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061話 最大限の手助けを


 空堀を作る為に街の外へと出た俺達。

 分かっていた事だが、兵士達の監視が厳しくなっている。いつゴブリンが襲ってきても迅速に対応出来るようにしているのだろう。


「んじゃ、早速空堀を作っていくが……掘る場所と大体の大きさや深さを決めないとな。フィー、どの辺がいいと思う? 俺じゃ経験不足でどこがいいのか分からない」


「そうですね……街からは結構離れていた方がいいですね。でないと、万が一こちら側で戦う事になってしまった場合に狭いと戦い辛いですから」


「なるほど。それじゃ、もう少し遠くに行くか」


 少し街から離れて、おおよそのあたりを付ける。大体四百メートルといったところだろうか。冒険者達の数から考えて、ここら辺が最適なのではないかと考えた。ただ、魔法を放つと考えるともう少し遠い方がいいのかもしれない。

 ……いや、良く考えれば魔法については他の方法があるか。それはおいおいやっていこう。


「ここへんでいいか。じゃ、早速作っていくぞ」


「ちょっといいですか?」


「ん? どした?」


「そのですね……作っていくのはいいんですが、夜までに街を囲む程の空堀を作るのは到底不可能な事だと思うんですけど……」


「それについては恐らく大丈夫だ。なんてったって俺達にはカヤがついてるからな。な、カヤ?」


『うん! ついてるー!』


 フィーは険しい表情をしていて、良く意味が分かっていない事が分かる。そんなフィーの為に少し話をしてやろう。


「フィーは空堀をどうやって掘って行くと思ってるんだ?」


「それは、またカナタさんが知恵を出してどうにかしようとしてるんじゃないかって思ってますけど」


「チッチッチッ。今回は超がつくほどのゴリ押しだ。俺としても知恵を出してどうにかしたいが、それじゃ攻め入られる時間までに間に合わないからな。仕方なくだ」


「ゴリ押しですか?」


「そう。そして、その鍵となるのはここにいるカヤ。カヤなら時間内に出来るはず。確証はないが、カヤはやろうと思えばなんだって出来ちゃうハイパーかわい子ちゃんだからな。多分出来るだろ」


「そんな確実性がないのにやるって言ったんですか? ちょっとビックリです」


「まあ、カヤの『最強』はどこかに住む誰かのお墨付きだからな。俺は何となく出来る気がしてる」


 これは嘘ではない。俺は今までカヤの出鱈目さを直に見てきた。それにテスタもカヤはやろうと思えばなんでも出来るとそう言っていた。

 そんな経験やテスタから聞いた事から、カヤなら出来るという確信めいたものがある。そしてカヤは俺を裏切る事はしないはず。


「じゃあカヤ。俺が言った通りにしてみてくれ」


『わかったー』


 俺はカヤに大きさや深さ、穴を開ける方法を伝え、目の前の場所に伝えた形状の穴を開けてもらうことにした。

 カヤは二つ返事で了承し、早速穴を開ける作業に入る。


 両手を前に突き出し、力を込め始めるカヤ。すると、目の前の土が徐々に盛り上がり始めた。それはたんだん大きくなっていき、最後には鋭い刃物で切り取られたかのように綺麗な立方体の土塊が地面から抜けて宙に浮いた。


「よし、じゃあこっちにその土を持ってきてくれ」


『はーい』


 カヤは俺の言われたように持ってきて、俺の目の前に土塊を置いた。

 見た感じではあるが、大体四メートル位の高さだ。立方体だったので幅も四メートル程だろう。必然的に、穴の大きさもこれくらいだと言う事が分かる。


「どうだフィー? これくらいで十分だと思うか?」


「いいと思いますよ。雑魚ゴブリンなら三から四匹程の高さですし、それにこの幅をゴブリンが飛び越えて来るとは思えません」


「よし、じゃあこの幅でこの深さに決定だな。あとはこの形状の穴を街の周りに開けていくだけだな。んじゃカヤ。今度は素早く本気で穴を街の周り全部開けて来てくれ。カヤなら出来るだろ?」


『できる!』


「よし、じゃあ任せた」


『うん! まされた!』


 そう言ってカヤはえっちらおっちらと地面に穴を開けていく。そのスピードはさっきの比ではなく、さらに掘る穴の大きさも比にならない。幅や深さ事態は変わらないが、横の長さが桁違いだ。

 やはり、カヤなら何とか時間までに間に合いそうだ。後は任せておけば多分大丈夫。


「じゃあ後は――」


「ちょっと待ってください。カヤのあれは何が起こってるんですか?」


「見てわかる通り、土魔法でただ地面を抉ってるだけだぞ。もしかすると他の魔法も複合してるかもしれないけど」


「あんな土魔法は見た事がないですよ。いくらイメージでどうにか出来るといっても限度がありますし、そもそもあれだけの規模の魔法ならすぐに魔力切れを起こすはずです」


「カヤは『最強』って言ったろ? カヤにとってみればあれくらいは朝飯前。多分あれでも丁寧に仕事してるから、土塊は小さいし速さも遅い方だと思う。それに、多分カヤは魔力切れとは無縁の存在だから、永遠と魔法を撃てる」


「…………にわかには信じ難いですけど、こういう時のカナタさんはいつも真実しか言いませんし、多分本当の事なんでしょうね……」


 フィーは遠い目でカヤを見つめる。多分、カヤの出鱈目な強さに心が追いついてないだけだろう。

 追いついた日には、『最強のカヤもそれはそれで可愛い』みたいな事を言い始めるに違いない。そして、少しでもカヤに近付けるようになんて事を言い出して、また変な魔法を作り出すに違いない。ついこの前見た『炎の魔球』みたいな魔法をな。


「そろそろ中断してた作業に入るか。フィー手伝って」


「はい? 私ですか?」


「そうそう。ちょっとこの土塊の上に乗ってくれない?」


「分かりました。乗るだけでいいんですか?」


「乗ったあとにいくつか質問するからそれに答えてもえればいいよ」


 フィーは、はいと一言言うと、高さ四メートル程の土塊の上にジャンプして乗った。

 軽々と飛び乗ったフィーに唖然とするしかなかったのだが、この世界ではこれくらいの身体能力は普通なのかもしれない。これはあくまでも冒険者だけに限った話だが。


「カナタさーん? 質問まだですか?」


「あ、あぁ……。じゃあ、一つ目。飛び乗った感じ楽に行けた?」


「そうですね。これくらいなら簡単です」


「他の魔法使いも同じで楽に行けると思う?」


「それは難しい質問ですね…………でも、恐らく大丈夫かと」


「オッケー。じゃあ次。そこから穴までの距離は結構離れてると思うんだけど、魔法なら簡単に届く?」


「はい。簡単に届きますね。多分この距離なら魔法使いの殆どは届くと思います」


「よし。じゃあ最後の質問なんだけど……ちょっと待っててくれ」


 俺は土塊の所から穴の所まで移動をする。立つ位置は、ゴブリンと戦う際に最前列の冒険者が戦うであろう場所だ。

 土塊からは離れているのでフィーの目線から俺の方を見た時、地面との角度が距離が近かった場合に比べて小さくなる。そうなると、フィー達がゴブリンに向かって魔法を放つ時に、冒険者がゴブリンに被ってしまう可能性があるのだ。


「フィー、もし俺がここにいたとして、魔法を放つ時に邪魔になったりするかー?」


「いいえ。大丈夫だと思います」


「そうか。ありがとう、質問はこれで終わり。後はなるようになるだろう」


 ちなみに、この間カヤはどんどん先にいっていて、今はここからでは視認できない所までいっている。さすがカヤ。仕事が早い。

 そんな事を考えていると、土塊から降りたフィーが俺の方へ歩いてくる。フィーは何か聞きたげな様子だ。多分、さっきの質問の理由だろう。


「カナタさん。さっきの質問は一体何の為だったんですか?」 


「やっぱりな。さっきのはゴブリンと戦う際にあの上に魔法使いを乗せた時、戦えるかどうかを判断するための質問だ。この場にはちょうど魔法使いのフィーがいたから、俺が判断するよりもフィーに判断してもらった方がいいって考えたわけ」


「やはりそうでしたか。薄々は感じていたのですが、何分確証がなかったのでどうなんだろうと思ってました」


「まああれだけ質問して、全く分からないわけないよな」


 ましてや、頭のいいフィーならおおよその当たりはつけることが出来るだろう。


「それで、結果の方はどうなんですか?」


「とりあえず出来るって方向でいこうと思う。後でフレッドに伝えないとな」


「そうですね」


 ここで一旦会話は終了した。次に行動を起こす時は、カヤが一周した時なのでそれまで待っているしかない。

 しかし、ただ待つだけというのも生産性が悪いので、フィーにゴブリンキングについて色々と質問をすることにした。


「なあ、フィー。ゴブリンキングって結局なんなんだ?」


「ゴブリンキングはですね、突然変異で発生するゴブリンの頂点に立つ魔物です。知能は人間並みらしく、ゴブリンキングが生まれる事でゴブリン達に統率力が生まれます。また、ゴブリンキングの配下には、ゴブリンナイトやゴブリンメイジ、更にはゴブリンジェネラルなんて言う突然変異種が発生する場合があります」


「そうなのか。大方予想通りだな。でも、フレッドが言っていたんだが、悪いタイプのゴブリンキングだったって事は、悪くなければこんな事態にはならなかったんだろ?」


「はい。過去に一度だけ、良心に富んだゴブリンキングがいたそうで、その時はゴブリンの生活力の向上が見られたそうです。また、ゴブリン達の知能も飛躍的に上昇し、私達人間と会話が出来たと言う逸話も残っています」


「で、そのゴブリン達はどうなった?」


「ゴブリンキングが寿命で死んだ後、徐々に衰えていき、他のゴブリンとなんら変わらなくなったそうです」


「なるほどな。ゴブリンキングっていうのはそこにいるだけで絶大な効果があるのか。これはちょっと骨が折れるかもしれないな……」


「ゴブリンキングは私達の討伐対象ですし、どんな事が合ってもやらない訳にはいきませんよ」


「それは重々承知さ。だからこそ、こうやって他の冒険者が楽に戦えるように準備してるんだし」


「そうそこです! なぜカナタさんが他の冒険者が楽に戦えるようにしなければならないのか分からないです。や、でも、するとしないのとではする方が圧倒的にいいので、やってもらってる事は嬉しいんです。ですが、なぜそれをわざわざ頼まれてもないのにカナタさん自らがする必要があるんでしょうか?」


 フィーは首を傾げる。

 まあフィーの言ったように、確かに俺がこんな事をする筋合いは全くない。フレッドに頼まれてる訳でもないし、誰かにやってくれと言われた訳でもない。ただの自己満足だ。


 でも、こんな事をするには立派な理由がある。俺にはある考えがあって、それに伴いこうやって空堀を掘っているわけだ。ただ、その考えというものが成功するかは微妙なところなのだ。

 そうだとしても、やらないよりはやった方が戦闘は有利に進むだろうし、結局俺はやってただろう。


「俺がこんな事をするのは、ゴブリンキングを倒すまでの注意を引き寄せる為と、倒したあとの統率力を失ったゴブリン達を楽に倒せるようにという考えから来てる。とはいえ、今までゴブリンキングと戦った事なんてないから上手くいくかどうかは分からないし、逆に邪魔になる可能性もあるからどうなるかは分からない」


「カナタさんは他人の為にこんな事をしてるという事ですか?」


「まあ、半分はな。ゴブリンキング達の注意を引くことが出来れば、俺達も動きやすいし、倒した後に冒険者達の役に立つなら一石二鳥だし。最大限の手助けをすれば、俺達にも最大限の効果が得られるってわけ」


「でも上手くいくかどうかは分からないんですよね?」


「そう、そこがネックなんだよな。まあ、なるようになるだろ。万が一の時はフィーとカヤがいるし。その時はよろしく頼むな」


「万が一は起きて欲しくないですけどね。とりあえず分かりました」


 ゴブリンキングについては少しだけだが知る事が出来た。フィーも俺がしている事の意味を理解はしてくれているし、多分大丈夫だ。

 戦闘が始まったら恐らく混戦になる。こちら側が防衛戦になる事は分かっているので、少しでも負担が減らせれば嬉しい。ぜひとも俺の考えている事が上手くいって欲しいものだ。


「そういえば、もうそろそろカヤが帰ってくるんじゃないか?」


「え? もうですか?」


「ほら、噂をすれば」


 カヤの姿が消えた方とは反対の方からカヤの姿が見えた。穴を開ける作業に慣れたのか、初めに見た時よりも、効率が上がっている様な気がする。多分気の所為ではないだろう。

 それに加え、何だかカヤが楽しそうだ。穴を開ける作業に喜びを得ているのだろうか。そういうのは犬の習性のひとつだと思うのだが……。


 あ、いや違った。カヤは、土塊の中から出てく虫を見て笑ってるのか。俺、虫はあんまり好きじゃないから笑えないぜ。


『変なのがいるー! あははっ!』


「カヤ……楽しそうですね」


「あぁ楽しそうだな。俺としては教育を間違えた子供を見てる感覚なんだけどな」


「奇遇ですね。私もです」


『カナター! フィー! 変なのいるー! 持っていこうかー!?』


「「ばっちいからやめて! ほんとに!」」


『はーい……こんなに面白いのにな……』


 俺とフィーはしゅんとするカヤに心を痛めながら、それでもこれだけは譲れないと心を鬼にするのだった。


 虫、キライ、てんとうむし、触れない、見る、嫌。みなさん、嫌い?


 では、次回、会う、出来る、願って。

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