表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
71/116

069話 君達を守れて良かった


「はぁはぁ……くぅっ…………」


「……はぁ……んっ……」


「すぅー……はぁ〜……」


 八時間にも及んだゴブリンとの戦いは、ゴブリンを殲滅する事で幕を閉じた。冒険者達もみんなのおかげでゴブリンの脅威からアイゼンブルクの街に住む人達が守られた。


 その冒険者達は戦いが終わると息を切らしていて辛そうにしていた。それもそうだろう。なんと言っても八時間だ。疲れない訳がない。途中からゴブリン殲滅に参加したフィーやハピネスラビットのメンバーですら息切れをお子をしているのだから、その疲労度合いが伺える。

 しかしながら、カヤとこの俺だけは疲れはおろか、息切れなんて全くなかった。


 理由は簡単だ。最強のカヤにとっては息をするようにゴブリンを殺せるので、疲れを感じるまでに至らなかったという事なのだ。流石という他ない。

 対して俺は、ゴブリンにほとんど相手されなかったし、俺がゴブリンに近付くと俺から逃げる様に避けていくので、そもそも何もしていない。なので、疲労よりはどちらかと言うと悲しみが貯まっている。


 俺から逃げるゴブリン達の姿が小学校三年生の時の、『かなたウイルスに感染するー! 逃げろー!』って言って逃げていった友達でもなんでもないK君にそっくりだった。しかも、その一言で三年生の間『ウイルス』というあだ名になった。

 それをゴブリン達の逃げる姿を見て思い出したのだから、悲しくもなる。


「結局、俺ってどこに行ってもこんな扱いなのね……トホホ……」


『カナタは落ち込んでるの?』


「いいや……神様の俺に対する扱いの酷さに愚痴を零しただけだよ……」


『カナタがわたしの傍にいるだけで、わたしは幸せだよ?』


「うぅ〜カヤぁ……俺も幸せだぞぉ……」


 俺はカヤを抱き寄せ、ギュッと幸せを噛み締める。

 今までに酷い扱いを受けてきたこんな俺に、これほどの幸せを恵んでくれるのはカヤとフィーくらいだ。特にカヤは、俺やフィーに気配りが出来るとてもいい子さんなのだ。俺からもカヤに幸せを沢山あげたい。


「カナタさんだけズルいです……私だって魔力を切らさずにここまで戦い抜いたのに……」


『わたしね! カナタと同じくらいフィーが好きぃ〜!』


「カヤぁ〜〜!」


 俺の腕の中からスルッと抜けていったカヤは、フィーの大きな胸にダイブして顔を埋めながら嬉しそうに抱きつかれている。なんと羨ましい事か。

 あ、いや、カヤ自らが抱きつかれにいっている事が羨ましいのであって、フィーの大きな胸にダイブした事が羨ましい訳ではないからな? まあ、それがないとも言えないのではあるのだが、今はカヤの幸せを一番欲しているからな。そんな訳でフィーが羨ましいのだ。


「……フィーにカヤを取られた」


「ふふんっ。カヤは私の可愛い可愛い娘のような存在ですからね!」


『お母さん大好き!』


「くぅ〜っ! こんなに可愛いなんて娘じゃなくていっその事伴侶にしたいくらいです!」


「おい待て早まるんじゃない。カヤは俺の娘も同然なんだぞ。伴侶になりたいのならこの俺に挨拶が先だとは思わんかね!」


『フィー? カナタ?』


「ハッ!? た、確かに……ではカナタさん。カヤさんを私にください!」


「どこぞの馬の骨とも分からん奴に、世界一可愛い俺の娘はやれん! それでも娘が欲しいのなら、俺以上に幸せに出来ることを証明するんだな!」



「「「――二人ともお疲れなんだね」」」



「「み、見られてたぁ〜……」」


『あ〜! 二人とも顔が真っ赤になってるぅ〜!』


 近くに来ていたらしいハピネスラビットのみんなにバッチリ目撃されていたようで、死んでしまいたいくらいに恥ずかしい。フィーの方も同感のようで、今までに見た事ないような顔をしていた。

 この顔はあれだ。ベッドの下に隠していたエロ本を俺の目の前で母親が見つけた時の俺の顔と一緒だな。とりあえず殺してくださいって顔。


「うち、フィーさんが演技上手いの知っとるけど、こんな事までするんやね。意外な一面やん」


「カナタさんの方も、普段はあんなにクールな感じなのに、さっきのは何処からどう見ても典型的な親バカにしか見えなかった。もしかすると、あの演技力は諜報活動で培ったものなのかもしれないな」


「あー、カナタさんなら納得だな。博識なのも諜報活動に必要な知識を蓄えたからかもしんねぇな」


「という事は、カナタさんは今までに何度も危険な橋を渡ってきて、時には暗殺をしてきたんですね。もしかすると僕達も……」


「ふん。俺様は暗殺なんてされん」


「はぁ……そんなことあるわけないやん。あれはどう見ても素でやってたに決まってるやん。見てみ二人の顔。殺してくださいって顔しとるやろ?」


「「「あぁ……」」」


 ごめんね! 無駄な期待させてホントごめんね! でも君達が、『そうだ』とも言っていないのに勝手に決めつけて想像したのも悪いからね!

 というか、君達妄想逞しいな。俺も人の事言えないが、それでも君達の妄想力には驚かされる。


「そんなのどうでもいいじゃん! 三人ともとても幸せそうにしてるんだから! それに多分だけど、幸せになった人はもっといると思う! だから私達のやった事は無駄じゃなかったんだよ!」


「そうだな。イレーヌの言う通りだ。俺達や他のみんなが戦って、こうやって幸せの花が咲いてるんだ。喜ばしいことなのは間違いない」


「うんうん! ほら、街にも行ってみようよ! 住民の誘導とかまだ私達に出来ることがあるはずだよ!」


「イレーヌさんの言う通り! 出来ることをするのはとてもいい事だよ。だからというのもなんだけど、住民達の誘導を頼んでもいいかな? 疲れているかもしれないけれど……」


「はい! 元々そのつもりですから」


 唐突なフレッドの登場と共に、フレッドからのお願いを聞いてハピネスラビットは街へと向かって行った。

 あんなに動いていたはずなのに、こんな事までするとは本当に素晴らしいの一言に尽きる。流石は世界を幸せで満たそうとするパーティだ。むしろ、これくらいのことをしないと、世界を幸せにするなんて無理なのかもしれないな。


 と言うように、ハピネスラビットのみんなに関心をしていると、フレッドがこちらを向いて笑みを浮かべたまま俺達の方へ、手を振りながら歩いてくる。


「ゲッ」


「ゲッ、ってなんでそんな酷いこと言うかなぁ。まだ何もしてないのに……そろそろ泣いちゃうよ?」


「おーおー、泣け泣け。で? 何か用なんだろ?」


「その変わり身の速さ感心するよ。でもまあ君の言う通りだね。実は君達にお願いがあってね。住民の誘導をしてくれないかな?」


「それってあれだろ? 避難してた人達が無事に家に帰れるようにするって事でいいんだろ?」


「その解釈で間違ってないよ。どうだい? 頼めるかい?」


「おう。俺は疲れてないし、それくらいならいつでもやってやるぞ。フィーとカヤは?」


「私もやりますよ」


『わたしもー』


「だ、そうだ」


「ありがとう。私はここにいる冒険者達に一言声をかけてまわるから、それが終わったら私もそっちに行くよ」


「おー了解」


 すると、フレッドは俺のところから離れ、近くに居た他の冒険者の元へと駆け寄って行った。…………俺の時は歩いた癖に他のみんなの時は走るんだなぁ。親しい仲だって思ってるからっていうのもあるかもしれないけど、なんか不服だな。

 まあいいか。とりあえず、俺達も街に住む人達の誘導をしに行かなければ。


 そうして、俺はフィーとカヤと共に街まで来た。戦場から一番近い門をくぐると、いつもは少なからず人通りがある道に人影は見られなかった。当然と言えば当然だろう。


「街の人達はどの辺だ?」


「中央かここから反対の門付近かと思いますよ」


「ならまずは中央を目指して移動するか」


 そうして中央へと足早に進み始め、十五分程で中央へ着くと、反対の門の方から街の人達がこちらに歩いてきているのが見えた。ここからうっすら見えた感じでは、みんな疲れてはいるが安心したようなそんな雰囲気だ。


「多分近くに兵士がいるはず。まずはその人に話を通そう。どうやって誘導すればいいか分からんからな」


「こうしてる時間も勿体ないので早速探しに行きましょう」


 そうして俺達は人混みを裂けるように一番端を歩きながら兵士を探した。すぐに見つかると思ったのだがそうでもなく、中々見つからない。

 兵士ならすぐに見つかると思ったのだが、俺の考えが甘かったようだ。こうなったら、兵士に言わずに誘導を始めた方がいいかもしれない。


 そう思った時、フィーが何かを見つけたように声を上げた。


「カナタさん、あの子……」


「ん? あー……泣いてるな。迷子か?」


「多分そうだと思います」


「……まあ兵士探すついでだ。あの子を兵士の所に連れていこう」


「はい!」


 フィーは嬉しそうに俺に返事を返す。

 まあこれくらいは人として当然のことだろう。俺は悪人じゃないしな。フィーもそれを知ってるからこそ、こうやって嬉しそうにしてるに違いない。


 くだらない事を考えながら、フィーとカヤと共に泣いている子供の所へ着いた。


「わぁぁんっ! おかあぁさぁぁん!!」


 やっぱり母親とはぐれて泣いているようだ。大体四、五歳の男の子のようだ。

 フィーはそんな男の子に目線を合わせるためにその場にしゃがんで話しかける。


「ボク、お母さんとはぐれちゃったんだね?」


「ぐすっ……おかっ……うわぁぁん!」


「ほ、ほら、泣かなくても大丈夫だから! ね?」


「うわぁぁん! おかぁぁさぁぁんッ!!」


「うぅ……カ、カナタさん……」


 そんなに目をうるうるさせて俺を見ないで頂けませんでしょうか? うっかり惚れてしまいそうになるんですが……あ、既に惚れてるんだったわ。ははは。


 ……っと、フィーの可愛さに頭がおかしくなってしまった。ここはいっちょ俺が頑張ってみるか。

 お財布から適当な硬貨を取り出してと。


「そこの泣いている君! このコインを見てご覧?」


「ぐすん……う、うん……」


「このコインは右手の中に入れて握るよ? さて、ここで問題です。コインはどこにあるでしょうか?」


「……? ここ?」


 男の子は俺の右手を指さした。まあ、違うんだけどね。正解は左手の中なんだよなこれが。


「残念だけどハズレだよ。正解は……この女の人の髪の毛の中でした〜!」


「!?」


 と言いながら、左手をフィーの髪の中に入れ、あたかも髪の中からコインを取り出したように演出する。

 俺が密かに練習をしてきたマジック。これくらいしかマジックは出来ないが、これで男の子の気は引くことが出来ただろう。


「はい、記念にこのコインを君にあげる」


「あ、ありがと!」


「ところで、君の名前はなんて言うのかな?」


「……アレン」


「アレンくんか。いい名前だね。そんなアレンくんは今まで何をしてたのかな?」


「おかあさんと一緒にひなんしてた。けど、さっきおうちに帰れるっておかあさんがいったから、一緒に帰ってたの」


「そうかそうか」


「おじさんは何をしてたの?」


 お、おじさん……ま、まあ歳も歳だし、この子から見たら俺はおじさんなんだろうなきっと。歳は取りたくないものだな。


「おじさんはね、みんなを守るために戦ってたんだよ。アレンくんやアレンくんのお母さんを守るためにね」


「ホントに!?」


「うん、本当だよ。俺は君達を守れて良かったって思ってるんだ。だから、アレンくんがこんな所で泣いていたら、おじさんも悲しいんだよ」


「……うん」


「でも、もうアレンくんは泣いてないから大丈夫だね! いい子のアレンくんの為におじさんが一緒にお母さんを探してあげるよ」


「あ、ありがとうおじさん!」


 子供は笑顔が一番だ。子供の仕事は遊ぶ事と沢山笑うことだと俺は思ってるからな。とは言っても、俺の子供の時なんてそれの真反対くらいだったな。

 ……思い出すだけで泣けてくるよホント。


「……カナタさんすごいですね」


「ん? まあこれくらいは朝飯前だな」


「一体どうやって私の髪の中からコインを出したんですか!?」


「そっちか!? あ、後で教えてやるからとりあえず落ち着け。な?」


「は、はい……」


「おねえさんも子供だぁ〜!」


「うっ……」


「ははは! そうだね! お姉さんも子供だ!」


『フィーは子供?』


「カ、カヤまで……ぐすんっ……」


 フィーを軽く泣かしてしまいつつ、アレンくんの手をやんわりと繋ぎながら兵士を探して、奥へと進んで行く。

 聞く所によると、アレンくんは近くに住んでいるらしいので、もし母親が見つからなかったら家を一軒一軒見て回るしかないだろう。まあ乗りかかった船だ。それくらいの事はしてあげよう。


 兵士を探すこと十分。ようやく兵士を見つける事が出来た。兵士さんにも疲れが見える。相当気を張っていたのだろう。


「あの、すいません」


「はい、どうかしましたか?」


「この子が迷子のようで……」


「分かりました。こちらで預からせて頂きます」


「ほら、アレンくん」


「う、うん」


 アレンくんは少し不安げだ。だが、俺達もやらなければならない事があるし、それにはアレンくんを連れてはいけない。悲しいが仕方のない事なのだ。

 そう思いつつ、アレンくんを兵士さんに引き渡そうとしたその時だった。


「――アレン!? こんな所にいたのね!?」


「おかあさん! おかあさんだっ!!」


 アレンくんは俺達の手から離れて、母親と思われる人の所へ一目散に走りだした。

 母親に抱かれるアレンくんはとても嬉しそうな顔をしている。


「無事で良かった……!」


「あのねあのね! あの人達が助けてくれたんだ! とっても凄いんだよ!」


「あの人達が……」


 アレンくんの母親はアレンくんと手を繋いで俺達の方へ会釈をしてきた。


「あ、あの、この子を助けて頂いたみたいでなんとお礼をすればいいか……」


「お礼なんてとんでもない。ただ、俺達は冒険者として、アレンくんを守っただけですよ。な、フィー?」


「はい! これくらい当然の事ですよ。ですから、アレンくんの手を今度は離さないであげてくださいね」


「本当にありがとうございます!」


「おじさん、おねえさん、それとカヤおねえちゃん、ありがとうね!」


「おう。もう迷子にならないように気をつけて帰るんだぞ?」


「うん!」


 元気よく返事をしたアレンくんは、母親に連れられて人混みの中に消えていった。何だか寂しくもあり、嬉しくもあり、複雑な気分ではあるが、いいことをすると気分がいいのは間違いないな。


 そうして、俺達は見付けた兵士に事情を話し、住民の誘導をすることになったのだった。


 恐らく次が一章最後の話になると思います。その後、ちょっとした番外編の後、二章に入る予定です。

 それでは、次回もお会い出来る事を願って。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ