プロローグ
探索者たちの間には、一般人が閲覧することのできない場所が存在する。
探索者専用掲示板。
その中でも、Dランク以上の資格を持つ者だけがアクセスを許された匿名掲示板。
そこでは今日も、探索者たちが情報を交換していた。
———
195 : 名無しのCランク探索者
なぁ、博士の噂聞いたか?
196 : 名無しのBランク探索者
なに?
またそこら辺の新人探索者をモルモットにでもしてた?
197 : 名無しのAランク探索者
……博士絡みか。もう聞きとうない。
198 : 名無しのDランク探索者
Aランク探索者が嘆くって……何したのその人。
199 : 名無しのBランク探索者
↑新人か?
俺達も詳しく知ってるわけじゃないが、一言で言うならマッドサイエンティストとサイコパスを足して、さらに10倍したようなやつだ。
200 : 名無しのDランク探索者
怖すぎん?
201 : 名無しのCランク探索者
まぁ、もちつけ。
色々噂されてるが、実際に博士の姿を見たやつはいない。
ただ、存在自体は確認されてる。
博士が現れるのは決まって、探索者がダンジョン内で命の危機に晒された時。
そして——博士が現れた探索者は、全員助かってる。
202 : 名無しのDランク探索者
え?
じゃあ普通にいい人じゃん。
ヒーローじゃん。
203 : 名無しのCランク探索者
それだけならな。
他の探索者が現場に着く頃には、瀕死だった探索者は傷一つ残さず完治。
博士の姿はどこにもない。
しかも現場近くにいた探索者は、みんな似たような証言をしてる。
「変な声が聞こえた」
「鼻歌と一緒に、傷を抉ってるような音が響いてた」
「幽霊みたいな声だった」
「ゴースト系のダンジョンかと思った」
「ちびった」
んで最後には、全員こう言う。
「あれは……人間じゃない」
204 : 名無しのDランク探索者
ひえっ……
205 : 名無しのBランク探索者
探索者用掲示板がオカルト板になってるんだが?
206 : 名無しのCランク探索者
でも助けてくれるんだろ?
207 : 名無しのBランク探索者
そこが一番怖いんだよ。
博士が出た現場の探索者、全員傷一つ残さず完治してる。
欠損まで治ったって話もある。
208 : 名無しのAランク探索者
ある。
俺の知り合いだ。
腕を失った。
博士が現れた。
翌日には生えてた。
209 : 名無しのDランク探索者
………………。
210 : 名無しのCランク探索者
でも助けてくれるなら、やっぱりいい人じゃん。
211 : 名無しのAランク探索者
……だから余計に怖いんだよ。
212 : 名無しのDランク探索者
なんで?
213 : 名無しのAランク探索者
これは何度話しても虚言扱いされるんだが、俺が実際に見た話だ。
博士が消えた後のダンジョン。
血まみれの床。
その上には、完璧に治された探索者。
そして——。
その身体の上に、小さな人形が置かれてた。
214 : 名無しのBランク探索者
人形?
博士かわいい趣味してんじゃんw
215 : 名無しのAランク探索者
その人形が突然、
ギギギギッ——
って音を立てた。
次の瞬間、首だけがグルンッと180度回って俺を見た。
216 : 名無しのCランク探索者
やめろ。
やめてくれ。
217 : 名無しのAランク探索者
それから人形の口が動いた。
「お怪我はありませんか?」
218 : 名無しのAランク探索者
俺はそこで意識を失った。
次に目が覚めた時には、自分のベッドの上。
おわり。
ちな実話
219 : 名無しのBランク探索者
だれか……一緒にトイレ行かない?
220 : 名無しのCランク探索者
同行しよう。
221 : 名無しのDランク探索者
俺も。
222 : 名無しのCランク探索者
もう博士の話やめようぜ。
223 : 名無しのDランク探索者
賛成。
224 : 名無しのBランク探索者
ところで博士って何歳なんだ?
225 : 名無しのCランク探索者
知らん。
226 : 名無しのAランク探索者
知らん。
227 : 名無しのDランク探索者
性別は?
228 : 名無しのBランク探索者
知らん。
229 : 名無しのCランク探索者
そもそも人間かどうかも知らん。
230 : 名無しのDランク探索者
…………。
231 : 名無しのBランク探索者
やっぱりオカルト板じゃねぇか。
232 : 名無しのCランク探索者
草
———
一方その頃、その《博士》と呼ばれる存在は――。
小さな手で鉛筆を握りながら、学校の机に向かっていた。
「……ここ、もうちょっと丸くしたほうがかわいいかな」
工藤くどう紬つむぎ。
ただ今小学二年生、8歳。
彼女こそが、探索者たちから畏怖される《博士》本人だった。




