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ねこと一緒に転生しちゃった!?  作者: 十六夜 九十九
異世界生活編

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060話 いいのか、駄目なのか


 何も無い何も存在しない虚空に佇んでいる神、テスタ。彼は今、全身を神達の力によって拘束された状態で幽閉されていた。

 神の力で拘束された者は身動ぎ一つ取ることを許されない。そんな状態に陥っているはずの彼は、そんな事お構い無しに笑う。


「キミ達は今恐れているんだね! いいよ……いい進歩だよ! その感情! その思い! その気持ち! これはボクからの忠告だよ。それらの感覚を覚えておく事だね。さもなければ、キミ達は今後この次元が消滅するまでなんの進化も出来ないからね」


 テスタは不敵に笑う。拘束されているはずなのに、神達の中で最大級の罰が下っているはずなのに、彼は尚も笑みを消さない。彼は一体何を胸に笑い続けることが出来ているのか。それは彼自身にしか分からない。

 神達はそんな彼をおかしいとして罰している。だが、彼の言ったように何かを恐れていた。それは彼の理解が出来ぬ底知れない何かなのか、それとも彼の関わった人間が何かしらの異常をきたしてしまうのではないのかという懸念なのか、神達ですら分からない。


「キミ達は少しずつ変わり始めているよ。今はそれが堪らなく怖いだろう? 恐ろしくて恐ろしくて異常な者は排除したくなるだろう? でもそれは正常なんだよ。これこそ君達が進化を始めた証なのだから!」


 あはは、とテスタは声を上げる。

 彼だけが分かる変化。彼にしか分からない変化。それは彼がその変化を一度体験しているという事の証明でもあった。

 神達はその事に薄々気付いている。それこそ、これ程の変化を遂げたテスタの異常性がこの次元を破壊していまうのではないかと考えるくらいには。だからこそ彼を拘束し幽閉しているのだ。


「あぁ……ホントに楽しみだよ。この次元が発展していくのをこの目で見られるかもしれない。こんな何も無い、ただつまらなく何もすることのない『娯楽』なんて言葉がないこんな次元が……あははっ! 想像するだけで楽しくなっちゃうね!」


 彼は笑う。こんな状況ですら、楽しむ要素でしかないと言わんばかりに。


 そこへ、神々を代表した一柱の神が、空間を超えテスタの元へと訪れた。


「"楽"」


「あれ? "哀"? こんな所に何しに来たの? もしかしてキミもここに幽閉されてしまうくらいになっちゃった?」


「我はそなたに聞いておきたいのだ。あの人間――カナタについて。あの人間は一体何者なのだ。神にしか成しえないはずの未来の分岐。可能性の収束。確率の操作。それらを何故あれほど容易くやってのける? 我には分からぬのだ。教えてはくれまいか」


「――キミは分からない事が怖いんだね。恐ろしいんだね。そして困惑し、知ろうとしてるんだね。あぁ……キミにはやっぱり期待してしまう! キミだけは他の神とは違って一歩先を進んでるのが分かるよ!」


 テスタは興奮気味になり、早口で捲し立てるように言う。その矛先が向いていた『哀』は、バツが悪そうに一度も変えたことのなかった表情を困惑の形に染めた。

 それがどれだけの進歩なのか、その事にどんな意味があるのか、彼女にそれらを気付くような気配はなかった。けれども、テスタにはその変化が堪らなく嬉しかった。その変化が見れたことが堪らなく心を奮わせる。


「……そんな事はどうでも良いのだ。ただ……そう……分からない事を知りたい(・・・・)……それだけなのだ……」


「いいよ。ボクを楽しませてくれるキミには特別に教えて上げる。あれは『人間の可能性』そのものさ。でもあれは意識して使ってる様子は無いから、無意識の内にその可能性を引き出してるんだろうね」


「『人間の可能性』……そなたが以前言っていた事か」


「そうさ。人間の可能性は馬鹿に出来ないよ。もしかすると、ボク達神をも超える存在になれるかもしれないんだからね。ボクはそんな人間の可能性を眺めていて一つだけ気付いた事があるんだよね」


「そなたの事だ。その気付いた事とは何であるかなど、我に教えてくれはしないのだろう?」


「うん。教えてあげない。あんまり答えを示しすぎると進化にならないからね。キミはキミ自身でボクが気付いた事は何なのか考えた方がいい。多分すぐに分かるよ。それ程までに顕著に現れてるからね」


 テスタは『哀』に向かって微笑む。彼は自分の微笑みで自分自身もまだまだ進化の余地がある事に気付いた。何せその微笑みは、今までとは違って話していて自然に出てきたものだったのだから。

 彼は嬉しさのあまり、動けもしない体を動かそうと必死になる。彼にとっての進化とはそれほどのものなのだ。


「"哀"。キミはやっぱり特別だよ。キミと話しているとボクもどんどん進化していく。ボクにはこの進化は止められない。そしてキミもね。だからもし良かったらカナタにキミの名前を付けてもらうといいよ。そうすれば進化は一気に早まるから」


「…………検討しよう。では我は行く」


「うん、くれぐれもボクみたいに捕まったりしないでね!」


「我は幽閉される事態は招かない」


 彼女はそのまま去っていった。テスタからは後ろ姿しか見えなかったが、訪ねて時よりも幾分か軽い足取りをしていたように感じていた。


 神の進化の兆しは篝火程度だが確かに見えた。その事にテスタは今のところ満足する。そして、カナタの行く末がどうなるのか思い浮かべる。


「あぁ……本当にカナタは凄いよ。キミが! キミの存在が! 神々を進化に導くんだ! 今後もキミの行く末を見守ってるからね!」


 彼は何も無い何も存在しない虚空に佇んでいる神。だが、その心の中には他の神には無い"感情"という未知のものが大きく揺らいでいた。




   ◇◆◇◆◇




 盾を不用意に使わないと決めてから一ヶ月。

 この一ヶ月間に討伐依頼を何度か受けてきたが、そもそもの話、盾を使う間もなくカヤが全て処理してくれていた。さすがだと思うと共に、俺の決心は一体なんだったのかと疑問を持ち始めている。

 だから、いつ何時のために持ってはおくが使う機会はそう訪れないだろうと、最近はそう思っている。


 だが、俺は忘れていた。こういう気が緩んだ時に毎度毎度何かしらの事件が起きる事を。


 今日はいつもと違ってフィーと共に仕事をすることになっていた。

 と言うのも、近々俺は階級(ランク)が上がる予定で、階級(ランク)が上がると他人との連携が増えてくるらしく、その練習のためにフィーが付き合ってくれるというのだ。俺としてはなんとも有難い話なので断る理由もなく、今日は少し気合を入れていた。


 俺とカヤ、そしてフィーはいつものように協会へと足を向ける。すると、協会に冒険者が集まりに集まり、今まで見た事がないような人だかりが出来ていて何やら騒がしくなっていた。


「なんだあれ?」


「この感じ……スライムの時と似てます…………もしかして!?」


「悪い予感……ってやつか……」


 俺達は人だかりを掻き分けて協会の中へ押し入る。中は中で人がすしずめ状態になっており、俺の場合精神的にきつい。人混みに酔わなくなったと言っても、これでは気分が悪くなるのは必至だ。


「うえぇ……はきそ……」


「我慢してください! こんな所で吐いたらさらに吐きたくなりますよ!」


「うっぷ……だ、だな……我慢する……うえぇ」


 俺は必死で吐き気を堪え、フィーとカヤに手を引かれながら騒ぎの中心へ向かう。

 天井しか見えないので正確な事は分からないが、感覚では受付に向かっているように感じる。既に何かしらの話が受付の方からされているのかもしれない。


「着きました。カナタさん、大丈夫でした?」


「お、おかげ様で……」


「それは良かったです。……で、この騒ぎは一体……」


「あっ、いました! フィーさんとカナタさん! それとカヤちゃん! こっちですこっち! こちらへ来てもらえませんか!」


「この声はエレナさん? どこから?」


『こっちー! ついてきてー!』


 俺はまたしても手を引かれながらエレナの元へ向う。助けられてばかりとか、自分自身が情けないわ……。これは本格的に精神を強くする必要があるのかもしれないな。


「さあ、中に入って下さい」


「ありがとうございます、エレナさん」


『ありがとー』


「あ、ありが――おえぇ……」


「カナタさんにはお水をお持ちしますね」


 俺達は受付の裏へ連れてこられた。俺は休む事が出来るので有難い事なのだが、何故連れてこられたのかイマイチ理由が分からない。

 そもそも、この騒ぎは一体何なのか話も聞かなければならない。今の俺では無理そうだけど……マジで精神を鍛えよう……。


「はい、カナタさん。お水です」


「あぁ、ありがとう……」


 俺はエレナから受け取った水を飲み干した。これで、ちょっとは気分も良くなった。吐き気はまだあるが、これくらいなら話を聞くくらいなら大丈夫そうだ。


「エレナさん。この騒ぎは一体なんですか? もしかして、去年と同じようにスライムが?」


「いえ、少し違います。似てはいますが、去年と比べると危険度が今回の方が高いです。このことについては支部長から御三方へ話があるそうなので、その際にお聞きして下さい」


「支部長が直々にですか?」


「はい。今回はそれだけの急を要しています」


 エレナはそれだけ言って、忙しそうに仕事へ戻って行った。見る限り、相当に切羽詰まっている様子だ。この事態はそれだけ危険ということなのだろう。フレッドがフィーに話をするという事からもその事が窺える。


 そして待つこと数分。フレッドが俺達の元に姿を現した。目の下に隈をつくり、やつれているようで、いつもの様なハイテンションではない。フレッドも苦労しているようだ。


「やぁ。三人ともよく来たね。早速だけど、事態は急を要しているから手短に話すよ。ここから一番近いゴブリンの村にゴブリンキングが現れた。それも特別悪に染ったやつが。しかもだよ、そのゴブリンキングが手下を連れてこの街に攻め込まんとしている。恐らく今日の真夜中から明日の朝の間にこの街へ到着する。だから君達三人には――」


「ちょちょちょ! ちょっと待ってくれ」


「なんだいカナタ君?」


「いや、あまりにも突飛過ぎて状況が飲み込めてない。そもそも、ゴブリンキングとか言う奴が来るなんて、そんな予兆なかっただろ? なぜ急に?」


「予兆はあったよ。最近少しゴブリンの数が増えていただろう? あれは恐らく攻め入る前の偵察ゴブリンだと思う。こちらとしても気を付けていたのだけど、まさかこんなに早く事態が動くとは思ってなかったんだよ」


「でも、どうやってそれに気付いたんだよ?」


「気を付けていたと言ったろう? こちらもゴブリンの村まで偵察を行かせたんだよ。そして帰って来た偵察の冒険者が報告してくれてね。ホント、偵察に行かせる日が一日遅れていたらこの街は壊滅してたよ」


「ゴブリンキングが悪に染ったやつってのはその偵察が言ったのか? だとしたらどうやって見分けたんだ?」


「……カナタ君ごめんね。説明してあげたいのは山々なんだけど、これ以上は時間を無駄に出来ない。だから本題に行くよ。三人にはゴブリンキングを倒して欲しい。と言うよりも、倒してくれ。これは支部長としての私からの命令だ」


「命令……ですか?」


 フレッドは疲れも相まって、力強い眼力で俺達を見つめる。こんなに真剣なフレッドは見た事がない。フレッドは本気だということが分かる。


「そうさ。この事態はこの街の冒険者達を緊急招集し、全員でことに当たることになっているんだ。けど、この街の有力なパーティであるハピネスラビットは今遠征で居らず、大幅な戦力ダウンをしてしまってる。だから、この戦いには私も参加する。私は冒険者達を従えてこの街に入らせないように防衛戦をする。でもそれじゃジリ貧になる事は想像にかたくないし、兵力の少ないこっちがやられてしまうかもしれない。そこで、君達三人は単独でも一つのパーティ並の戦力を有している程だから、私達とは別行動を取ってもらって、ゴブリンキング一体を狙ってもらおうと言う訳だよ」


「なるほど。それなら私達がやらない訳にはいきませんね」


 俺はフレッドの言わんとしている事は分かっているつもりだ。俺達が他の冒険者とは比較にならない程の力を持っているから、ゴブリンキングは俺達に任せたと言っている。

 けれど、それには不可解な点がいくつかある。それについてフレッドは考慮しているのだろうか。


「おい、フレッド。一つだけ聞きたい事がある」


「なんだい?」


「ゴブリンキングを倒せば、他のゴブリンは逃げるのか? その辺はどうなんだ?」


「いや、逃げないよ。ただ、統率力を失ってみんなが倒しやすくなる」


「……そうなのか。これは確認なんだが、街を囲むように空堀を掘っても大丈夫か? 後でどうにかして埋めるから」


「今からかい? 今からじゃ到底無理だと思うけど……」


「そんなのは今はどうでもいい。いいのか、駄目なのか、それだけ教えろ」


「そりゃあ空堀が出来るなら戦闘が楽になるし、出来ることならしてもらいたいよ」


「分かった。どうにかしてみよう。カヤ、行こう」


『はーい!』


「あ、ちょっとカナタさん!」


「フレッド。ゴブリンキングの事はとりあえず任された。無理だった時はすまん」


 俺はフレッドにそれだけを言い残し、空堀を掘るためにカヤを連れて街の外へ急ぐ。後ろからはなんだかんだ言いながらフィーが付いてきているのが分かる。


 今回の件はこの街全体を巻き込んだ大きなものだ。この街には知り合いがいるし、守りたい人だっている。だから、俺に出来る事ならなんでもやるし、フレッドの命令でなくたってゴブリンキングを倒すために本気を出すつもりだ。

 そのために、戦いが始まる前にこっちが有利になる事は全てやる。空堀はその一貫だ。


 ない知恵を振り絞り、出来るだけ多くの人が傷つかない方法を探し出す。誰かが傷つけば、絶対に誰かが悲しむ。これは実体験からきている話だ。

 俺が死んだ時、佐倉は泣いていた。あの時味わった気持ちを他の誰かが感じるのは心苦しくなる。

 だからこそ、一人でも多くの誰かを助けたいと思う。誰かの手助けをしたいと思う。自己満足かもしれないが、俺がやりたい事だ。

 何を勝手に、と批難されることもあるかもしれない。でも、そんなのは地球にいた時には日常茶飯事だったからもう慣れている。傷付くかもしれない誰かを一人でも守れるならやらないよりはやる方がいいから。


 俺は心の中で、今まで関わって来た人達の顔を思い浮かべる。みんながみんなが笑っていて、幸せそうにこの街で暮らしている。そんな人達の生活を守りたい。そう強く思った。


「カヤ。絶対にみんなを守ろうな」


『うん』


「私の事も忘れないで下さい! 全くもう……支部長の話を最後まで聞かずに出て行っちゃうんですから」


「時間が惜しいからしょうがなかったんだ。まあ、分かってくれ」


「はぁ……しょうがないですね。今回だけですよ。その代わり、後で何をしようとしてるのかちゃんと教えてくださいよ?」


「ありがとうフィー。ちゃんと教えるよ」


 フィーとカヤの優しさに触れて一番に守りたいものを再認識する。

 そんな守りたい人達と共に、俺は自分のやりたい事をするために街の外へと急いだのだった。


 異世界生活編最後の戦いが始まります。今までの大きな戦いではフィーだけでしたが、今回の戦いでは初めて奏陽が加わる事になります。どうか、色々と弱い彼を応援してあげて下さい。

 それでは、次回もお会い出来る事を願って。

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