023
エインガナ、別名『死の竜』。
エインガナの放った針が、ガルアに直撃。
あたしを庇って、ガルアが受けた針。
あたしは険しい顔で、空飛ぶ大きな黒い蛇を睨んでいた。
ドラゴン族だろうか、ギザギザのドラゴン翼をつけたエインガナ。
針を受けてガルアに心配の声をかけたいが、エインガナは雨の空で威圧感を放って泳ぐように飛ぶ。
ガルアが最後に言い残した言葉の意味を、あたしは教わっていた。
エインガナが、放ったのは『死の針』。
生物を死に至らせる呪いを持った針を投げつける、エインガナの技。
不意打ちで使うことが多い技で、あたしは反応できなかった。
庇ったガルアは、そのまま呪いにかかって落ちてしまった。
(コイツは隙を見つけたら、一気にやられる)
エインガナの姿を目視で確認したあたしは、弓を構えた。
はっきりしたことは、コイツがテュポーンを呼び起こした厄災。
あたしは、絶対に倒さないといけない。
そして、あたしの見ている前でエインガナが大きく口を開けた。息を吸い込む。
(これが、ドラゴン系ならば……きっとブレスを吐くはず)
あたしは、すぐさま翼を動かした。
黄色い翼を動かし、全速力で上に飛び上がった。
(エインガナより、上方に飛ぶ。吐いた後には、攻撃をするチャンスだ)
だけど、エインガナは息を吸い込んだままこちらに向かってきた。
「体当たりか」
エインガナが見せてきた、長い体のフェイントだ。
口元に息をほおぼったまま、あたしに突進した。
あたしを目がけて飛び込むエインガナに、体を反らせた。
翼の動きを止めて、落ちながらエインガナを避けた。
「ふうっ」大きな息を、吐くあたし。
だけど、エインガナの巨大な蛇の体は協力だ。
(こいつ、まるであの時のメリジェーヌに似ている)
蛇の胴体が、特にそっくりだ。
頭は蛇と言うより、蜥蜴だ。
息を吐いたり吸ったりする姿は、完全にドラゴン系だ。
それでも、あたしは敵の姿を視認して弓を構えた。
「だけど、これだけ大きければ……」
冷静に、弓に矢を装填していく。
装填した矢は、緑色の矢。
逃げるエインガナに、大きな蛇の体に狙いを定めて放った。
放たれた矢は、猛スピードでエインガナに命中。
鱗に、傷をつけて飛んでいった。
回避行動を取る間もなく、あたしの矢が当たった。
間髪入れずに、緑色の矢を装填。
連続で矢を放ち、次々と命中。
胴体が長い分、あたしの矢は当たりやすい。
緑色の鱗が、ドンドン傷つけられていた。そこでエインガナが、体を反転させていく。
「あっ、逃げた」エインガナは、あたしから離れるように向かっていく。
あたしは、チラリと落ちたガルアを見ながら前を向いた。
ゾンタ空域の下の雲には、ガルアが倒れているかもしれない。
だが、あっさりと逃げたエインガナ。これはチャンスだ。
このまま、エインガナを放ってはおけない。
(ガルア、今はすまない)
ガルアに心で謝りながら、あたしはエインガナを追いかけに空を飛んでいった。




