。
「でも、どうしたらいいのかわからないみたい。マンションの前で困ってたみたいだったから。ね」
「そう、なんだ」
ちょっと予想外だな。
「うん。だから、そんな悪い人じゃないよ。ハルちゃん」
「そうだな……」
足元にオリオンがやって来て、尻尾を巻きつけてくる。嫉妬や妬みがないわけじゃいけど、祐希要。
「うん、ちょっと。いい奴かもな」




