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道具師ジェマ、所有者固定魔道具師への道。5  作者: こーの新


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 ジェマは残された2通の手紙を手に取る。



「えっと、こっちがグラスさんからで、こっちはストレリチアさんからね」


「先にグラスの方から開いてくれ」


「うん、分かった」



 カウンターに置いてある椅子に腰かけ、手紙を開く。ジャスパーとジェットはジェマの肩に飛び乗ってひょっこりと覗き込む。



「えっと、冒険者ギルドとの提携、だって」


「ピ?」


「つまりね、定期的に冒険者ギルドにお薬や武具を販売するの。普通なら道具師ギルドで販売しているものを冒険者ギルドが買い取るのが普通なんだけど、仕入れの3分の1を私への指名に切り替えたいらしいの。その代わり、私が欲しい素材があれば優先的に卸してくれるって」


「それはまた、良い大口顧客を得られそうだな」



 ジャスパーとジェットは顔を見合わせて思わずにっこり。ジェマの腕が認められたからこその指名だ。けれど当のジェマは困り顔。



「そう、なんだよね。だけど今だって売り上げが伸びて商品を作りながらだと接客が間に合わないくらいなのに。これだけの量を接客しながら作るのは、難しいかも」



 移動しながら道具を生み出すことができるジェマでも、接客中はお客様のためにも作業は中断している。お客が増えることは嬉しいものの、接客の時間が増えれば作業も滞り在庫も薄くなってくる。その状況で新たな依頼を安請負することは、職人としても商売人としてもジェマ自身が許せなかった。



「確かに、我やジェットでは販売はできないからな。誰か人を雇うか?」


「それも考えたけれど、道具師が人を雇う時は確実に信頼ができる相手でないといけないから」



 道具師が扱う商品には、日常遣いの道具だけでなく希少な素材を使った精密な道具もある。そして何より信用が大切な商売でもある。もしも身元の怪しい人物を雇い入れて商品を盗まれて転売されれば、道具師は信用を失い職を奪われることになる。


 大抵は道具師ギルドが介入して身辺調査を終えた人物を雇い入れるか、同じ道具師の元で学んだ兄弟弟子同士で店を開くことが一般的。そして何より、街中に店があることが一般的だ。



「魔物がうじゃうじゃしている森に丸腰でやってくるやつは……アベリアくらいしかいないな」



 ジャスパーは肩をすくめる。この森は魔物も精霊も多く暮らしている。魔物に襲われる危険性も、レーパズのような森の精霊に悪戯をされて迷子になってしまうこともある危険な場所。こんな場所に好き好んで働きにやってくる人はそういない。



「アベリア、よく無事だったよね。帰りも少し心配ではあったけど」


「まあ、アベリアは大丈夫だ」



 ジェマとジャスパーは顔を見合わせて思わず微笑む。アベリア自身が自覚しているかは分からないものの、アベリアは強力な精霊に愛されている。精霊が見えない彼女には感じ取れなくても、常に1柱の力ある精霊が彼女を守り続けている。



「あれって、愛された物に生まれる精霊だよね?」


「恐らくな。アベリアが髪を結っている髪留めはかなり年季の入ったものだった。誰かからもらった時点であの精霊が付いていた可能性もあるし、アベリアがあれを大切にする上で生まれたものかもしれない。確かなのは、アベリアが相当愛されているということだな」



 精霊の気持ちは精霊本人にしか分からないこと。精霊とは心のままに生きるもので、心が離れてしまえばあっさりと消滅を選ぶ者もいる。消滅には痛みもなく、寧ろ破壊される前に逃げ出さなければ、宿主が壊されるときに痛みに発狂することになる。精霊が消えたものは、ただの物体になる。なんの力もなく、ただそこにあるもの。


 ジェマはふとジャスパーを見上げる。



「もしもジャスパーが消滅したら、世界はどうなるの?」



 ジャスパーはその問いに漆黒の瞳を見開く。大地の精霊であるジャスパーが消滅すれば、大地に生命は宿らず、枯れ果てていく。作物は育たず、水は濁り、動物も魔物も人間も、等しく滅んでいくことになる。


 ジャスパーは頭の中に浮かびかけたイメージを振り払って鼻を鳴らすと、蹄でぐいっとジェマの頬を押した。



「そんなことはしない。我は太古の精霊だ。この世界を、ジェマとジェットを守るのが我の使命だからな」


「……それもそうだね」



 ジャスパーの気持ちを察して、ジェマは微笑んで再び手紙に視線を戻す。言葉は言霊としていつか必ず現実に現れる。全てを明かさないことが世界のためになることだってある。



「まあ、この件は一旦置いておくとして。こっちも読むね」



 ジェマは空気を切り替えるようにストレリチアからの手紙を開く。ジェマはストレリチアと話したことはないけれど、有能な解体師だと聞いていた。



「え、嘘っ」



 手紙に目を通していたジェマは喜びに満ちた声を上げる。ジャスパーとジェットは揃って首を傾げた。



「どうしたんだ?」


「ピィ?」


「コマスとの境の山にローテンドが確認されたって!」


「ほう、ローテンドか」


「ピピィ……?」



 ジャスパーは懐かしい名前に目を細め、ジェマはこくこくと何度も頷き喜びを表す。ジェットだけは初めて聞く単語にぐりんと首を傾げていた。



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