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3/3

君を傷つける奴は、私が許さない

ベルタとソフィアが城に現れたのは、よく晴れた昼下(ひるさ)がりだった。


二人は、あらかじめ用意してきた台詞を楽しげに練習していたらしい。


「かわいそうなエレナ。さぞやつれて……あら?」


応接間に通された二人の言葉が、途中で止まった。


そこにいたのは、骨でも、やつれた囚人でもなかった。


最高級のドレスをまとい、髪には大粒のダイヤを飾り、ソファに腰かけた――わたしだった。


「お母さま。ソフィア。ようこそお越しくださいました」


わたしは、ゆっくりと微笑んだ。


ソフィアの顔が、みるみる引きつる。


「な……なんなの、その格好。その宝石……どこから盗んだの!?」


「盗む?」


その時、背後の扉が開いた。


クロードが入ってくる。


ベルタとソフィアは、噂の怪物公爵を前に、さっと顔を(あお)ざめさせた。


「これはこれは。公爵様。妻が、ご迷惑をおかけしては――」


「迷惑?」


クロードは、わたしの隣に腰を下ろすと、当然のように肩を()き寄せた。


「私の妻ほど、この城に光をもたらした存在はない。彼女の身につけているものは、すべて私が贈ったものだ。文句があるのかな」


ベルタの口が、ぱくぱくと動いた。


「だ……男色家、では」


「ああ、あの噂か」


クロードは()ややかに笑った。


「悪い虫を寄せつけないための嘘だよ。たとえば――君たちのような」



「ところで」


クロードの声が、すっと温度を下げた。


「フォードリック伯爵家。借金の証文(しょうもん)を買い集めさせてもらった。エレナの父君が遺した領地を、君たちが食い潰した記録もすべて、ね」


ベルタの顔から、血の気が引いていく。


「そして、これは何かな」


彼が差し出したのは――母の形見の指輪だった。


「妻の母君の形見を、勝手に売り払ったそうだね。買い戻すのに、少々骨が折れたよ」


「そ、それは、その……」


()()()()()()()()()()()()()()()


クロードはわたしを見て、約束のように(ささや)いた。


それから二人へ向き直り、氷の刃のような声を放つ。


「証文はすべて私の手にある。今日この瞬間から、フォードリック家の全債務の取り立ては、私が行う。――覚悟しておくといい」


ソフィアが、ひっ、と悲鳴をあげた。


「お、お姉さま、助けて……わたくしたち、家を失ってしまうわ!」


失う、ではない。もう動き出している。来週には公爵家の使者が屋敷に向かい、調度も領地も差し押さえ、残った召使いも解雇される――ハンナが手配の控えを、わたしにそっと見せてくれていた。


「その結婚、本当は……わたくしのものだったのに」


ソフィアが床を見つめ、絞り出すように(つぶや)いた。玉の輿を逃した嫉妬(しっと)が、絶望に塗り替えられていく。


わたしは、母の指輪をそっと指にはめた。


ぴたりと収まる、懐かしい重み。


「あなたたちが教えてくれたのよ」


静かに、けれどはっきりと言った。


「家族でも、誇りまでは売らない。――わたしは、最後まで顔を上げていたわ」



ベルタが、よろりと膝をついた。


姫のように大切にされる継子(ままこ)


向けられる、本物の公爵の溺愛(できあい)


それは彼女たちが「絶望」として差し出したはずの、未来の姿だった。


「う……あ……」


言葉にならない(うめ)きを残し、ベルタはそのまま気を失った。


ソフィアも、嫉妬と絶望の入り混じった顔で、後を追うように崩れ落ちる。


二人がハンナに連れ出されていくのを見届けて、クロードがふっと息をついた。


「怖がらせたかな」


「いいえ」


わたしは首を振り、彼の手にそっと自分の手を重ねた。


「あなたがそばにいてくれるなら、わたしはもう、何も怖くありません」


クロードは目を見開き――それから、世界一幸せそうに微笑んだ。


「では、宣言しよう」


ひょいと、わたしを横抱(よこだ)きに抱え上げる。


「君は私の、たった一つの国宝だ。これから先ずっと、誰よりも大切にすると」


窓の外には、わたしのために作られたバラ園が、満開に咲き誇っていた。


怪物に嫁いだはずのわたしは、今、世界でいちばん愛されている。


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