第14話 つむ、ダンジョンは行かない
土曜日の朝——。
今日は、お母さんのお仕事がお休みの日!
朝ご飯を食べ終わって、お姉ちゃんはリビングでテレビを見ている。
お母さんは台所でお皿を洗っていた。
ちなみに今日の朝ご飯は、フレンチトーストだった!
ふわふわで、甘くて、すっごくおいしかった!
つむは二枚食べた。
もう一枚食べたかったけど、お母さんに「お昼ご飯食べられなくなるよ」って止められた。
だから二枚。
そんなつむは今——。
テレビの前で、腕を組んでいた。
「…………」
テレビでは、朝からやってるアニメが流れている。
正義のヒーローたちが、悪いやつと戦うお話。
つむも毎週見てる。
今日もヒーローたちは、町のみんなを守るために一生懸命戦っていた。
『この力は、みんなを守るためにあるんだ!』
「おおー……!」
かっこいい!
きらきらしてる!
『どれだけ怖くても、僕たちは戦う! この力を持っているから!』
「…………!」
つむはテレビをじっと見る。
力を持ってるから、戦う。
みんなを守るために。
「…………」
つむも、持ってる。
そうぞうさん。
すごいものを作れる、すーぱーなスキル。
ピコピコハンマーも作れた。
お薬も作れた。
お母さんを元気にする腕輪も。
お姉ちゃんを守ってくれるお守りも。
だったら——。
「…………」
つむは考える。
お母さんは、いつもお仕事で疲れてる。
だから、もっと元気にしてあげたい。
お姉ちゃんだって、この前みたいに怖い目にあってほしくない。
もっともっと、すごいものを作れたら。
二人をもっと守れるかもしれない。
でも、すごいものを作るには——。
「ぽいんと……」
生産ポイントがいる。
いっぱい作ればポイントは増える。
でも、もっとすごいものを作ろうと思ったら、もっといっぱい必要になるかもしれない。
それに。
ダンジョンには、いろんなものがあるってお姉ちゃんが言ってた。
モンスターもいる。
でも、いろんな素材もある。
探索者さんたちは、それを持って帰ってくる。
「…………」
だったら。
つむは、立ち上がった。
「お姉ちゃん! お母さん!」
「んー?」
「なにー?」
お姉ちゃんがテレビから顔を上げる。
お母さんも、お皿を洗いながらこっちを見る。
つむは胸を張った。
「つむは決めた!」
「……何を?」
「どうしたの、急に」
二人とも、きょとんとしてる。
でも、つむは真剣。
すっごく真剣。
「つむ——」
大きく息を吸う。
「ダンジョンに行く!」
「駄目」
「絶対駄目!」
「はやい!」
二人ともすぐだった!
お姉ちゃんなんて立ち上がってる。
お母さんも、お皿を洗う手を止めてる。
「紬」
「な、なぁに?」
お母さんが来た。
顔が怖い。
怒ってる時のお母さんだ。
「この前、約束したよね?」
「やくそく?」
「ゲートを見つけても近づかない。モンスターがいたら逃げる」
つむも覚えてる。約束した。
「ダンジョンなんてもってのほかです」
「でも——」
「駄目」
「まだなんにも言ってない!」
「ダンジョンに行くってところでもう駄目だから」
お姉ちゃんまで!
「紬、この前怖かったでしょ?」
「……こわかった」
思い出す。
赤い目。
大きな爪。
お姉ちゃんが倒れた。
怖かった。
すっごく怖かった。
もう会いたくない。
「だったら、行かなくていいの」
お姉ちゃんが、つむの前にしゃがんだ。
「紬が何かしなくても大丈夫だから」
「でも……」
「このお守りだって作ってくれたでしょ?」
お姉ちゃんが、つむの作ったお守りを見せる。
ちゃんと持ってくれてる。
「これだけで十分嬉しいよ」
「…………」
「お母さんも」
お母さんが、自分の腕を見せてくれた。
そこには、つむが作った腕輪。
今日もつけてくれてる。
「これ、本当に嬉しかった」
「ほんと?」
「本当」
お母さんがつむの頭を撫でる。
「だから、これ以上、紬が危ないことをする必要なんてないの」
「…………」
「お母さんたちのために何かしようとしてくれるのは嬉しい。でもね」
お母さんの手が、つむのほっぺに触れる。
「紬が怪我したら、お母さんはそのほうがずっと嫌」
「……でも」
「でも?」
つむは、お母さんを見る。
お姉ちゃんも見る。
「つむ、すーぱーなスキルもらったから」
「……スーパー?」
「そうぞうさん!」
つむは胸を張る。
「そうぞうさん、すっごいんだよ!」
「それは……うん。知ってる」
「だから!」
つむは、さっきテレビで聞いた言葉を思い出す。
力を持ってるから。
みんなを守るために。
「すごい力もらったから、そのぶん、つむもがんばらないと!」
「…………」
「…………」
二人が黙った。
あれ?
「おねぇちゃん?」
「……お母さん」
「うん」
「今日のあれ、見せるのやめようか」
「そうね」
「なんで!?」
つむはテレビを見る。
ちょうどヒーローがかっこいいポーズを決めていた。
『みんなは僕たちが守る!』
「かっこいいのに!」
「影響されすぎなのよ!」
「むぅ……」
だって、かっこよかった。
「とにかく」
お母さんが、つむの両肩に手を置く。
「ダンジョンには行きません」
「うん!」
「……うん?」
お母さんが止まった。
お姉ちゃんも止まった。
「……紬?」
「なぁに?」
「今、なんて?」
「ダンジョンには行かない!」
「…………」
「…………」
二人が顔を見合わせた。
「え?」
お姉ちゃんが瞬きをする。
「行かないの?」
「うん!」
「でも、さっき『ダンジョンに行く』って……」
「つむが行くんじゃないよ?」
「…………」
「…………」
また二人が黙った。
「じゃあ、誰が行くの?」
お母さんが聞く。
「まだいない!」
「はい?」
「これから作る!」
つむは元気よく答えた。
お母さんとお姉ちゃんが、また顔を見合わせる。
「……作る?」
「うん!」
つむはテレビを指差した。
ちょうど画面の中では、悪いやつが笑っていた。
『ゆけ! 我がしもべたちよ!』
悪いやつの後ろから、いっぱいの怪人が出てくる。
自分では戦わない。
代わりに、みんなを動かしてる。
「今日のわるいやつ見て、思ったの!」
「……嫌な予感しかしない」
お姉ちゃんが呟いた。
「わるいやつ、自分で戦ってない!」
「まあ……そうね」
「かわりに、いっぱい戦ってる!」
「……そうだね」
「だから!」
つむは両手を広げる。
「つむも、つむのかわりを作る!」
「…………」
お母さんが固まった。
お姉ちゃんも固まった。
「つむはダンジョン行かない!」
怖いもん。
絶対行きたくない。
「モンスターにも会わない!」
もう見たくない。
「だから、つむのかわりにダンジョン行ってくれるのを、そうぞうさんで作る!」
完璧!
これなら怖くない!
「…………」
「…………」
なのに。
二人とも何も言わない。
「どうしたの?」
「いや……」
お姉ちゃんが額を押さえる。
「どこから突っ込めばいいのかなって」
「?」
「まず、正義のヒーローを見て『自分も頑張らなきゃ』ってなったところまでは分かる」
「うん!」
「なのに、なんで最終的に参考にしたのが悪役なの?」
「だって、あたまよかった!」
「そこ!?」
お姉ちゃんが大きな声を出した。
「自分で行かなくても、かわりに行ってもらえばいいの!」
「……まあ、理屈だけならそうだけど」
「でしょ!」
「褒めてないよ?」
「?」
お母さんは何も言わない。
腕を組んで、難しい顔をしている。
「おかあさん?」
「……紬」
「なぁに?」
「確認するけど、紬自身は絶対にダンジョンには行かない?」
「いかない!」
「ゲートにも近づかない?」
「ちかづかない!」
「モンスターとも戦わない?」
「たたかわない!」
怖いから。
つむは全部、元気よく答えた。
「…………」
お母さんが考え込む。
「でも、お母さん」
お姉ちゃんが言う。
「《創造》で何を作れるか分からないよ」
「そうなのよね……」
「作ったものが危険だったら、それはそれで困るし」
「うん……」
二人が難しい話を始める。
つむは首をかしげた。
作れるかどうかなら——。
「そうぞうさん!」
ぴこんっ。
《質問を確認しました》
「あ、でた!」
「……何て聞くつもり?」
お姉ちゃんが嫌そうな顔をする。
「つむのかわりに、ダンジョン行ってくれるの作れる?」
ぴこんっ。
《意図を確認します》
少し待つ。
《工藤紬の代わりにダンジョン内部を探索し、素材の収集および持ち帰りを行う生産物を希望しますか?》
「…………」
難しい。
「そうぞうさん、かんたんにして」
ぴこんっ。
《表現を簡略化します》
《つむのかわりに、ダンジョンへ行って、いろいろ持って帰ってきてくれるものを作りたい?》
「それ!」
お母さんとお姉ちゃんには文字が見えてない。
だから、つむが教えてあげる。
「つむのかわりにダンジョン行って、いろいろ持って帰ってきてくれるの作れるか聞いてる!」
「……それで?」
お姉ちゃんが恐る恐る聞く。
つむは文字を見る。
ぴこんっ。
《回答を表示します》
《可能です》
「できるって!」
「…………」
「…………」
二人が、また固まった。
「やったぁ!」
つむは両手を上げる。
これならダンジョンに行かなくてもいい。
怖いモンスターにも会わなくていい。
それでも、ダンジョンからいろんなものを持って帰ってきてもらえる。
そうしたら。
もっといっぱい作れる。
もっとすごいものも作れる。
お母さんをもっと元気にできるかもしれない。
お姉ちゃんをもっと守れるかもしれない。
「よーし!」
つむはテレビの悪いやつみたいに、びしっと前を指差した。
「つむのかわり、作るぞー!」
「……ねえ、お母さん」
「なに?」
「やっぱり、この番組見せるのやめたほうがいいんじゃない?」
「……ちょっと考える」
「なんでー!?」
テレビの中では、正義のヒーローたちが悪いやつをやっつけていた。
つむが一番勉強になった悪いやつは、今日も負けていた。




