042
あたしは、はっきりと感じた。
首に感じる違和感、胸の鼓動。
全ては、厄災の風と対峙するためにあたしは生き延びてきた。
そして、とうとう出会った。
それは風の塔の上から、降りてきた。
風泣きの塔は、異界のテクノロジーが働いていて空が飛べない。
透明の何かが上に伸びる螺旋階段から、猛スピードで下ってきた。
唯一見えたのは、長い二本の足。
肉付きが良くないが、虫のような足だった。
「あれが、テュポーン」レッカが唇をかみしめた。
「だけど、魔力でまだ擬態している」
パノムは、あくまで冷静だった。
テュポーンの全身の姿を、見ることはできない。
だが、長い二本の足ははっきりと感じられた。
「アイ、あなたはスライムを任せられる?」
「大丈夫です」
風壺から湧き出るスライムに対し、大きなハンマーを持って立ち向かうアイ。
そのまま、風壺から出てきたスライムを叩き潰した。
あたしと背中越しに、相棒にスライムを任せていた。
そのまま、あたしたちは前を向いた。
(これを倒せば、あたしは自由だ)
探していた敵が、ようやく手が届くところいた。
テュポーンの呪い、チュラッタがかけた呪い。
透明で、長い足だけ出てきたテュポーン。
これを倒せば、あたしは呪いに殺されることはなくなるのだ。
ガルアも拳を構えて、テュポーンを見ていた。
「アイツ、まだ魔力が残っている」
呟いたガルア、それと同時に……テュポーンが動いた。
足のようなモノが、バネになって飛び上がった。
同時に透明な何かのテュポーンの前に、スライムが現れた。
「召喚も、相変わらずするのね」
レッカが、すぐさま背中の白い羽根を一本取り出した。
小瓶の酒を口に含み、口元で吹きつけると、氷の冷気が羽根に纏って水色に変化した。
『フローズンフェザー』で、レッカがスライムを凍らせていく。
レッカと同時に、パノムも羽根を取って口元で息を吹きかけた。
パノムの『フレイムフェザー』を、投げつけようとしたとき……透明な何かが一気にパノムの背後に迫った。
そのまま、二本の短い細い手が姿を見せた。
長い足同様、手もかなり細い。
「パノム、後ろっ!」
ガルアが、透明なテュポーンに殴りかかっていた。
しかし、透明テュポーンは二本の手でパノムの背中に張り付いた。
張り付かれた瞬間、はっきりとテュポーンの体が透明で無くしっかりと見えた。
黄色い虫……巨大化したイナゴのような体でパノムの背中にしがみつく。
六本の足が、腹から映えていて、頭も完全なイナゴ。
二本の触覚も生えていて、大きな二つの黒い目のようなモノが見えた。
一瞬、テュポーンがあたしを見ながら笑っているようにも見えた。
そのまま、テュポーンが……パノムの体の中に入った。
テュポーンの体が霊体のように、パノムの体に吸い込まれた瞬間パノムの目が大きく見開いていた。
苦しそうな顔で、その場にしゃがんでいた。
「うおおおっ!」
悶え苦しむパノムに、レッカが心配そうな顔で近づく。
「パノムっ!」
「来るなっ!」
心配するレッカに、パノムが制した。
だが、苦しみは数秒で収まった。
顔を上げた瞬間、頭に触覚の生えたパノムが不敵に笑っていた。
「まさか……」
「テュポーンが、パノムを乗っ取った」
ガルアと、あたしも驚いていた。




